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その想い、夜空に描いて(unrequited love)
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――秋は、切ない。
今日も肌寒い風は傷をつけるように、悪戯に頬へ触れながら去って行く。それは秋のはじまりだというのに、空気はひんやり冷たくて、なんだか痛くて、呼吸出来なくなるほどに胸が苦しい。
(会いたい)
どんなに思っても、口に出すことはない。
どんなに願っても、会うことは出来ない。
何気ない毎日の中で、いつの間にか自分の一部のようになっていた空間。自分がいてもいなくても変わらず進んでゆく非現実世界で、あなたがいない現実世界。
ふと気付いてしまった、自分のキモチによそ見して。
「そう、これはきっと……秋風のせい」
足早に、その不確かな心緒が棲む場所から去って、意識を離していこうとした視界は潤み、ゆらゆらと歪み始める。するとなにかが心の内から溢れでて、流れても流れても終わらない包泣に疲れ果てた。
どのくらい、時間が経っただろうか。
また一瞬、強く吹いた風に手を引かれるようにどこかへと誘われ、暗くなり始めた空を見上げる。
枯れずにまだ、頬を伝う涙を、隠すために。
そして、思う。
(この広い空は、どこまでも、どこまでも、繋がっているのにね)
それでも届かない、届けられない。
大空高くどこまでも、見たことのない未知が広がっているのと同じように、繋がりの先にあるあなたが存在する光景を、見ることは不可能で。
――いつか必ず会えるからなんて、気休めの絵空事。
だからその優しくて穏やかな言の葉にだけは、甘えさせて。
空想のスクリーンに映し出される美しい後ろ姿を想像して、思い浮かべて、ふと呟く。
「あなたがここにいなくて、本当は寂しくて仕方がないの」
――おかしいでしょ?
見たことも、会ったこともない、声すら聞いたことのないあなたを、狂おしいくらい恋しく想うなんて。いなくなっちゃう前に追いかけようとして……あてもなく探してみても。
結局どこにいるかなんて、当然知り得ない。
それでも。
一文字一文字に胸が熱く締め付けられて、恋しくて、絶対に触れられない、触れてもらえないことが悲しくて、ただただ苦しいから。
いつか手のひらに乗せていた花のように、この心身を愛でてほしい。この濡れた頬を包みこんで、涙にキスをして。
ギュッ――“壊れるくらい”に抱き締めて、愛してほしい。
(寒い夜も肌を寄せ合って、温め合えたらいいのに……)
独りぼっちじゃない、なぁんて夢心地なことを想像してる。それからまたすぐに、叶わぬ想いに悲しくなって泣いちゃう。
――震える心に感化されて、変わっていくキモチ。
「どうしたらいいのか、わかんなくなっちゃうよ?」
だめだよ、この気持ちはなかったことにするから。そうやって忘れられるようにと、ゆっくりと瞳を閉じて眠りにつく。
そんな夢の中でひとり、座り込んだのは、美しい星空が見守る森の世界。そこで見つけた妖精の住む切り株には、月光の通り道が視えた。そこで出会ったちいさな可愛い妖精たちが――『その想い夜空に描いて』と教えてくれる。
目が覚めた瞬間に薄れゆく記憶の中でも、ずっと色濃く鮮明に残っている、その美しい場所。
「あの森に、なんだか見覚えがある」
それは“夢”の中で自分の心が生み出した空想。そうだと頭では解っていても、ココロ赴くままに行ってみようと考えた。
(気持ちを、この切ない想いを、夜空へと……)
その夜、大きな月に案内されるように辿り着いた切り株には、キラキラと輝く月光が木の葉に揺られて舞い踊る。
「不思議……夢で見た場所と同じ」
夜空の黒いキャンバスに文字を書くように、空気を優しく撫でる。あなたへのキモチを、この広い宇宙の彼方へ飛んでほしいと。
想い描いても聴こえることのない“言の葉”を、詠うような秋風とざわめく葉音、月から伸びる光に乗せるように。
あなたまで届けてほしい、そう願った。
