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27.淡緑の海そよぐ①

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「……よし、よし。上出来だぜ! この辺だけでもざっと三十株は生きてやがる。『土壌診断』のスキルで診てみたが、土の状態もいい。この草勢なら、夏の終わりには収穫までもっていけるぜ」
「わわ、今年の仕込みに間に合うね! やることがてんこ盛りだよ!」
「植物の生長にケツ叩かれて仕事してりゃあ、夏なんてあっという間だぜ。密度の調整がてら株分けして、次の準備も同時にやってく。そうすりゃ、来年の収量は何倍にもなるって話だ」
「数倍!? なにそれ凄い!」
「一粒万倍ってな。植物の驚異的なところで、それが農業の醍醐味さ。だが、放置が長かっただけに手はかかるぜ。除草、追肥に誘因はもちろん、雑草が幅きかせてた間に、厄介な害虫も増えちまってるだろぉな。農薬も、化成肥料もエーテリアルには存在しねぇから、試行錯誤だな。ちっ! 忙しくなりそうだぜ」
「えへへ。何だか楽しそう、兄さん。お仕事、私も混ぜてね!」
「おぅよ。シズクは土いじりも得意だったからなぁ。ドイチに渡ってからは別々だったが……また一緒に畑やれんの、楽しみにしているぜ」
「きゅ!」

 二人の間に長い首を差し入れ、カイエンが甲高い声で鳴く。

「おぉ! もちろん、カイエンもだ! 見ての通り、ホップ栽培は高所での作業も多いのさ。文字通りその背中貸してもらうからよぉ、相棒」
「きゅきゅ!」

 気風の良いソダツは、昔から動物になつかれる。体を寄せ合って、がははと笑う様子は、出会ったばかりというのに相棒と呼ぶことに少しも違和感がない。

「ひとまずホップの問題は片付いたとして……。ビールってのは麦酒。ネクタリアは小麦が主食だから『麦』の調達は出来るが――」
「小麦を使ったビールも美味しいけどね。ビール造りの主力は大麦だよ。堅くて大きなデンプンを、ビール酵母が食べられる小さな糖に代える酵素が豊富だからね!」
「説明ありがとよ、シズク。俺も、大麦の重要性は承知しているつもりさ。だが、実を言うと、大麦についてはちと不安があってな」
「ふぇ? どうして? ホップ探しと同じようにすればいいんじゃないの?」

 シズクの疑問に対し、ソダツとカイエンは横並びで、同じように首をふるふると振って答えた。

「あははっ! カイエンも農業マイスターだね!!」
「きゅ!」
「生まれついての、ってヤツだな。心強いぜ!」

 ソダツはカイエンの頭を一撫で、二撫で。
 人懐っこく、毒をまき散らして魔物を虐殺していた生物と同一とは思えないほど愛らしい。

「よしよし……っと。話を戻すが、俺がネクタリアに来てからちょうど一年。ここの気候はドイチによく似てるんだ。つまり、生育に適しているのは今から種を蒔く春蒔きの大麦じゃあなく、秋蒔きの大麦って事になる」
「……そっか。もう種まきのタイミングが過ぎちゃってる」
「それだけじゃねぇ。草引きはもちろん、土作り、溝掘りに肥料の仕込み、そして麦踏み……栽培に重要な過程が全部手遅れだ。……ま、ともかく生き残りがいなけりゃ始まらねぇが。なあ、シズク? お前確か、運が良かったよな?」
「そのつもりだったけど……。最近、自信無くしてるんだ」
「神さんのせいか?」
「カジノで爆勝ちしたり、どさくさに紛れて転移できた兄さんのせいだよ!」
「はっは! ならよぉ、二人分の強運を突っ込んでみようぜ! ホップは暑さを嫌う。だから木が残してある川の西側に。大麦畑はだだっ広いあっち側だろぉ」
「うんうん。川の畔に製麦用の水車もあったから間違いないよ! 行こっ! 兄さん!」

 シズクはソダツの手を取り、無邪気に遺跡を駆けだした。カイエンはぴったりと、二人の背中を追っていく。
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