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高窓から差す陽光が暖かく室内を包み、兄が飼う自由な猫が大きく欠伸をして気持ちよさそうに目を閉じている。淹れられてかなりの時間が経過したお茶はまだカップに並々と残っているが、手をつける暇はなかった。
目の前に色とりどりの彩色を施された厚紙が堂々と掲げられ、その後ろから一生懸命な可愛らしい声が続け様に発せられていたからだ。
「以上が『人間が人魚と結婚する10のメリット』でした。ご静聴ありがとうございました」
キースは今、人魚と結婚するメリットについてのプレゼンを受けている。
父や兄の前での諦めない宣言から丸一日。
フェリシアは突然キースの前に現れたかと思えば、小脇に紙の束を抱えていた。
そしてまるで戦いに赴くかのように凛々しく「ゆっくりお話ができる場所はない?」と聞かれ、離宮にある自らの談話室へと彼女を通し──今に至る。
「どう、タイシ? 結婚する気になった!?」
どうと聞かれても。
これが正直な感想だった。返事に苦慮していると、後ろに控えていたゴードンが感心したように呟いた。
「……人魚との結婚にそのような利点があるとは、知らなかったな……」
──感化される者が出てきてしまった……。
何度目かわからない頭痛に思わず眉間を押さえたキースだった。
だがしかしそれも仕方のないことだった。
なにせフェリシアの用意した紙芝居、もといプレゼンの資料には、かつて人魚達が異種族と婚姻した際のメリットだけではなく起きたデメリットも例に出して改善策を提示し、それに対するフェリシアの意気込みも長々と口頭で補足があり、わずかな時間で作られたとは思えないほどの充実の内容だったのだ。
だがしかし。キースは思った。
──思ってたのと違うな、と。
もっとこう、好意をアピールするだとか、いっそリディアに宣戦布告したりだとか──色仕掛けだとかを仕組まれるのではと思っていたのに、なぜだかフェリシアが用意したのはプレゼンだった。
期待の篭る桜色の瞳に向けて、キースは問いかけた。
「……それは、誰かの入れ知恵……じゃない。案、なのかな?」
きょとんとしたフェリシアから返ってきたのは「サラ」だった。
「人魚の魅力をアピールするためにはこれしかないってサラが言うから、二人で考えたの。……これじゃあ、ダメだった?」
「ダメというか……」
あまりにも予想外すぎただけで。
そもそも、異種族──人魚との結婚に尻込みしているのならこのプレゼンは大いに有意義だったろうが、キースが気にしているのはそんなことではない。
ちらりと背後を振り返るも、一人は大いに感心して頷いているし、もう一人は肩を震わせて色々と堪えている。……役に立ちそうにない。
意を決して言った。
「……フェリシア嬢には僕なんかよりももっと素敵な人がたくさんいるよ。君は僕にはもったいないくらいの人だから」
紛れもない本心だが、背後から聞こえてきたのはため息だ。振り返るとライルが呆れたように首を振っている。
不思議に思っていると、目の前に影が差した。
「……フェリシア嬢?」
対面のソファに腰掛けて紙芝居をしていたはずの人魚が、これでもかと頰を膨らませてキースを見下ろしていた。
「まだまだ、これからよ。人魚の求愛はこんなものじゃないんだから!」
言いながらキースの胸に紙の束を押し付けて、フェリシアは憤然と「復習しておいて!」と言い残し、呆気に取られるキースを置いて部屋から立ち去っていった。
残された紙の束を呆然と見つめる。
リディアや他の貴族令嬢達とは違う、綺麗とは言い難い癖のある字だ。きっと、海の中で生活する人魚に文字を書く習慣はないのだろう。
彼女は、どれほど練習してこれを準備してくれたんだろう。
それを思えば胸が苦しいが、これほど愛してくれる人がいたというだけでキースには十分だった。フェリシアには幸せになってほしいから。
──などという感傷に浸るのは、いささか早かったと言うべきだろう。
目の前に色とりどりの彩色を施された厚紙が堂々と掲げられ、その後ろから一生懸命な可愛らしい声が続け様に発せられていたからだ。
「以上が『人間が人魚と結婚する10のメリット』でした。ご静聴ありがとうございました」
キースは今、人魚と結婚するメリットについてのプレゼンを受けている。
父や兄の前での諦めない宣言から丸一日。
フェリシアは突然キースの前に現れたかと思えば、小脇に紙の束を抱えていた。
そしてまるで戦いに赴くかのように凛々しく「ゆっくりお話ができる場所はない?」と聞かれ、離宮にある自らの談話室へと彼女を通し──今に至る。
「どう、タイシ? 結婚する気になった!?」
どうと聞かれても。
これが正直な感想だった。返事に苦慮していると、後ろに控えていたゴードンが感心したように呟いた。
「……人魚との結婚にそのような利点があるとは、知らなかったな……」
──感化される者が出てきてしまった……。
何度目かわからない頭痛に思わず眉間を押さえたキースだった。
だがしかしそれも仕方のないことだった。
なにせフェリシアの用意した紙芝居、もといプレゼンの資料には、かつて人魚達が異種族と婚姻した際のメリットだけではなく起きたデメリットも例に出して改善策を提示し、それに対するフェリシアの意気込みも長々と口頭で補足があり、わずかな時間で作られたとは思えないほどの充実の内容だったのだ。
だがしかし。キースは思った。
──思ってたのと違うな、と。
もっとこう、好意をアピールするだとか、いっそリディアに宣戦布告したりだとか──色仕掛けだとかを仕組まれるのではと思っていたのに、なぜだかフェリシアが用意したのはプレゼンだった。
期待の篭る桜色の瞳に向けて、キースは問いかけた。
「……それは、誰かの入れ知恵……じゃない。案、なのかな?」
きょとんとしたフェリシアから返ってきたのは「サラ」だった。
「人魚の魅力をアピールするためにはこれしかないってサラが言うから、二人で考えたの。……これじゃあ、ダメだった?」
「ダメというか……」
あまりにも予想外すぎただけで。
そもそも、異種族──人魚との結婚に尻込みしているのならこのプレゼンは大いに有意義だったろうが、キースが気にしているのはそんなことではない。
ちらりと背後を振り返るも、一人は大いに感心して頷いているし、もう一人は肩を震わせて色々と堪えている。……役に立ちそうにない。
意を決して言った。
「……フェリシア嬢には僕なんかよりももっと素敵な人がたくさんいるよ。君は僕にはもったいないくらいの人だから」
紛れもない本心だが、背後から聞こえてきたのはため息だ。振り返るとライルが呆れたように首を振っている。
不思議に思っていると、目の前に影が差した。
「……フェリシア嬢?」
対面のソファに腰掛けて紙芝居をしていたはずの人魚が、これでもかと頰を膨らませてキースを見下ろしていた。
「まだまだ、これからよ。人魚の求愛はこんなものじゃないんだから!」
言いながらキースの胸に紙の束を押し付けて、フェリシアは憤然と「復習しておいて!」と言い残し、呆気に取られるキースを置いて部屋から立ち去っていった。
残された紙の束を呆然と見つめる。
リディアや他の貴族令嬢達とは違う、綺麗とは言い難い癖のある字だ。きっと、海の中で生活する人魚に文字を書く習慣はないのだろう。
彼女は、どれほど練習してこれを準備してくれたんだろう。
それを思えば胸が苦しいが、これほど愛してくれる人がいたというだけでキースには十分だった。フェリシアには幸せになってほしいから。
──などという感傷に浸るのは、いささか早かったと言うべきだろう。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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