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第二章
番外編 はじめてのしゅっちょう④
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再度扉が開き、入ってきたのは年配のすらりとした女性だった。綺麗な空色の髪を一つに纏めて肩から垂らしたその女性は騒ぐ一団に目を留めて「あらあらまぁ」と困ったように頬に手を当てた。
「あなたったら、娘をやっと見つけたからってわたしを置いて行かないでくださいな」
言われたのは父親だ。と、なるとこの女性は。
「母さん! 父さんったらひどいのよ。すぐに娘を殴るんだから!」
「あらまぁ、可哀想に。でもねぇ、父さんも娘に会えて嬉しいんですよ。あなたってば滅多に帰ってこないんだから」
そう言って女性はエルザの殴られた頭頂部を優しく撫でて、取り残されたオーウェン達へと目を向けた。
「まぁまぁお久しぶりだこと」
その瞳がキラキラと輝いた。
どこかで会ったことでもあるのかとオーウェンが首を傾げ、グレンとザックも同じ動作を返す。
「ルウ君は相変わらずだけれど、ゼン君は少し背が縮んだかしら。ってこんなこと、男の子に言ってはダメね。あらノエル君は随分大きくなったこと! 成長期だものねぇ」
「母さん! それはルウでもゼンでもノエルでもないわよ!」
人違いだった。
ならば自己紹介をするのはここしかない。意を決して恋人の両親に、頭を下げた。
「初めてお目に──」
「そうだわ、エルザ。あなた、せっかくこの時期に戻ってきたんですから、漬物を持って帰りなさいな。家にあるから」
「漬物! イカ!? イカの塩辛!?」
「帆立もありますよ。包んであげましょうねぇ」
やったぁと飛び跳ねる恋人が「すぐに戻るから待ってて!」と言い残し、母親の背を押して店を後にした。
……父親を置き去りにして。
静まり返る店内で、父親が空いた椅子にドサリと腰掛けた音がやけに重く響いた。オーウェン達が座っていたテーブルとは少々距離のある椅子だ。
「ったく相変わらずの台風娘だな」
ミアに酒と適当に摘めるものを注文し、優秀な店員はすぐにそれらをエルザの父親の前に差し出した。
父親はあの時以降一切オーウェンへ目を向けなかった。届けられた酒にチビチビと口をつけ、タコと海藻を和えたつまみを突いている。
娘が家に向かったのだから自分も戻れば良いところをそうしないのは、娘の恋人から挨拶に来るのを待っていてくれているのかもしれない。
キングからエルザの父親は少し怖い方だと聞いている。心臓が壊れそうなほど騒いだが、意を決して父親の前に立った。
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。オーウェンと申します。お嬢様と、お付き合いさせていただいております」
持ちうる限りの礼を尽くして頭を下げる。少しして頭を上げれば、娘と同じ空色の小さな目が真っ直ぐにオーウェンを射抜いていた。
「おい」
低く響くような声に「はい」と返す。しかし父親は「てめえじゃねえ。そこの、ガキ共だ」と顎でオーウェンの後ろを指した。
成り行きを見守っていたグレンとザックが顔を見合わせ、しかし上官の父親が呼んでいるのだからとすぐさま近寄ってくる。
ザックが先に口を開いた。
「なにかご用でしょうか……?」
「この男は、お前らの上司か?」
この男と言って差されたのはオーウェンだ。二人は頷いた。
「はい」
「そうです」
返答を聞いて、父親は「そうか。なら──」と口を開いた。
「この男の、欠点はなんだ? 近くにいるお前らならこの男をよく知ってるだろう」
思わぬ問いに二人は目を瞬いて、すぐに内心困り果てた。
オーウェンの目の前で欠点を、それもよりにもよって恋人の父親に言うのか、と。
だが、エルザの父親の目は適当なことを言えば容赦はしないと語っている。
しかしいくらなんでも目の前で言うのは気がひけるな、と二人は同時に思って──同時に首を捻った。難しい顔をして、グレンが先に口を開いた。
「……欠点が思いつきません」
「俺もです……あ、怒ると怖い、とかなら……」
「でも俺らってあんまり叱られたことないし、そもそも怒ったら誰でも怖いだろ」
「それは確かにそうだけどさ……」
尚も首を捻る二人だが、エルザの父親がガンッと音を立ててグラスを置いたところで、同時に口を継ぐんだ。
「そうか。なら……俺の娘は詐欺師に騙されてるってこったな。欠点のない人間なんざいるわけがねえ。こいつは欠点をひた隠しにしてる、詐欺師野郎なんだろうよ」
