上 下
13 / 16

変わらないのは(fateful reunion)

しおりを挟む

 どんッ!!

「キャッ……」
「危ないっ!!」

 ぱふっ――。

「大丈夫ですか? お怪我は」
「ぁ……はぃ、あの……す、すみま、せ……」

 偶然だった。

「「えっ……」」

 再会は突然に。
 薄れていた思い出は、鮮明に色を付けていく。

「もしかして、みぃちゃん?」
「あの、もしかして、あっくん?」

 そう気付いた瞬間、助けられた腕の中で私の頬は燃えるように熱くなり、あっという間に紅潮していくのが分かった。

「久しぶりだな!! 元気してたか?」
「う、うん。あっくんも元気だった?」

 八年ぶりに偶然会った彼の背丈は、最後に会った日(中学卒業)から倍ぐらいは伸びている気がした。

「おぉ、まぁまぁな~元気。みぃちゃんも元気そうで良かったよ! それにしても、変わらないなぁ……」

「そ、そうかな? あっくんも変わらず……だね! だって私、顔見てすぐ分かったもん」

「そうか? うーん嬉しいような……いや待て、みぃちゃん。そこはぜひ、カッコ良く変わったと言ってほしい! それか大人になった~とか」

 本当は違う。
 私はあの頃、ずっとあなたの事を見ていたから。
 だからすぐに、分かったの。

「――え……ぁ、か、変わって……ぅん? 変わ……」

 目は泳ぎ、しどろもどろする私は頭から湯気でも出ていそうなくらい動揺を隠しきれない。

(あっくんのその笑顔は、変わってないから)

 伝えられない初恋をした、八年前。
 みんなの憧れだった、あなたの存在が。

「お、なんだろうなぁ~その意味深な感じは」
「……ふぇッ!? えっと、そのぉ~」

 そう、すごく素敵で。彼の言う通り、八年前よりも大人になって、もっとずっとカッコ良くなってる。

「冗談はこれぐらいにして――本当、階段から落ちなくて良かったな。マジで痛いとこないか? どこも怪我、しなかったか?」

「だ、大丈夫……ごめんね、迷惑かけちゃって」

 それに比べて、私はいつまでも背は低いし、子供っぽいし。本当は綺麗になったね、とか言ってもらいたいのに。でもそんなの程遠くて……。

(二十三歳。今はまだ大人の女性になんて、私はなれなくて)

「迷惑? 思うはずないよ。だいたい、みぃちゃんが謝ることないだろ。いくら急いでいたって、後ろからいきなりぶつかってきたあのおっさんが悪い」

 今私たちが話しているここは駅の構内。しかもちょうど朝の通勤ラッシュでごった返しな時間帯だ。なりふり構わず我先に、な人ばかりが行き交う。そういう場所である。

「いいの。私がぼんやりしてて、のろのろ歩いてたからいけないの」

「みぃちゃんは相変わらずな……そういうとこ、変わってないな」
 そう言って彼は、フッと優しく微笑む。

 私は背丈だけじゃなく、心も成長してないのだろう。
――きっとあの頃から、何も変われていない。

「えっへへ……もっと成長しなきゃって思うんだけど。いつまでたってもこんな感じでね、子供っぽくって……もぉ~嫌になっちゃうよねぇ」

 そんな自分の姿に落胆しつつ再会の恥ずかしさも相まって、私は手で頬を隠し気持ちを誤魔化すように必死で笑顔をみせた。

「俺は、みぃちゃんが変わってなくて、本当に良かったと思ってる」
「……?」

 周囲を小走りする人たちはまるで他人の事なんて、全く気にしない。それどころか興味も示さず振り向くこともなく殺伐とした景色の中で、この瞬間私たち二人の間には、穏やかでゆったりとした空気が流れているような気がした。

「これはもう逃せない、運命の再会ってやつかもな」
「え……っと?」

 ポツリと小さな声で呟いた彼の言葉が、私の耳をくすぐる。

(運命だなんて……聞き間違いだよね? そんなこと、あるはずがない)

 学生の頃、彼の周りにはいつも人が集まっている人気者で。私はワイワイ楽しくみんなが会話している輪の中へと入るだけで精一杯。

 笑って聞いてるだけの、“いち友人”的な感じで。

 そういえば、あっくん家は近かったのかな。帰り道が一緒になったことはあったけれど、夢みたいで幸せだった。

――とてもじゃないけれど、それ以上を望むことなんて出来なかった。

 私には手の届かない人だと解っていたから、だから憧れで終わらせるのだと決めて、想いは心の内に秘めたまま中学を卒業したのだ。

(それなのに?)

 久しぶりの再会で大人になっていた彼が今なぜか、少しだけ頬を染めて話してくれている。

 そして、言ってくれた言葉。

「偶然とはいえ、今日ここで、みぃちゃんのことを……俺が助けることが出来て良かった」

「あっ……うん、私も。あっくんに会えて良かったなって思う。ありがとう」


 中学時代からそうだった。
 すごい優しくって気遣いも出来て、スポーツも万能だし、モテモテで。

「いや……でも危なかったな。あのまま転んで落ちてたら、大怪我だ。“可愛い”顔にも傷がつくとこだった」

「かッ?! 可愛いって……もぉ、冗談でもそんなこと言っちゃ――」

 そんな子犬みたいなつぶらな瞳で褒め言葉を言われたりしたら、勘違いしちゃいそうになるよ。

 でもそうして、いつも優しく声かけてくれてたから……。

「俺、本気でそう想ってるよ」

「――ッ!!」

(え、そんな。心臓の音、聞こえちゃう)
 ドキドキと大きく鳴る鼓動は、自分の身体中に響き渡る。

 気付いてしまった。
 私の想いは、色褪せてなかったって。
 ずっと抑えてきた気持ち。
 心の奥から“好き”が溢れてきているなんて、絶対言えないのに。


「今日、久々に会えて嬉しかった。それで急なんだけどさ、みぃちゃん。今日仕事終わってから、空いてる?」

「……(コクッ)」

 あまりにも夢のような出来事に、私は言葉を失い頷くことしか出来ない。そんな姿に彼はまた笑いながら優しく言った――「ありがとう」と。





「今夜……お食事? ぅぅう~嬉しいけど……どうしよぉー!!」

 朝の駅で連絡先を交換してから、数時間後。
 憧れの彼――あっくんからメールが届いた。

『じゃあ、また夜に。再会した駅で待ち合わせしよう』

 変わったのは、あの頃よりも背が伸びて、大人になった彼。
 変わってないのは、優しい声と心遣い。

 そして、素敵でカッコ良い笑顔。


(私は? 何か変わっただろうか)

「あの頃から、変わってないのは……」

――忘れられなかった初恋。

 彼の事を好きだというこの気持ち。
 これから、どう変化していくのかな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

【フリー台本】二人向け(ヤンデレ多め)

しゃどやま
恋愛
二人向けのフリー台本を集めたコーナーです。男女性転換や性別改変、アドリブはご自由に。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...