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7.ゴ●スキル?
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「ごーるでんちゃんが助かるなら何でもやるよ! どうすればいい?」
「今こそ明かそう、シズク。……其方が授かったスキルの一つ目は『温度操作』なのじゃ!!」
「お、『温度操作』ぁぁああ!! ……何それ? 地味系?」
「ふむ。儂も初めて見るスキルなのじゃが……神マニュアルによれば、読んで字のごとく、空間や物質、あらゆる温度を変化させることが出来るスキルのようじゃな」
ドリンは、亜空間から取り出した羊皮紙の束に目を落とし、手早くぺらぺらと繰っている。
「マニュアルなんてあるんだ……。ああ、今度こそサヨナラだね。楽しかったよ、私のファンタジー」
「神の業務は実に多様でのぅ……。過労による過失が激発した故の、苦肉の策なのじゃ。近頃はますます厚みを増して困っておる」
「神業界ってブラックなの!?」
「……全ては生きるためじゃ。背に腹は代えられんのじゃよ」
「変なこと聞いてごめん。世知辛いね……」
シズクは目を伏せ、首を左右に振った。
「……――それより、シズク」
「わかってる! 私がもらった『温度操作』のスキルを使って、ごーるでんちゃんの胃の中の温度を調整すればいいんだよね?」
「左様、左様。酵母とやらの活動が静まれば、後は此奴の体力次第じゃ。あるふぁかという種は、もともと酒を吐き出す機構を備えておるからの。生き残れるやも知れん」
「……やるよ。スキルの発動方法! 教えて!!」
「【対象に手を添え、温度を上げたり、下げたりするイメージを膨らませることで発動する】……との事じゃ。後々使いやすいように調整することも可能じゃし、機能も向上していこうが、ひとまずそれが基本となるようじゃな」
「イメージ! 異世界物の定番だ! いろいろなチートスキルを使う夢、何度も何度も見たからね、妄想力には結構自身あるよ」
「感心じゃが、実際のスキル操作は簡単なものではないのじゃよ。コントロールを誤れば万が一もある。少し練習をして――」
「そんな時間ないでしょ! とにかく実践! ……手を添えて、イメージ。イメージを膨らませる――」
赤々と熱されたスキレットといったところだろうか。患部から二十センチほど離れていても、シズクの手にはバシバシと熱が伝わってくる。
内臓がそのような状態になっているのだ、ごーるでんの苦しみは、想像に堪えない。
「まず、私の手の温度を操作して……守る」
動揺している場合ではない。
深呼吸を一つ。集中力を高めてシズクは、手始めに自身の右手の温度を36℃に固定する。
「こんな感じかな?」
イメージが固まったところで、ごーるでんの胃の真上、胸のあたりにそっと手を触れた。
「……凄い! 全然熱くないよ」
「ほう……器用なものじゃ」
「発酵、止まらない……。胃も、どんどん膨張していってる。苦しいよね、ごーるでんちゃん」
「きゅ。きゅぅうううん」
「もう少しの辛抱だよ。私が絶対に助けるから」
空いた左手の温度も右手と同じ36℃に固定。ごーるでんの胸に添えた右手の甲の上に重ねた。
「……スキルはイメージ、イメージ。胃の形はイメージできるから、あとは空間の温度を下げていくイメージを作ればいい。確か、熱は分子の運動? 大丈夫、酵母の働きは、ドイチでの修行中に何度も何度もイメージしてきたもん。ゆっくり、ゆっくりって願ってばっかりだった――」
世界の色がなくなるくらいの集中状態。ただでさえスキルの使用には精神力と、体力を要するのだ。
寒いくらいの初春の宵だというのに、シズクの額には汗が滲む。やがてそれは粒となり、枯れた木の葉に吸い込まれていった。
