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14.ランク認定

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「わ、可愛い! カイエンそっくりだね。……だけど、危険度Sランク【厄災級】って書いてあるよ?」
「はい! 古い資料ではありますがこれによると、ごーるでん・あるふぁかは巨獣ベヒーモスに劣らぬパワーを持ち、神獣フェンリルに勝る鋭い爪と牙を備えている様子。何より、微量でドラゴンすら仕留める強力な毒を自在に放てるとのことで……圧倒的Sランクに分類されております!」
「チートのバーゲンセールだよ! 可愛い顔してうちのカイエン、強すぎじゃない!?」
「もう長い間、目撃証言の一つも無い幻獣でございますから。それもおそらく、見た者は誰も生きて帰れなかった系の……」
「まさかのホラー展開!? ますます怖いよ! もう一緒に暮らせないよ!」
「餌さえちゃんと与えれば、きっと大丈夫ですよ」
「最後に投げないでよぅ……」
「こほん。通常、テイマーはテイムした魔獣の一つ下のランクを付与される事となっております。シズク様、あちらをご覧下さい――」

 エルミナが指さす先、ギルドの壁には冒険者ランクの一覧が掲示されている。

「……わ! Sの下はA+って書いてある! 兄さん達の数年の努力に、一瞬で追いついちゃうの! ちょっとずるくない!?」
「ご安心ください。正式なシステムですので。それだけ魔獣のテイムは難しいということです。高ランク生物のテイムとなれば、発見に至るまでの粘り強さ、対象に関する深い理解、もちろん、制圧する戦闘の実力も不可欠。それらは冒険者の能力とも符合いたします」
「どれ一つ持ち合わせてないけどね!? ……だけど、受け容れるよ。今は一歩一歩なんて、悠長なこと言ってる場合じゃないから!」
「ええ。早速ですがシズク様、この石版に手を添えてください。カイエン様との絆が確かなものであれば、すぐに探索許可をお出しできます」

 エルミナは引き出しからA4サイズほどの石版を取り出し、慎重にテーブルに置く。そして、右手をそっと差し出してシズクの行動を促した。

 こくりと頷き、震える手を石版に近づけるシズク――

 中指の先が触れた瞬間、七色の眩い光が石版から放射状に迸った。

「え! なになに? なにが起こってるの?」
「大丈夫です。そのままお続けください、シズク様」
「う、うん!」
「虹の光……? これは、まさか――!?」

 収束して形を成していく虹色の光。
 やがて、ギルドの天窓から差し込む陽光を受け、複雑に光り輝く小指大の長細いプレートが宙に出現。それは、小さな金属音を立て、カウンターテーブルの上に落ちた。

 ド派手な光の演出につられ、気がつけばカウンターの周りにはギルド中の冒険者が大集合。何やら、がやがやと盛り上がっている。

「す、凄いですよ、シズク様! もう二十年ギルドの業務に携わっていますが、初めて見ました、このプレート! 七色の金属、玉虫鋼はSSランクの証しです!」
「え! ええっ!? SSランク!? ちょ、ちょっと待ってよエルミナさん! さっき、ごーるでん・あるふぁかはSランクの幻獣だって言ってたよね!? テイマーは、その一つ下のランクになるって……」
「その通りでございます」
「だったら私、A+ランクになるはずじゃ――」
「いえ、冒険者ランクの認定は、あくまで主神オリオンデ様のご意志。カイエン様がそれ以上の力を持っているか、あるいは、シズク様が与えられたギフトによるもの……としか」
「私のスキル、生産特化だから違うと思うよ」
「であれば、あるいは……――」

 エルミナの鋭い視線は、シズクの肩に今も後ろ脚二足でちょこんと立つ、白毛のフェレティナに向けられていた。

「白毛のフェレティナとは、実に珍しい……。記録で見たことすらありません」
「こ、この子!? いやいや、この子はその辺の森で捕まえた、ただのフェレティナだよ! 神様が、ドリンがどうとか絶対関係ないんだからね!」
『くっく。漏れておるぞ、シズク』
「シズク様? 冒険者とは、鼻が利く生き物なのですよ」
「うぅ……。絶対バレちゃってるよぅ」
「良いではないか! 良いではないか!! これで堂々『ソダツ』と『ツクリ』を探しに行けるというものじゃ!」

