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25.言葉

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「ジャニス……あぁ、元気になって良かった。本当にあなたなのね?」

 アメジストの潤んだ瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。その姿を見てジャニスティは彼女の頭をゆっくりと撫でると、微笑みながら優しく声をかけた。

「はい、間違いなく」

 その言葉を聞きアメジストは、その艶のある白く美しい頬を可愛いピンク色に染めると、幼い子供のようにわんわんと泣き出し謝り始めた。

「ご、ごめんなさ……私、グス。どしてもっ……ジャニ、とレヴ、の子……しんぱぃ、で」
「はい、ありがとうございます」

 彼の胸から離れ一生懸命に話し説明をするアメジスト。その頬をぽろぽろと伝うたくさんの涙にジャニスティは右手で優しく触れ、拭う。それから真剣な眼差しで身体は真っ直ぐ向き合うよう体勢を変え、彼女の話を黙って聞いていた。

 アメジストは記憶がないという彼へ、もう一度自分が此処へ来た理由、そして何故ジャニスティの部屋へ入ってしまったのか、その説明から入った。

 廊下で出会った話をすると「そうですか、この子が……お嬢様、この子と一緒に居てくださって、ありがとうございます」そう穏やかな表情で答えるジャニスティ。

 約束を破り勝手に部屋の近くへ来てしまった事。ジャニスティがいなくなってしまうのではないかという、不安。そして思いつきで後先考えずに取った行動への、恐怖。

 様々な思いに涙が溢れ泣いていたアメジストであったが、まるでデジャブのように同じ言葉を発したジャニスティを見て、彼女は思わず笑った。

「うふふ……」
「アメジスト様、いかがなさいましたか?」
「いえ、いいの。何でもないわ」

――あなたはいつもそうだわ。どんなに自分が辛い時でも優しく温かい心を持ち、包み込んでくれる。

「それなら良いのですが……」
 ジャニスティは少し不思議そうにしながらも、笑顔が戻った彼女の顔を見て微笑み安心していた。

 しかし彼には、分からない事があった。

「お嬢様、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「え、えぇ。どうしたの?」

 急に少しだけ固く厳しく感じる雰囲気に、緊張感が高まるアメジスト。

 ぎゅーっ。

「……ん?」
「えっと?」

 深刻そうな空気。そんな二人の間に入り座ったのは、すっかり元気になったレヴシャルメの子である。

「うぅ♪」

 左手でジャニスティの手、右手でアメジストの手を満面の笑みで握っている。言葉がなくとも、まるで三人の繋がりを喜ぶように。

 その気持ちはふわりと自然に、二人の心へ伝わってきた。
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