▽
集中力が切れ、少しずつ回復する視覚、聴覚。
ふと見上げれば朱は空を去り、代わりに藍色が覆い尽くしていた。
「そうだ! ごーるでんちゃんは!」
目を覚ましたかのように、突如シズクは声を張り上げた。
見れば、絶え絶えと言う具合だったごーるでんの息は幾分か太くなり、毛皮ごしにも明らかだった胃の膨張はすっかり止まっている。
心身の限界を迎えて『温度操作』のスキルは解けてしまったが、ごーるでんの胸に触れた手からは、ほんのり熱っぽさを感じるくらいだ。
「ごぇえええぇえ!」
轟音とともに、ごーるでんの大きな口から吐き出される大量のガス。膨らんだ胃が一気に縮んだ。
やがて、ごーるでんはゆっくり立ち上がり、ふらつきながらも自力で木の陰へ。
残された力を腹に籠め、すっかり分解されて原形を留めない真っ赤な果実――火瓜――を吐き出す事に成功した。
「ごーるでんちゃん……頑張ったね。私も、上手くやれたみたい。よかった……」
「あっぱれ、あっぱれじゃ! 初めてでスキルを二カ所同時に、それも別個に運用するとは! まっこと恐ろしきは和本人の妄想力じゃのぅ!」
天を仰ぎ、大口を開けてドリンはからからと高らかに笑った。
「……でしょ?」
そんなドリンと、ちょこんと拳を合わせるシズク。
一山越えたとはいえ、まだまだ予断は許さない。
ごーるでんを側で経過を見守らねばと、シズクは歩みを進めようとする。
「あ。これ、ダメなやつかも――」
不慣れな力を使いすぎたからか、視界がぐらぐらと揺れている。
自分の体ではないみたいだ。思ったように足が上がらない。
「シズク?」
ほんの小さな石に躓き、シズクは支えを失ったかのように力なく頭から倒れ――
「い、いかん! 手を突け! そこには岩が――……ッ!」
ドリンの叫声は届かない。シズクは既に夢の世界にいた。
柔らかく、心地よくて暖かい。ごーるでん・あるふぁかのもふもふに埋もれる、そんな幸せな夢の中に。
「今こそ明かそう、シズク。……其方が授かったスキルの一つ目は『温度操作』なのじゃ!!」
「お、『温度操作』ぁぁああ!! ……何それ? 地味系?」
「ふむ。儂も初めて見るスキルなのじゃが……神マニュアルによれば、読んで字のごとく、空間や物質、あらゆる温度を変化させることが出来るスキルのようじゃな」
ドリンは、亜空間から取り出した羊皮紙の束に目を落とし、手早くぺらぺらと繰っている。
「マニュアルなんてあるんだ……。ああ、今度こそサヨナラだね。楽しかったよ、私のファンタジー」
「神の業務は実に多様でのぅ……。過労による過失が激発した故の、苦肉の策なのじゃ。近頃はますます厚みを増して困っておる」
「神業界ってブラックなの!?」
「……全ては生きるためじゃ。背に腹は代えられんのじゃよ」
「変なこと聞いてごめん。世知辛いね……」
シズクは目を伏せ、首を左右に振った。
「……――それより、シズク」
「わかってる! 私がもらった『温度操作』のスキルを使って、ごーるでんちゃんの胃の中の温度を調整すればいいんだよね?」
「左様、左様。酵母とやらの活動が静まれば、後は此奴の体力次第じゃ。あるふぁかという種は、もともと酒を吐き出す機構を備えておるからの。生き残れるやも知れん」
「……やるよ。スキルの発動方法! 教えて!!」
「【対象に手を添え、温度を上げたり、下げたりするイメージを膨らませることで発動する】……との事じゃ。後々使いやすいように調整することも可能じゃし、機能も向上していこうが、ひとまずそれが基本となるようじゃな」
「イメージ! 異世界物の定番だ! いろいろなチートスキルを使う夢、何度も何度も見たからね、妄想力には結構自身あるよ」