 フェレティナに化けているドリンは、その小さな口を精一杯開け、『念話』続きで溜まった鬱憤を晴らすかのように声を張り上げた。

「わっ! 本当に喋った!」
「……ほう? まさかお主、この儂に鎌をかけたのかえ?」
「め、滅相もございません! ……お会いできて光栄です、女神ドリン様」

 天頂から大きな力で引き上げられたかのうように背筋をぴんと伸ばしたエルミナは、胸に手を添え優雅にお辞儀をして見せた。

 エルミナは信用できる。それでもシズクの頭を過るのは、蔑みの目を向けられた記憶と、雨のように生卵を投げつけられた記憶だ。

「えっと、あの、エルミナ……さん?」
「当然、先日の騒動は耳に入っております」
「やっぱり……」
「ですが、ご安心ください。私以外、このギルドにはウェルテの住人はおりません。それに、冒険者とは気風が良く、とても口が堅い生き物ですから」

 人差し指を口の前に立て、エルミナはぱちりと片目を閉じた。

「ありがと、エルミナさん! じゃあ私、ヴァルハ丘陵に向かっていいんだね」
「こちらからもお願いします、シズク様。ギルド長の出世など、心の底からどうでもいいのですが、根無し草の冒険者は皆、家族のようなもの。ランクの壁があって救援に迎えないことを皆、心苦しく思っていたのです……」

 見渡せば、シズクの周りを囲む冒険者達は、皆一様に頭を下げている。

「や、やめてよぉ! 兄妹助けに行くわけだし、エルミナさんには色々教えてもらったんだから! こっちこそ、だよ。おバカな兄さんと可愛い妹を心配してくれてありがとね」
「……お優しいのですね。シズク様」
「やめてよぅ……照れるじゃない」

 玉虫鋼のプレートを首に巻くシズクは、紅色に頬を染めていた。

「くすっ。それから、これをお持ちください。未踏の地が多く未完成ではありますが、ヴァルハ丘陵の地図と……お二人の『遺書』です」
「い、遺書!? どうしてそんなのが?」
「お気を悪くなさいませんよう。危険度の高い冒険に出る前には、遺産の分配などを含めて一筆、必ずお願いする決まりなのです。あるふぁかは、魔力の感知能力と嗅覚が非常に優れております。希少種ごーるでん・あるふぁかなら、なおのことでしょう。お二人を追うには、地図よりも役に立つとかと思いまして」
「助かるよ、エルミナさん! ……それ、私も書かなくちゃいけない?」
「Sランク以上はギルドの管理を超えますので、不要でございますね」
「よかった。私文章苦手だから、一時間くらいかかっちゃうところだったよ。それじゃ、行ってきま――……ふぇっ!?」

 にへへと笑ってシズクが手を振り、すっと踵を返せば、ギルドの入り口近くには野営道具や食料が山積みにされていた。

「シズクとやら、こいつぁ有志で集めたんだ、使ってくれ。俺たちに出来ることなんざ、これ位しかねぇからよ」
「そっか……。何日も野営するかも知れないんだね」
「はっは! とてもSSランク冒険者の発言とは思えねぇな! おぅ、しっかり頼んだぜ、ちっこい勇者さんよ!」

 大剣を担いだベテランっぽい風貌の冒険者が、シズクの背をバンと叩く。

「ありがとね! 二人を連れて、絶対に帰ってくるよ!」

 根っからのキャンパー故、ロープワークは得意だ。カイエンの大きな背に物資を手早くくりつけ、首の根元あたりにシズクはひょいとまたがる。

「行くよ、カイエン!」
「きゅ!」

 『遺書』の匂いを嗅がせた主人の考えは、言わずとも伝わっているのだろう。

 出発の合図に軽く腹を蹴れば、カイエンはヴァルハ丘陵を目指して足を掻き、みるみる速度を上げていく――
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