(逢いたい……)
それは、みえない言葉。
叶わぬ恋。
――美しき透明の『love letter…』
今日も肌寒い風は傷をつけるように、悪戯に頬へ触れながら去って行く。それは秋のはじまりだというのに、空気はひんやり冷たくて、なんだか痛くて、呼吸出来なくなるほどに胸が苦しい。
(会いたい)
どんなに思っても、口に出すことはない。
どんなに願っても、会うことは出来ない。
何気ない毎日の中で、いつの間にか自分の一部のようになっていた空間。自分がいてもいなくても変わらず進んでゆく非現実世界で、あなたがいない現実世界。
ふと気付いてしまった、自分のキモチによそ見して。
「そう、これはきっと……秋風のせい」
足早に、その不確かな心緒が棲む場所から去って、意識を離していこうとした視界は潤み、ゆらゆらと歪み始める。するとなにかが心の内から溢れでて、流れても流れても終わらない包泣に疲れ果てた。
どのくらい、時間が経っただろうか。
また一瞬、強く吹いた風に手を引かれるようにどこかへと誘われ、暗くなり始めた空を見上げる。
枯れずにまだ、頬を伝う涙を、隠すために。
そして、思う。
(この広い空は、どこまでも、どこまでも、繋がっているのにね)
それでも届かない、届けられない。
大空高くどこまでも、見たことのない未知が広がっているのと同じように、繋がりの先にあるあなたが存在する光景を、見ることは不可能で。
――いつか必ず会えるからなんて、気休めの絵空事。
だからその優しくて穏やかな言の葉にだけは、甘えさせて。
空想のスクリーンに映し出される美しい後ろ姿を想像して、思い浮かべて、ふと呟く。
「あなたがここにいなくて、本当は寂しくて仕方がないの」
――おかしいでしょ?
見たことも、会ったこともない、声すら聞いたことのないあなたを、狂おしいくらい恋しく想うなんて。いなくなっちゃう前に追いかけようとして……あてもなく探してみても。
結局どこにいるかなんて、当然知り得ない。
それでも。
一文字一文字に胸が熱く締め付けられて、恋しくて、絶対に触れられない、触れてもらえないことが悲しくて、ただただ苦しいから。
いつか手のひらに乗せていた花のように、この心身を愛でてほしい。この濡れた頬を包みこんで、涙にキスをして。
ギュッ――“壊れるくらい”に抱き締めて、愛してほしい。
(寒い夜も肌を寄せ合って、温め合えたらいいのに……)
独りぼっちじゃない、なぁんて夢心地なことを想像してる。それからまたすぐに、叶わぬ想いに悲しくなって泣いちゃう。
――震える心に感化されて、変わっていくキモチ。
「どうしたらいいのか、わかんなくなっちゃうよ?」
だめだよ、この気持ちはなかったことにするから。そうやって忘れられるようにと、ゆっくりと瞳を閉じて眠りにつく。
そんな夢の中でひとり、座り込んだのは、美しい星空が見守る森の世界。そこで見つけた妖精の住む切り株には、月光の通り道が視えた。そこで出会ったちいさな可愛い妖精たちが――『その想い夜空に描いて』と教えてくれる。
目が覚めた瞬間に薄れゆく記憶の中でも、ずっと色濃く鮮明に残っている、その美しい場所。
「あの森に、なんだか見覚えがある」
それは“夢”の中で自分の心が生み出した空想。そうだと頭では解っていても、ココロ赴くままに行ってみようと考えた。
(気持ちを、この切ない想いを、夜空へと……)
その夜、大きな月に案内されるように辿り着いた切り株には、キラキラと輝く月光が木の葉に揺られて舞い踊る。
「不思議……夢で見た場所と同じ」
夜空の黒いキャンバスに文字を書くように、空気を優しく撫でる。あなたへのキモチを、この広い宇宙の彼方へ飛んでほしいと。
想い描いても聴こえることのない“言の葉”を、詠うような秋風とざわめく葉音、月から伸びる光に乗せるように。
あなたまで届けてほしい、そう願った。
(逢いたい……)
それは、みえない言葉。
叶わぬ恋。
――美しき透明の『love letter…』
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