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あなたからの贈り物(office Ver.)
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「幼い頃からずっと、君が好きだった。もしよかったら、これからの人生を……僕と一緒に、きてくれないか?」
「……ごめんなさい」
悩んだけれど、自分の本当の気持ちが見えなくて。
そう正直に告げた、あの日。
お付き合いしたいとの告白を断った私に、次の日からも変わらずあなたは温かい眼差しを向けて何事もなかったかのように、いつも通り接してくれていた。
◇
幼稚園からの幼馴染で、いつも傍にいて笑って優しく守ってくれていたあなたは、今も昔も変わっていない。
大学は別々で疎遠になり、連絡もほぼしていなかった。
しかし私が三十歳を前に転職したこの会社で、成長したあなたとばったり再会。
それからはよく出かけたり、同僚たちと一緒に食事に行ったりと、充実した日々を送っていた。
◇
あなたからの告白を断ってから、数ヶ月後。
お昼休みに屋上へと呼び出された私は、一通の封筒を手渡される。
「えっと。これは?」
「しばらくの間、そのまま開けないで持っていてほしいんだ」
不思議だなと一瞬、首を傾げた私を見つめるあなたと、目が合う。
「うん、分かった……」
返事を聞くと静かに微笑む。
少し長めの前髪を風になびかせ歩き出し、屋上のパラペットに手を置いた。光に目を細めるあなたは、そこから見える景色を眺めながらゆっくりと口を開く。
「海外赴任が決まったんだ」
「えっ……」
なかなか言い出せなくてと、あなたは困り顔で私にその内容を色々と話す。
「そっか……寂しくなるね」
「そうだね」
「あ、でも良かったね! 海外赴任……そのぉ……プロジェクトに参加するのが目標だって言ってたじゃん! みんなで激励会しなきゃ!!」
「うん、ありがとう」
その時に見た、眉を下げて微笑むあなたの顔が、今でも忘れられない。
◇
休日、私は一人暮らしをする部屋でひとり、項垂れるようにソファベッドに横たわる。そして手に握るスマートフォンの予定表を、ぼーっと見つめていた。
「いち、に……あと八日、かぁ」
気付けば私は、あなたが出発するまでの日にちを毎日毎日数えていた。スマートフォンの画面にある日付を見るたびに、別れの時が近づいているのをひしひしと感じる。
「せっかく再会したのに……」
――またしばらく、会えなくなっちゃうんだ。
そのことを考えるだけで胸が苦しくなって、今までに経験の無い寂しさが私の身体中に広がっていく。
「心がざわざわして、落ち着かない」
高校卒業後に別々の大学へ行った頃とは違う、“別れ”の感情。
(永遠の別れでもないのに。私ってば、深刻過ぎるよ)
「また何年か後に帰ってきたら、みんなでご飯食べに行って――」
それでも、すぐには会えない距離になるのだという現実。二度と会えないわけじゃないけれど、何年で帰って来るのかも分からない。
それはただ幼馴染だから?
仲の良い友人との別れに寂しく感じているだけ?
それとも……?
――『幼い頃からずっと、君が好きだった。もしよかったら、これからの人生を……僕と一緒に、来てくれないか?』
(どうしてもっと早く、気付けなかったのだろう)
「“きて”くれないかって、そういうこと……」
あの日すでに、海外赴任の話が出ていたのだろう。だからきっとあなたは私に『一緒に来てほしい』そう、言いたかったんだね。
「私も好き。あなたのこと……ずっと、好きだった」
(でも、その自分の気持ちに気付くのが遅すぎたよね)
◇
ざわざわざわ……。
「じゃあ、お気を付けて!!」
「せんぱーい、頑張って成果上げて来てくださいよー」
「そうっすよ、俺たちの未来にも関わるッ!」
「あはは、おいおい、大げさだな! でも、頑張るよ。ありがとうな」
同僚たちと一緒に空港まで見送りに来た私も、満面の笑みであなたを応援した。ただ、気の利いた言葉を、一言もかけられずに……。
【――――航空から~出発便のご案内をいたします……】
アナウンスが聞こえてくると時間だなと、荷物を持ち手を振る。
「そろそろ行くよ、今日はみんなありがとう。元気でな」
「「「お気を付けて~!!」」」
みんなと一緒に手を振る。
笑顔で、応援、応援の気持ちで。
そう、悲しくなんてない。
また、いつかは会えるから。
――『……そのまま開けないで持っていて』
(しばらく、って。ねぇ、いつまで?)
