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36.明かされる「謎」

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「……やはりもう、話さねばならん頃合いか」
「聞くよ。なるべく冷静にね」
「とことん付き合うぜ」
「其方らには、改めて謝罪せねばならんのぅ。あのひこぅき事故は、他でもない儂のせいじゃ。本当にすまなかった」

「「「……」」」

 一同は目を伏せ、押し黙る。

 パチリと薪が爆ぜると、深々と頭を下げていたドリンが顔を上げ、再びゆっくりと口を開いた。

「儂がネクタリアより持ち出した木酒を、我らを乗せて遊覧飛行をしておった蒼神鳥が誤って飲んでしまったのじゃよ。……どうやら、かの酒には悪い酒精が眠っておったようでのぅ。酔っ払い飛行となった蒼神鳥が、主らの乗るひこぅきに衝突してしまった」
「大型機よりも大きい鳥さん。見るからにコントロール不能だったもんね……」
「うむ。きゃつは、儂ら神とて制御が出来ん程に酔っておったわい。故、遊覧飛行の主催者たる儂が責任を取らされ、主神オリオンデ様の仕置きを、一人で受けることとなったのじゃ」
「あわわわ……しゅ、主神様の、お仕置き……!?」
「そいつぁヤベぇな」

 シズクは知るよしもないが、主神オリオンデとは、飄々としているツクリや、豪胆なソダツですら恐れるような存在なのだろう。二人は両腕で自らの体を抱き、かたかたと震えている。

「オリオンデ様は大変ご立腹でのぅ。仕置きは、長く、長ーく続いたのじゃ」
「……そっか。私の転移が遅くなっても、仕方が無いわけだ」

 シズクは、納得するように首を大きく縦に振った。

「左様。三日! 三日もじゃぞ!? 信じられるかえ!? あの寒く無機質な天界で、ただ正座して独り、赦しの時を待っておったのじゃ!」
「うんうん。ドリンも大変だったんだね――……って、三日! そりゃあ正座は大変だけど、『意外と短いね!』としかコメントのしようがないよ! その後の空白期間はどこへやら!?」
「仕置きの後かえ? おお、主を迎えるまでの間じゃな? それはもう、徹底的にいじけておったわい」
「いじけてたって……嘘、でしょ? 四年だよ!?」
「天界と地上では時の流れが違うからのぅ」
「いやいや、それにしたってさ!」
「も、もちろん、単にいじけておったわけではないぞい! 途方に暮れていた……と言い換えるべきじゃろうか」
「なんだそりゃ。俺には違いが分からねぇが?」

 ソダツは首を傾げた。即断即決、即行動を信条とするソダツには、理解のしようも無い駄女神ムーブだ。

「多くの人間を、いち神の過失で死なせてしまったのじゃ。せめてもの補償をと、天界中が大パニックでのぉ。各神には、多大な心労をかけてしもうた。……その穴埋めとして儂は、此度の全神会議の仕切りを、オリオンデ様直々に命じられたのじゃよ。罰の本体は正座ではなく、そちらじゃな」
「全神会議……? また後出し情報だよ……。兄さん、ツクリ、知ってる?」

 頭を抱えてため息を吐き、シズクは二人に目配せをする。

「概要くらいは一応な。確か、百年に一度、エーテリアル中の神さんがオリオンデ様の許に一堂に会して、今後のエーテリアルの運営方針を決める会議だとか、そんなとこだ」
「神秘的で幻想的な集まりだって、チュートリアルで習ったよ」
「かっか! かように高尚なものではないわ! その実態はのぅ……単なる宴会じゃ!!」
「ふぁっ! え、宴会!?」

 当事者の口から飛び出してきたパワーワード。
 三兄弟の目と口とが、ぽっかりと揃って開く。

「無論、当初は真面目な会議であったと聞く。が、ここまで増えた生きとし生けるものの行く末を、少数の神だけで導くことなど、もはや不可能。シズクも、ウェルテの民の逞しさ、目の当たりにしたじゃろう」
「ドリンが駄女神過ぎて流してたよ! そうだよね! 神様に生卵投げるとか、普通はしないよね!?」
「また出た、生卵! 壮絶な体験だったんだね……。元気出すんだよ、シズ姉」

 小柄なツクリはいっぱいに手を伸ばし、顔を伏せたシズクの髪を優しく撫でた。

「エーテリアルで神の威厳は弱まり、影響力は小さくなっておる……。全神会議も、少しずつ形を変えていったのじゃな」
「ちょっと待ってくれよ、神さん! 少なくとも、俺が落とされたハーヴェストリアじゃあ、アグリカ様は尊敬を集めまくってたぜ?」
「にゃにぃ!?」
「ボクのウッドヴァル、カルペン様もそうだったかなー。特別信仰が厚いとは感じなかったけど、神様の像や絵に卵なんて投げたら、絶対に処刑されちゃうよ」
「え? 処刑?? ……儂の国の民、フレンドリー過ぎ??」
「もー。勝手に主語を大きくしたら『めっ!』だよ、ドリン」

 蔑みの目線を送りながらシズクは、ドリンの肩に優しく手を添えた。

「と、とにかく、じゃ! 次の全神会議の宴会部長を、急遽儂が務めることになってしもうた、というわけじゃな」
「うわー……。とうとう宴会部長って言っちゃったよ!」
「はっは! らしくていいじゃねぇか。俺は好きだぜ、こんな神さんもよぉ」

 もう何杯飲んでいるのだろう。ほんのり顔を赤らめたソダツは、上機嫌にげらげらと笑う。

「分かっておるな。兄殿とは気が合いそうじゃわい」
「よろしく頼むぜ! ……だが、分からねぇな。そりゃあ面倒には違いないが、全神会議の幹事職、噂じゃあ神ポイントを一気に稼いで、国に奇跡を起こしまくるチャンスだとも聞くぜ?」
「好評であれば、という注釈付きじゃの。万一、オリオンデ様の逆鱗に触れれば、神ポイントを得られぬばかりか、地位の剥奪すらあり得る」
「それは困ったね……。だけど、宴会の成功って、どういうの? オリオンデ様を接待する……とか?」

 酒を飲める歳になったばかりで、宴会から一番遠いツクリは、顎に人差し指を添え、はてなと首を傾げた。

「否、否。オリオンデ様は、周りが楽しければそれが至福といった、神のようなお方なのじゃ。自らの愉楽など、二の次じゃわい」
「そうなんだ――……って! ドリンは差し置いても、集まる皆さんだって神様だよね!?」
「はっは! 神さんも人族も、大して変わらねぇってか! それなら、どうするってんだ? 神さんの中の神さんを満足させるにはよぉ」
「良い質問じゃ、兄殿。それぞれの国の名産品や芸能で、宴会に集う神々を楽しませるのが王道じゃの。……そこで、シズクに問おう!」
「はいっ!」

 名を呼ばれ、指さされれば条件反射するのが和本人のサガである。シズクは背筋をピシッと伸ばし、夜空に真っ直ぐ手を突き上げた。
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