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10.異世界での情報収集法
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「温度を変えるのは空間でも、物体でも自在みたいでね。例えば……鞄の中を冷蔵庫みたいにも出来るし、使いこなせば、お弁当とかも一品一品適温に温められそう! あとね、あとね! こんな事だって出来ちゃうの!」
裏路地のあちこちに貼ってあるドリンの人相書きを一枚はがし、左の人差し指を口の前に立てたシズクは、右手で『温度操作』のスキルを発動する。
瞬間、人相書きの羊皮紙がめらめらと燃え上がり、黒い霧となって春風に溶けていった。
「あっぱれ! なるほど、高温の行き着く先は炎とな!!」
「きゅ!」
「でしょ? まだ上手く出来ないけどきっと、物を凍らせることも出来ると思う。……連続して使うと、頭がクラクラしちゃうんだけど」
シズクは小さく舌を出し、おどけて見せた。
「要は慣れじゃな。有限な魔力を使わん分、スキルは妄想と訓練とで、どこまでも使途を広げていくことが出来るのじゃよ」
「やっぱりこのスキル、醸造家の私にぴったりだよ! 美味しいビール造りには、温度のコントロールが欠かせないからね。時間をかけずに温度を切り替えられるなんて、凄いことだよ! 新しい醸造法だって見つけられるかも!」
「ほう……新しい手法とは楽しみじゃ。お主ならばもう一つのゴ……――ごほっ、ごほっ」
「……ねえ、ドリン? 今、何か言いかけたでしょ! まだなにか隠してるんじゃない?」
「さぁて、わからんのぉ。ほれ! 油断するでない! ルーカスとか言う兵が、そこの物陰に潜んでおるぞ!」
「え! え!?」
「くっく……冗談じゃよ」
「……もう! すぐにそうやってはぐらかすんだから。それにしても、ウェルテ村って、きれいな村だねー」
金ぴかの生物の背にまたがり、独り言を呟き続ける美少女は、すれ違う人々の好奇の目線を浴びながらウェルテ村を散策していた。
北の山々から流れる川沿いに広がる豊かな麦畑や、丘の草原を利用した牧羊、鶏の放し飼いの様子。さらには、点在する風車に目が行き、遠目には牧歌的農村の典型といった風情を醸していたウェルテ村。
しかし、人口千人に満たないこの小さな村には、港町や都へと続く重要な中継地点としての顔もあるらしく。大きな門の裏側は、行商人やその護衛、裏手に広がるヴァルハ丘陵の深奥にあると伝えられる古代遺跡を探す冒険者などで、賑わいを見せていた。
門を起点に南北に伸びる未舗装のメインストリートは、馬車が四台横並びになれるほどに広く、両脇にはスレート葺き屋根を備えた木骨造の建物が立ち並んでいた。アイボリーに黄蘗色、淡いピンクなど、温かみのある色で染められた漆喰の外壁は、旅人の心を和ませてくれる。二階のバルコニーからはハンギングプランターが下がっており、春の可愛らしい花々が彩りを添えていた。
生活の要でもある大井戸の周りには市が立ち、朝穫れの農産物や加工肉、ウェルテ名産の毛織物が見えた。行商たちは路銀を稼ごうと、海の向こうの珍しい品々を並べている。あちこちから活気に満ちた声が響き渡るが、特に際立っているのはやはり、値引きを求める声のようだ。
そんな大井戸から東西に延びる道沿いには、商店や食堂、鍛冶屋などの商業施設、主神オリオンデの像が飾られている教会、無骨で大きい建物などが混在している。住宅が建ち並ぶ南北通りとは、かなり趣が違って見えた。
「わ! ねえねえ、ドリン! 広場の脇のあの大きな建物、もしかして――……?」
東西通りを歩くシズクは、大きな足跡のイラストが刻まれた看板を指さした。巨大な箱形の建物に飾り気はなく、機能性の極みともいえる。
「あの文様は確か、冒険者ギルドのはずじゃな」
「やっぱりそうだ! 冒険者! 荒くれ! 酔漢……はいないんだった。やった! うぇるかむばっくだよ! 私のファンタジー!」
「ふむ。よく賑わっておるようじゃの。じゃがシズク、我々にはギルドに出す依頼など無いぞ?」
「お金もねっ!」
「くっく。痛いところを突きおるわい」
「とにかく、行くだけ行ってみようよ! 村中で噂になってるヴァルハ丘陵の奥地の古代遺跡って、ドリンが隠した醸造所の事なんでしょ? 詳しい情報、冒険者ギルドにならあるはずだよ!」
「なーにを言いおるか。情報など不要じゃわい。かの醸造所の位置なら、儂がしっかり覚えて……ぬぬ。覚えて……」
「……へぇ。覚えて?」
「おぼ……えて……――」
「無いんだね?」
申し訳なさそうに、フェレティナのドリンは肩を窄めてうつむいた。