「……って、待って!」
――とん、ギューッ!!
「んあっ、おぉ!? ど、どうした?」
「き……きぃて、ない」
「え?」
「この封筒、しばらく開けないでって……いつまでか聞いてないよ」
「それ――」
「あの、私……ぐすっ……」
後になって気付いた、自分の本当の気持ち。でもあまりにも身勝手だなと、言わないつもりでいた。でも目の前の現実が、あなたとの別れだと思った瞬間に溢れ出した、好きの気持ち。
「泣かないで。君にはずっと、笑っていてほしい」
「ぅ……ちが、の。ごめんなさい、私……あなたがいなくなるって思ったら、気付いて……自分の気持ち――」
「謝らないでほしい。僕の心は今でも、変わっていないから」
「あなたのことが、好きです……」
「ありがとう、嬉しい」
「「ひゅー!」」
「いやぁ~幼馴染とは聞いてたけど、やっぱりねぇ」
――ハッ! 私、周りが見えなくなってた!!
「やだ、私ってば……恥ずかしい」
顔を真っ赤にして呟く私を最後にギュッと抱き締め返してくれたあなたは……。
「僕の方がずっと、負けないくらい君の事が――大好きだ」
そう耳元で囁いたのだった。
◇
同僚たちだけではなく、空港で周囲にいた人たちにもなぜか見守られ、祝福を受ける中で、告白し合った私たち。我に返った私は顔から火が出るほどに恥ずかしかったが、彼はまったく動じていなかった。
そして当然だがその日、別れを惜しみつつも海外へと旅立った彼。出発前に尋ねた封筒の中身は彼の海外赴任する場所――同じ行き先への『チケットの贈り物』だった。
出発日までに、私の気持ちが変わらなければ破棄してほしいと言うつもりだったらしい。もちろん、すぐに変更手続きを済ませた私はその数ヶ月後、彼の元へと向かったのだった。
「……ごめんなさい」
悩んだけれど、自分の本当の気持ちが見えなくて。
そう正直に告げた、あの日。
お付き合いしたいとの告白を断った私に、次の日からも変わらずあなたは温かい眼差しを向けて何事もなかったかのように、いつも通り接してくれていた。
◇
幼稚園からの幼馴染で、いつも傍にいて笑って優しく守ってくれていたあなたは、今も昔も変わっていない。
大学は別々で疎遠になり、連絡もほぼしていなかった。
しかし私が三十歳を前に転職したこの会社で、成長したあなたとばったり再会。
それからはよく出かけたり、同僚たちと一緒に食事に行ったりと、充実した日々を送っていた。
◇
あなたからの告白を断ってから、数ヶ月後。
お昼休みに屋上へと呼び出された私は、一通の封筒を手渡される。
「えっと。これは?」
「しばらくの間、そのまま開けないで持っていてほしいんだ」
不思議だなと一瞬、首を傾げた私を見つめるあなたと、目が合う。
「うん、分かった……」
返事を聞くと静かに微笑む。
少し長めの前髪を風になびかせ歩き出し、屋上のパラペットに手を置いた。光に目を細めるあなたは、そこから見える景色を眺めながらゆっくりと口を開く。
「海外赴任が決まったんだ」
「えっ……」
なかなか言い出せなくてと、あなたは困り顔で私にその内容を色々と話す。
「そっか……寂しくなるね」
「そうだね」
「あ、でも良かったね! 海外赴任……そのぉ……プロジェクトに参加するのが目標だって言ってたじゃん! みんなで激励会しなきゃ!!」
「うん、ありがとう」
その時に見た、眉を下げて微笑むあなたの顔が、今でも忘れられない。
◇
休日、私は一人暮らしをする部屋でひとり、項垂れるようにソファベッドに横たわる。そして手に握るスマートフォンの予定表を、ぼーっと見つめていた。
「いち、に……あと八日、かぁ」
気付けば私は、あなたが出発するまでの日にちを毎日毎日数えていた。スマートフォンの画面にある日付を見るたびに、別れの時が近づいているのをひしひしと感じる。
「せっかく再会したのに……」
――またしばらく、会えなくなっちゃうんだ。
そのことを考えるだけで胸が苦しくなって、今までに経験の無い寂しさが私の身体中に広がっていく。
「心がざわざわして、落ち着かない」
高校卒業後に別々の大学へ行った頃とは違う、“別れ”の感情。
(永遠の別れでもないのに。私ってば、深刻過ぎるよ)
「また何年か後に帰ってきたら、みんなでご飯食べに行って――」
それでも、すぐには会えない距離になるのだという現実。二度と会えないわけじゃないけれど、何年で帰って来るのかも分からない。
それはただ幼馴染だから?