「感心じゃが、実際のスキル操作は簡単なものではないのじゃよ。コントロールを誤れば万が一もある。少し練習をして――」
「そんな時間ないでしょ! とにかく実践! ……手を添えて、イメージ。イメージを膨らませる――」
赤々と熱されたスキレットといったところだろうか。患部から二十センチほど離れていても、シズクの手にはバシバシと熱が伝わってくる。
内臓がそのような状態になっているのだ、ごーるでんの苦しみは、想像に堪えない。
「まず、私の手の温度を操作して……守る」
動揺している場合ではない。
深呼吸を一つ。集中力を高めてシズクは、手始めに自身の右手の温度を36℃に固定する。
「こんな感じかな?」
イメージが固まったところで、ごーるでんの胃の真上、胸のあたりにそっと手を触れた。
「……凄い! 全然熱くないよ」
「ほう……器用なものじゃ」
「発酵、止まらない……。胃も、どんどん膨張していってる。苦しいよね、ごーるでんちゃん」
「きゅ。きゅぅうううん」
「もう少しの辛抱だよ。私が絶対に助けるから」
空いた左手の温度も右手と同じ36℃に固定。ごーるでんの胸に添えた右手の甲の上に重ねた。
「……スキルはイメージ、イメージ。胃の形はイメージできるから、あとは空間の温度を下げていくイメージを作ればいい。確か、熱は分子の運動? 大丈夫、酵母の働きは、ドイチでの修行中に何度も何度もイメージしてきたもん。ゆっくり、ゆっくりって願ってばっかりだった――」
世界の色がなくなるくらいの集中状態。ただでさえスキルの使用には精神力と、体力を要するのだ。
寒いくらいの初春の宵だというのに、シズクの額には汗が滲む。やがてそれは粒となり、枯れた木の葉に吸い込まれていった。
▽
集中力が切れ、少しずつ回復する視覚、聴覚。
ふと見上げれば朱は空を去り、代わりに藍色が覆い尽くしていた。
「そうだ! ごーるでんちゃんは!」
目を覚ましたかのように、突如シズクは声を張り上げた。
見れば、絶え絶えと言う具合だったごーるでんの息は幾分か太くなり、毛皮ごしにも明らかだった胃の膨張はすっかり止まっている。
心身の限界を迎えて『温度操作』のスキルは解けてしまったが、ごーるでんの胸に触れた手からは、ほんのり熱っぽさを感じるくらいだ。
「ごぇえええぇえ!」
轟音とともに、ごーるでんの大きな口から吐き出される大量のガス。膨らんだ胃が一気に縮んだ。
やがて、ごーるでんはゆっくり立ち上がり、ふらつきながらも自力で木の陰へ。
残された力を腹に籠め、すっかり分解されて原形を留めない真っ赤な果実――火瓜――を吐き出す事に成功した。
「ごーるでんちゃん……頑張ったね。私も、上手くやれたみたい。よかった……」
「あっぱれ、あっぱれじゃ! 初めてでスキルを二カ所同時に、それも別個に運用するとは! まっこと恐ろしきは和本人の妄想力じゃのぅ!」
天を仰ぎ、大口を開けてドリンはからからと高らかに笑った。
「……でしょ?」
そんなドリンと、ちょこんと拳を合わせるシズク。
一山越えたとはいえ、まだまだ予断は許さない。
ごーるでんを側で経過を見守らねばと、シズクは歩みを進めようとする。
「あ。これ、ダメなやつかも――」
不慣れな力を使いすぎたからか、視界がぐらぐらと揺れている。
自分の体ではないみたいだ。思ったように足が上がらない。
「シズク?」
ほんの小さな石に躓き、シズクは支えを失ったかのように力なく頭から倒れ――
「い、いかん! 手を突け! そこには岩が――……ッ!」
ドリンの叫声は届かない。シズクは既に夢の世界にいた。
柔らかく、心地よくて暖かい。ごーるでん・あるふぁかのもふもふに埋もれる、そんな幸せな夢の中に。
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