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変わらないのは(fateful reunion)
しおりを挟むどんッ!!
「キャッ……」
「危ないっ!!」
ぱふっ――。
「大丈夫ですか? お怪我は」
「ぁ……はぃ、あの……す、すみま、せ……」
偶然だった。
「「えっ……」」
再会は突然に。
薄れていた思い出は、鮮明に色を付けていく。
「もしかして、みぃちゃん?」
「あの、もしかして、あっくん?」
そう気付いた瞬間、助けられた腕の中で私の頬は燃えるように熱くなり、あっという間に紅潮していくのが分かった。
「久しぶりだな!! 元気してたか?」
「う、うん。あっくんも元気だった?」
八年ぶりに偶然会った彼の背丈は、最後に会った日(中学卒業)から倍ぐらいは伸びている気がした。
「おぉ、まぁまぁな~元気。みぃちゃんも元気そうで良かったよ! それにしても、変わらないなぁ……」
「そ、そうかな? あっくんも変わらず……だね! だって私、顔見てすぐ分かったもん」
「そうか? うーん嬉しいような……いや待て、みぃちゃん。そこはぜひ、カッコ良く変わったと言ってほしい! それか大人になった~とか」
本当は違う。
私はあの頃、ずっとあなたの事を見ていたから。
だからすぐに、分かったの。
「――え……ぁ、か、変わって……ぅん? 変わ……」
目は泳ぎ、しどろもどろする私は頭から湯気でも出ていそうなくらい動揺を隠しきれない。
(あっくんのその笑顔は、変わってないから)
伝えられない初恋をした、八年前。
みんなの憧れだった、あなたの存在が。
「お、なんだろうなぁ~その意味深な感じは」
「……ふぇッ!? えっと、そのぉ~」
そう、すごく素敵で。彼の言う通り、八年前よりも大人になって、もっとずっとカッコ良くなってる。
「冗談はこれぐらいにして――本当、階段から落ちなくて良かったな。マジで痛いとこないか? どこも怪我、しなかったか?」
「だ、大丈夫……ごめんね、迷惑かけちゃって」
それに比べて、私はいつまでも背は低いし、子供っぽいし。本当は綺麗になったね、とか言ってもらいたいのに。でもそんなの程遠くて……。
(二十三歳。今はまだ大人の女性になんて、私はなれなくて)
「迷惑? 思うはずないよ。だいたい、みぃちゃんが謝ることないだろ。いくら急いでいたって、後ろからいきなりぶつかってきたあのおっさんが悪い」
今私たちが話しているここは駅の構内。しかもちょうど朝の通勤ラッシュでごった返しな時間帯だ。なりふり構わず我先に、な人ばかりが行き交う。そういう場所である。
「いいの。私がぼんやりしてて、のろのろ歩いてたからいけないの」
「みぃちゃんは相変わらずな……そういうとこ、変わってないな」
そう言って彼は、フッと優しく微笑む。
私は背丈だけじゃなく、心も成長してないのだろう。
――きっとあの頃から、何も変われていない。
「えっへへ……もっと成長しなきゃって思うんだけど。いつまでたってもこんな感じでね、子供っぽくって……もぉ~嫌になっちゃうよねぇ」
そんな自分の姿に落胆しつつ再会の恥ずかしさも相まって、私は手で頬を隠し気持ちを誤魔化すように必死で笑顔をみせた。
「俺は、みぃちゃんが変わってなくて、本当に良かったと思ってる」
「……?」
周囲を小走りする人たちはまるで他人の事なんて、全く気にしない。それどころか興味も示さず振り向くこともなく殺伐とした景色の中で、この瞬間私たち二人の間には、穏やかでゆったりとした空気が流れているような気がした。
「これはもう逃せない、運命の再会ってやつかもな」
「え……っと?」
ポツリと小さな声で呟いた彼の言葉が、私の耳をくすぐる。
(運命だなんて……聞き間違いだよね? そんなこと、あるはずがない)
学生の頃、彼の周りにはいつも人が集まっている人気者で。私はワイワイ楽しくみんなが会話している輪の中へと入るだけで精一杯。
笑って聞いてるだけの、“いち友人”的な感じで。
そういえば、あっくん家は近かったのかな。帰り道が一緒になったことはあったけれど、夢みたいで幸せだった。
――とてもじゃないけれど、それ以上を望むことなんて出来なかった。
私には手の届かない人だと解っていたから、だから憧れで終わらせるのだと決めて、想いは心の内に秘めたまま中学を卒業したのだ。
(それなのに?)
久しぶりの再会で大人になっていた彼が今なぜか、少しだけ頬を染めて話してくれている。
そして、言ってくれた言葉。
「偶然とはいえ、今日ここで、みぃちゃんのことを……俺が助けることが出来て良かった」
「あっ……うん、私も。あっくんに会えて良かったなって思う。ありがとう」
中学時代からそうだった。
すごい優しくって気遣いも出来て、スポーツも万能だし、モテモテで。
「いや……でも危なかったな。あのまま転んで落ちてたら、大怪我だ。“可愛い”顔にも傷がつくとこだった」
「かッ?! 可愛いって……もぉ、冗談でもそんなこと言っちゃ――」
そんな子犬みたいなつぶらな瞳で褒め言葉を言われたりしたら、勘違いしちゃいそうになるよ。
でもそうして、いつも優しく声かけてくれてたから……。
「俺、本気でそう想ってるよ」
「――ッ!!」
(え、そんな。心臓の音、聞こえちゃう)
ドキドキと大きく鳴る鼓動は、自分の身体中に響き渡る。
気付いてしまった。
私の想いは、色褪せてなかったって。
ずっと抑えてきた気持ち。
心の奥から“好き”が溢れてきているなんて、絶対言えないのに。
「今日、久々に会えて嬉しかった。それで急なんだけどさ、みぃちゃん。今日仕事終わってから、空いてる?」
「……(コクッ)」
あまりにも夢のような出来事に、私は言葉を失い頷くことしか出来ない。そんな姿に彼はまた笑いながら優しく言った――「ありがとう」と。
◇
「今夜……お食事? ぅぅう~嬉しいけど……どうしよぉー!!」
朝の駅で連絡先を交換してから、数時間後。
憧れの彼――あっくんからメールが届いた。
『じゃあ、また夜に。再会した駅で待ち合わせしよう』
変わったのは、あの頃よりも背が伸びて、大人になった彼。
変わってないのは、優しい声と心遣い。
そして、素敵でカッコ良い笑顔。
(私は? 何か変わっただろうか)
「あの頃から、変わってないのは……」
――忘れられなかった初恋。
彼の事を好きだというこの気持ち。
これから、どう変化していくのかな。
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