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21.突破口①
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「神さんがかけた例の鍵……。『時の錠前』ってのはこいつだぜ、シズク」
ソダツが指さす先には、歴史の証明たる巨木がそびえ立ち、その暗く深い影に、場違いなほどの白い輝きを放つかんぬき錠が見えた。
太い鎖に巻かれ、ぶら下がるその錠前は、小さな鍵穴と真一文字のかんぬきを備えている。伝統的で力強いデザインは鍵の堅牢さを物語っており、時間を封じ込めたる十分な威容を誇っていた。
「これをよく見つけたものじゃ。儂が全力で張った、一帯を風景に溶け込ませる特級結界に隠しておったというのに。さらに、千年ため込んだ神ポイントをぶっ込んで買った天界最強の鍵のおまけ付きじゃ! かっか! かつての儂は、びぃるによほど執着していたとみえる!」
「もう。人ごとみたいに言わないでよ……。それって、神様の全力に挑まないといけないって事だよね。ドリンでも解けないの? これ?」
「無理じゃな」
「即答!?」
「儂は、酔えば酔うほど、神力の腕前が上がるのじゃよ。酒の神らしいところもあるじゃろ? あのとき以上に酔うには、びぃるが必要なのじゃ!」
「『なのじゃ!』じゃないよ……。力を発揮する方向性、完全に間違えてるよね」
「確か、錠前自体の時も歪んでやがるって話だったか。なるほど、俺がどれだけぶっ叩いても、ツクリが魔法を撃ちまくっても傷一つつかねぇはずだぜ」
「力ワザも、一つの方法ではあるじゃろうがな」
「そうなのか? パワーっていや、カイエンならどうだ? この中じゃあダントツだろ」
「きゅ?」
ギルドの受付嬢エルミナによれば、ごーるでん・あるふぁかは巨獣ベヒーモスを超えるパワーを持っているという。一行の注目を集めるカイエンは、可愛らしく首を傾げていた。
「ものは試しだね! カイエン、この鍵に攻撃してくれない? 全力でね」
「きゅきゅ!」
シズクの命令を受けたカイエンは、長い首を振り回して人払い。
安全確認を終えると、そのつぶらな目は鋭いものへ変わり、毒の力を凝縮した黒い爪が、鬼神のような勢いで『時の錠前』のかんぬきへと振り下ろされた。
「……こいつぁ、凄ぇや」
金属と爪がぶつかって、甲高い音とともに無数の火花が飛び散る。
十数分後――
動かぬ獲物と戦い続けたカイエンは力尽き、その場にへたりと座り込む。シズク達はそれぞれにカイエンをねぎらい、錠前の周りに再び集まって固唾を呑んだ。
「なんてこった! あれだけの猛攻でもびくともしねぇってか!」
無情にも、『時の錠前』は少しも変わらず、よどみない輝きを放ち続けていた。
「鍛え上げた神界鉄は、地上のいずれの金属よりも頑強じゃからのぅ……。さらに、時の流れは十分の一。儂も事情に明るくはないが、破壊するに足る十倍の力を、十倍速でたたき込めばあるいは……と言ったところじゃろうか」
「んなもん、無理ゲーじゃねぇか!」
「どうする、シズ姉? この鍵を破壊するくらいなら、別の場所に醸造所を新しく建てる方が、まだ現実的っぽくない?」
「私も同じ事考えてた。だけどね、ツクリ。千年も途絶えてた文化を一から興すのって、もっともっと大変だと思うんだ。ウェルテの農地も見てみたけど、ビール造りに重要な大麦やホップ、ビアハーブなんかもどこにもなかった」
「だな。ネクタリアは小麦が主食。俺が落とされた農業国ハルヴェストリアだって同じだったぜ。葉ものも、実ものも根ものも……野菜のバリエーションは智球に見劣りしねぇが、ホップだけは一つも見かけねぇ」
「ホップ……とな?」
醸造過程に興味の無かったドリンは、はてなと首を傾げた。
「毬花をつける、つる性の植物でなぁ。殺菌力はもちろん、風味付け、苦み付けに香り付け……ホップはビール造りのベストフレンドなんだぜ」
「ほぉ……。そやつが、びぃるのあの麗しい香りを作っておるのか!」
「おぅよ! ……だが、シズクが言ったとおりビール醸造文化があったウェルテにも残ってねぇ。となれば、醸造所の遺跡に賭ける他は無いって訳だな。闇雲に野生種を探すなんざ、砂漠で一粒の金砂を探すようなもんだぜ」
「設備、道具、畑に書物……獄炎で全て焼かれてしまったからのぉ」
「はっは! どんだけ恨みを買ったらそうなるんだよ! ある意味、大したもんだぜ、ここの神さんは!」
「じゃろう? 分かっておるのぉ、シズクの兄殿は」
「全然褒めてないからね!?」
ソダツはその大きな手で、ドリンの背中をバシバシと叩いていた。相手が神であってもお構いなしである。
