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19.追憶

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 誰かが呼び掛けるような声、冷たくなった自分の手を握る温かな手、おでこに触れる柔らかな何か。

(あぁ、あの日が見える)

 彼が目を覚ましたのは、ほんの少しの時間。

 ジャニスティはうっすら一瞬だけ瞼を動かし、瞳が少し見えた。が、しかしまたすぐに眠りについてしまう。

――夢と現実の狭間で見た、昔の記憶。

(そうだあの日から……私は生まれ変わったのだ)



「おい、ジャニー! もう店閉めるぞ、早くその酒飲んで出ていってくれよ! またあした~だ」

「あ、あぁ」
 静かに返事をすると、目の前のグラスに入った赤い飲み物を一気に飲み干す。そしてグラつく足元を必死に動かしながら店を出た。

「ジャニー、お釣りは?」
「あ、いらね」
「へへっ、毎度です。また来いよ~」

(うるさい奴だ。どいつもこいつも……)

 此処は街のはずれにある、暗闇の住む場所。そこには自分を見失い、信じる心を閉ざし、最後の時間を過ごすために来た者ばかりが暮らしている。人生の終わり、幕を下ろすという意味で陰では“終幕村”と呼ばれていた。

「他で、飲み直すか」
 そうポツリと一人呟き、しかしその言葉とは裏腹にその場に片膝を立て座り込み、項垂うなだれた。

(俺は何をやっているんだ)
 そう考えていると自然と零れだす涙。心の奥深くに根付いてしまった悔しさと哀しみ、そして自分の不甲斐なさに対しての涙、だった。

「――今更何を泣く事がある? 恰好悪いな、俺」

 顔を自分の腕で隠したまま、その涙は容赦なく流れる。そこへ誰かが、優しい口調で話しかけてきた。

「やぁ、こんばんは。一人かね?」

 声に気付き、少しだけ顔を出す。

「誰だ? 此処はあんたみたいな身なりの良い金持ちの来るとこじゃないぜ」
「いやいや、これは突然失礼。しかし私は君に会いに来たんだよ、“ジャニー”君」

 会話の間すぐに涙を落ち着かせていた。名を呼ばれやっと顔を上げる。そして顔色一つ変えずに「俺に何の用だ?」と、抑揚なく言葉少なに答えた。

 身なりの良い男性はにこりと笑うと、話を続けていく。

「私と取引をしないかい?」
「取引?」
「なぁに難しい事ではない。そうだな、君が今そうなってしまった理由を私は知っている。そしてその人生リベンジをしてみないかと提案に来た、といったところだ」

(俺の過去を知るだと?)
「フッ、リベンジだって? ははっ! 面白い……あんた名前は?」

――「ベルメルシア=オニキスだよ」



 あの日、この家に拾われたお陰で私は今、ここにいられる(生きてる)のだ。
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