仲の良い友人との別れに寂しく感じているだけ?
それとも……?
――『幼い頃からずっと、君が好きだった。もしよかったら、これからの人生を……僕と一緒に、来てくれないか?』
(どうしてもっと早く、気付けなかったのだろう)
「“きて”くれないかって、そういうこと……」
あの日すでに、海外赴任の話が出ていたのだろう。だからきっとあなたは私に『一緒に来てほしい』そう、言いたかったんだね。
「私も好き。あなたのこと……ずっと、好きだった」
(でも、その自分の気持ちに気付くのが遅すぎたよね)
◇
ざわざわざわ……。
「じゃあ、お気を付けて!!」
「せんぱーい、頑張って成果上げて来てくださいよー」
「そうっすよ、俺たちの未来にも関わるッ!」
「あはは、おいおい、大げさだな! でも、頑張るよ。ありがとうな」
同僚たちと一緒に空港まで見送りに来た私も、満面の笑みであなたを応援した。ただ、気の利いた言葉を、一言もかけられずに……。
【――――航空から~出発便のご案内をいたします……】
アナウンスが聞こえてくると時間だなと、荷物を持ち手を振る。
「そろそろ行くよ、今日はみんなありがとう。元気でな」
「「「お気を付けて~!!」」」
みんなと一緒に手を振る。
笑顔で、応援、応援の気持ちで。
そう、悲しくなんてない。
また、いつかは会えるから。
――『……そのまま開けないで持っていて』
(しばらく、って。ねぇ、いつまで?)
「……って、待って!」
――とん、ギューッ!!
「んあっ、おぉ!? ど、どうした?」
「き……きぃて、ない」
「え?」
「この封筒、しばらく開けないでって……いつまでか聞いてないよ」
「それ――」
「あの、私……ぐすっ……」
後になって気付いた、自分の本当の気持ち。でもあまりにも身勝手だなと、言わないつもりでいた。でも目の前の現実が、あなたとの別れだと思った瞬間に溢れ出した、好きの気持ち。
「泣かないで。君にはずっと、笑っていてほしい」
「ぅ……ちが、の。ごめんなさい、私……あなたがいなくなるって思ったら、気付いて……自分の気持ち――」
「謝らないでほしい。僕の心は今でも、変わっていないから」
「あなたのことが、好きです……」
「ありがとう、嬉しい」
「「ひゅー!」」
「いやぁ~幼馴染とは聞いてたけど、やっぱりねぇ」
――ハッ! 私、周りが見えなくなってた!!
「やだ、私ってば……恥ずかしい」
顔を真っ赤にして呟く私を最後にギュッと抱き締め返してくれたあなたは……。
「僕の方がずっと、負けないくらい君の事が――大好きだ」
そう耳元で囁いたのだった。
◇
同僚たちだけではなく、空港で周囲にいた人たちにもなぜか見守られ、祝福を受ける中で、告白し合った私たち。我に返った私は顔から火が出るほどに恥ずかしかったが、彼はまったく動じていなかった。
そして当然だがその日、別れを惜しみつつも海外へと旅立った彼。出発前に尋ねた封筒の中身は彼の海外赴任する場所――同じ行き先への『チケットの贈り物』だった。
出発日までに、私の気持ちが変わらなければ破棄してほしいと言うつもりだったらしい。もちろん、すぐに変更手続きを済ませた私はその数ヶ月後、彼の元へと向かったのだった。
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