「決まりだね! いざ向かわん、冒険者ギルド!!」
「きゅ!!」
にっこり笑顔のシズクが指さす先。
情報収集の定番たる冒険者ギルドへと、カイエンは足を速めた。
裏路地のあちこちに貼ってあるドリンの人相書きを一枚はがし、左の人差し指を口の前に立てたシズクは、右手で『温度操作』のスキルを発動する。
瞬間、人相書きの羊皮紙がめらめらと燃え上がり、黒い霧となって春風に溶けていった。
「あっぱれ! なるほど、高温の行き着く先は炎とな!!」
「きゅ!」
「でしょ? まだ上手く出来ないけどきっと、物を凍らせることも出来ると思う。……連続して使うと、頭がクラクラしちゃうんだけど」
シズクは小さく舌を出し、おどけて見せた。
「要は慣れじゃな。有限な魔力を使わん分、スキルは妄想と訓練とで、どこまでも使途を広げていくことが出来るのじゃよ」
「やっぱりこのスキル、醸造家の私にぴったりだよ! 美味しいビール造りには、温度のコントロールが欠かせないからね。時間をかけずに温度を切り替えられるなんて、凄いことだよ! 新しい醸造法だって見つけられるかも!」
「ほう……新しい手法とは楽しみじゃ。お主ならばもう一つのゴ……――ごほっ、ごほっ」
「……ねえ、ドリン? 今、何か言いかけたでしょ! まだなにか隠してるんじゃない?」
「さぁて、わからんのぉ。ほれ! 油断するでない! ルーカスとか言う兵が、そこの物陰に潜んでおるぞ!」
「え! え!?」
「くっく……冗談じゃよ」
「……もう! すぐにそうやってはぐらかすんだから。それにしても、ウェルテ村って、きれいな村だねー」
金ぴかの生物の背にまたがり、独り言を呟き続ける美少女は、すれ違う人々の好奇の目線を浴びながらウェルテ村を散策していた。
北の山々から流れる川沿いに広がる豊かな麦畑や、丘の草原を利用した牧羊、鶏の放し飼いの様子。さらには、点在する風車に目が行き、遠目には牧歌的農村の典型といった風情を醸していたウェルテ村。
しかし、人口千人に満たないこの小さな村には、港町や都へと続く重要な中継地点としての顔もあるらしく。大きな門の裏側は、行商人やその護衛、裏手に広がるヴァルハ丘陵の深奥にあると伝えられる古代遺跡を探す冒険者などで、賑わいを見せていた。
門を起点に南北に伸びる未舗装のメインストリートは、馬車が四台横並びになれるほどに広く、両脇にはスレート葺き屋根を備えた木骨造の建物が立ち並んでいた。アイボリーに黄蘗色、淡いピンクなど、温かみのある色で染められた漆喰の外壁は、旅人の心を和ませてくれる。二階のバルコニーからはハンギングプランターが下がっており、春の可愛らしい花々が彩りを添えていた。
生活の要でもある大井戸の周りには市が立ち、朝穫れの農産物や加工肉、ウェルテ名産の毛織物が見えた。行商たちは路銀を稼ごうと、海の向こうの珍しい品々を並べている。あちこちから活気に満ちた声が響き渡るが、特に際立っているのはやはり、値引きを求める声のようだ。
そんな大井戸から東西に延びる道沿いには、商店や食堂、鍛冶屋などの商業施設、主神オリオンデの像が飾られている教会、無骨で大きい建物などが混在している。住宅が建ち並ぶ南北通りとは、かなり趣が違って見えた。
「わ! ねえねえ、ドリン! 広場の脇のあの大きな建物、もしかして――……?」
東西通りを歩くシズクは、大きな足跡のイラストが刻まれた看板を指さした。巨大な箱形の建物に飾り気はなく、機能性の極みともいえる。
「あの文様は確か、冒険者ギルドのはずじゃな」
「やっぱりそうだ! 冒険者! 荒くれ! 酔漢……はいないんだった。やった! うぇるかむばっくだよ! 私のファンタジー!」
「ふむ。よく賑わっておるようじゃの。じゃがシズク、我々にはギルドに出す依頼など無いぞ?」
「お金もねっ!」
「くっく。痛いところを突きおるわい」
「とにかく、行くだけ行ってみようよ! 村中で噂になってるヴァルハ丘陵の奥地の古代遺跡って、ドリンが隠した醸造所の事なんでしょ? 詳しい情報、冒険者ギルドにならあるはずだよ!」
「なーにを言いおるか。情報など不要じゃわい。かの醸造所の位置なら、儂がしっかり覚えて……ぬぬ。覚えて……」
「……へぇ。覚えて?」
「おぼ……えて……――」
「無いんだね?」
申し訳なさそうに、フェレティナのドリンは肩を窄めてうつむいた。
「決まりだね! いざ向かわん、冒険者ギルド!!」
「きゅ!!」
にっこり笑顔のシズクが指さす先。
情報収集の定番たる冒険者ギルドへと、カイエンは足を速めた。
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