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23.覚醒
しおりを挟むジャニスティの呼吸が落ち着いたのは数分後。
しかし力の強い男性の身体を必死で押さえていたアメジストにとっては、とても長い時間に思えた。
「なんだ……何が起こった?」
完全回復とまではいかないが、すっかり魔力は戻り我に返ったジャニスティ。驚いた事に清々しい気分で、深い眠りから目覚めた時のようだった。
(今、何時だ……こうしてはいられない。早く動かなくては)
そう頭では分かっているが、さすがに回復したばかりの身体は思うように動かず、重く残る疲労感が拭えない。多少の頭痛を感じ右手の甲を自分のおでこにトンっと落とすように当てる。仰向けに眺めている天井は、なぜかいつもより明るくはっきりと見える気がした。
「いつもと身体の感覚が、違うな」
そしてまた無意識に瞼が閉じ、眠りへ向かおうとしたその瞬間、ふと何かが乗っている事に気が付く。
思考回路がまだ追いつかないジャニスティは、何だろうかとおでこに当てていた右手を、自分のお腹辺りへ伸ばしてみた。するとふわふわとした柔らかな温かいものに触れ、それは彼の荒れた心の森に安らぎを感じさせる。そしてぐったりと動かせずにいた左腕を心臓の辺りへ持っていくと、手触りの良い絹がジャニスティの細く長い指につるると絡んでは、心地良く解けた。
――経験した事のない満悦感。枯れたこの身体が潤うようだ。
疑心にも勝る幸せな感情にジャニスティは、ただただその水に満たされていった。
「んぱぁ!!」
幸せな余韻の中、いきなり飛び出してきた顔と声。まるで夢から覚めて! と言わんばかりにジャニスティの顔十センチ程まで近づき、覗き込むレヴシャルメの子。くりくりの愛らしい瞳で嬉しそうに見つめてきた。
「君か。随分げん、き……に……」
(ちょっと待て。この子が、私の横にいるという事は)
「まさか?!」
ジャニスティは、上に乗るふわふわとした心地の良いものを両手で優しく抱き、ゆっくりと支えながら起き上がる。抱えた腕の中で起こっている光景に、彼は目を疑った。
「何故、そんな……どうして部屋にいらっしゃるのですか!」
夢と現実の狭間で、苦しみ意識が朦朧としていたジャニスティは、アメジストが傍で看病を続けていた時間の記憶が無く、彼女の声が聞こえていたのは全て夢の中での出来事だと思っていたのだ。
「アメジスト様!!」
いないはずの彼女が何故か部屋に。そして今、目の前で起こっているその状況を、ジャニスティは受け入れられずにいた。
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