「……あれ、れ? ねえねえツクリ! このかんぬき、ほんのちょーっとだけ、穴空いてない?」
ソダツが指さす先には、歴史の証明たる巨木がそびえ立ち、その暗く深い影に、場違いなほどの白い輝きを放つかんぬき錠が見えた。
太い鎖に巻かれ、ぶら下がるその錠前は、小さな鍵穴と真一文字のかんぬきを備えている。伝統的で力強いデザインは鍵の堅牢さを物語っており、時間を封じ込めたる十分な威容を誇っていた。
「これをよく見つけたものじゃ。儂が全力で張った、一帯を風景に溶け込ませる特級結界に隠しておったというのに。さらに、千年ため込んだ神ポイントをぶっ込んで買った天界最強の鍵のおまけ付きじゃ! かっか! かつての儂は、びぃるによほど執着していたとみえる!」
「もう。人ごとみたいに言わないでよ……。それって、神様の全力に挑まないといけないって事だよね。ドリンでも解けないの? これ?」
「無理じゃな」
「即答!?」
「儂は、酔えば酔うほど、神力の腕前が上がるのじゃよ。酒の神らしいところもあるじゃろ? あのとき以上に酔うには、びぃるが必要なのじゃ!」
「『なのじゃ!』じゃないよ……。力を発揮する方向性、完全に間違えてるよね」
「確か、錠前自体の時も歪んでやがるって話だったか。なるほど、俺がどれだけぶっ叩いても、ツクリが魔法を撃ちまくっても傷一つつかねぇはずだぜ」
「力ワザも、一つの方法ではあるじゃろうがな」
「そうなのか? パワーっていや、カイエンならどうだ? この中じゃあダントツだろ」
「きゅ?」
ギルドの受付嬢エルミナによれば、ごーるでん・あるふぁかは巨獣ベヒーモスを超えるパワーを持っているという。一行の注目を集めるカイエンは、可愛らしく首を傾げていた。
「ものは試しだね! カイエン、この鍵に攻撃してくれない? 全力でね」
「きゅきゅ!」
シズクの命令を受けたカイエンは、長い首を振り回して人払い。
安全確認を終えると、そのつぶらな目は鋭いものへ変わり、毒の力を凝縮した黒い爪が、鬼神のような勢いで『時の錠前』のかんぬきへと振り下ろされた。
「……こいつぁ、凄ぇや」
金属と爪がぶつかって、甲高い音とともに無数の火花が飛び散る。
十数分後――
動かぬ獲物と戦い続けたカイエンは力尽き、その場にへたりと座り込む。シズク達はそれぞれにカイエンをねぎらい、錠前の周りに再び集まって固唾を呑んだ。
「なんてこった! あれだけの猛攻でもびくともしねぇってか!」
無情にも、『時の錠前』は少しも変わらず、よどみない輝きを放ち続けていた。
「鍛え上げた神界鉄は、地上のいずれの金属よりも頑強じゃからのぅ……。さらに、時の流れは十分の一。儂も事情に明るくはないが、破壊するに足る十倍の力を、十倍速でたたき込めばあるいは……と言ったところじゃろうか」
「んなもん、無理ゲーじゃねぇか!」
「どうする、シズ姉? この鍵を破壊するくらいなら、別の場所に醸造所を新しく建てる方が、まだ現実的っぽくない?」
「私も同じ事考えてた。だけどね、ツクリ。千年も途絶えてた文化を一から興すのって、もっともっと大変だと思うんだ。ウェルテの農地も見てみたけど、ビール造りに重要な大麦やホップ、ビアハーブなんかもどこにもなかった」
「だな。ネクタリアは小麦が主食。俺が落とされた農業国ハルヴェストリアだって同じだったぜ。葉ものも、実ものも根ものも……野菜のバリエーションは智球に見劣りしねぇが、ホップだけは一つも見かけねぇ」
「ホップ……とな?」
醸造過程に興味の無かったドリンは、はてなと首を傾げた。
「毬花をつける、つる性の植物でなぁ。殺菌力はもちろん、風味付け、苦み付けに香り付け……ホップはビール造りのベストフレンドなんだぜ」
「ほぉ……。そやつが、びぃるのあの麗しい香りを作っておるのか!」
「おぅよ! ……だが、シズクが言ったとおりビール醸造文化があったウェルテにも残ってねぇ。となれば、醸造所の遺跡に賭ける他は無いって訳だな。闇雲に野生種を探すなんざ、砂漠で一粒の金砂を探すようなもんだぜ」
「設備、道具、畑に書物……獄炎で全て焼かれてしまったからのぉ」
「はっは! どんだけ恨みを買ったらそうなるんだよ! ある意味、大したもんだぜ、ここの神さんは!」
「じゃろう? 分かっておるのぉ、シズクの兄殿は」
「全然褒めてないからね!?」
ソダツはその大きな手で、ドリンの背中をバシバシと叩いていた。相手が神であってもお構いなしである。
「……あれ、れ? ねえねえツクリ! このかんぬき、ほんのちょーっとだけ、穴空いてない?」
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