いくらエルザの父親だといえ、言って良いことと悪いことがある。二人は同時に怒りに顔を真っ赤に染めて、グレンが父親に食ってかかった。
「なんだと、この……っ」
「やめろ、グレン!」
だがそれを止めたのは、他ならぬオーウェンだ。
部下を宥めようとグレンの頭に手を置こうとして、グレンの「でもこいつが!」の言葉に掌を拳骨の形に変えた。
「上官の御父君をこいつ呼ばわりするとは何事だ!」
「も、申し訳ありません……」
頭を押さえて素直に謝るグレンに、オーウェンもそれ以上は叱り付けなかったが、実際はエルザの父親に認めてもらえなかったことに心が痛んだ。
おまけに、さきほど父親は確かに『ルウかゼンにもらってもらえ』と口にしていた。あの二人は、父親のお眼鏡にかなったということだ。そのことが密かにオーウェンの胸を締め付けたが、今はそれに構っている場合ではない。
「部下が大変失礼を致しました」と神妙に頭を下げた。
だが、父親は頑なにオーウェンに目を向けない。
寂しく思いつつもオーウェンはその事実を甘んじて受け入れたが、部下二人はそれどころではない。
自分達の返答のせいで、オーウェンがエルザの父親に詐欺師呼ばわりされたのだ。
そんなことはない。二人はとても仲が良いし、オーウェンは素晴らしい上官だ。もしも良いところを聞かれたのならそう答えられるのに、この意地悪な親父は欠点が知りたいという。
グレンとザックは目を見合わせた。何か、上官のために一つでも欠点をあげなければ。
頭の中がぐるぐると揺れたように感じるほど二人は悩み──「そうだ!」とグレンが声を張った。
「先日、エルザ様に水魔法の鞭を当ててくださいとお願いしていた姿は、ちょっとだけ気持ち悪かったです!!」
「あっ、そういうことなら俺もあります! エルザ様を後ろ手に縛られていたのは決して趣味ではないと仰っていましたが、後ろですよ! 確実にご自身の趣味趣向が反映されていたと思われます!!」
二人の眼前に星が散ったようだった。
「この、馬鹿共が!! よりにもよってエルザの父親に!! 言っていいことと悪いことの区別もつかんのか、お前達は!!」
二つの拳を握りしめたオーウェンの怒号に負けじと二人も声を張る。
「だっ、だって、このくらいしか思いつかなかったんです!」
「そうですよ! 立派すぎる欠点じゃないですか!」
「やかましい!! 水の鞭をお願いしていたのは純粋な魔法の研究者としての興味だし、手を縛ったのは反省を促すためだと説明しただろう!! ……まさか今までずっと疑っていたのか!?」
二人の沈黙は肯定であると思われた。
「あなたったら、娘をやっと見つけたからってわたしを置いて行かないでくださいな」
言われたのは父親だ。と、なるとこの女性は。
「母さん! 父さんったらひどいのよ。すぐに娘を殴るんだから!」
「あらまぁ、可哀想に。でもねぇ、父さんも娘に会えて嬉しいんですよ。あなたってば滅多に帰ってこないんだから」
そう言って女性はエルザの殴られた頭頂部を優しく撫でて、取り残されたオーウェン達へと目を向けた。
「まぁまぁお久しぶりだこと」
その瞳がキラキラと輝いた。
どこかで会ったことでもあるのかとオーウェンが首を傾げ、グレンとザックも同じ動作を返す。
「ルウ君は相変わらずだけれど、ゼン君は少し背が縮んだかしら。ってこんなこと、男の子に言ってはダメね。あらノエル君は随分大きくなったこと! 成長期だものねぇ」
「母さん! それはルウでもゼンでもノエルでもないわよ!」
人違いだった。
ならば自己紹介をするのはここしかない。意を決して恋人の両親に、頭を下げた。
「初めてお目に──」
「そうだわ、エルザ。あなた、せっかくこの時期に戻ってきたんですから、漬物を持って帰りなさいな。家にあるから」
「漬物! イカ!? イカの塩辛!?」
「帆立もありますよ。包んであげましょうねぇ」
やったぁと飛び跳ねる恋人が「すぐに戻るから待ってて!」と言い残し、母親の背を押して店を後にした。
……父親を置き去りにして。
静まり返る店内で、父親が空いた椅子にドサリと腰掛けた音がやけに重く響いた。オーウェン達が座っていたテーブルとは少々距離のある椅子だ。
「ったく相変わらずの台風娘だな」
ミアに酒と適当に摘めるものを注文し、優秀な店員はすぐにそれらをエルザの父親の前に差し出した。
父親はあの時以降一切オーウェンへ目を向けなかった。届けられた酒にチビチビと口をつけ、タコと海藻を和えたつまみを突いている。
娘が家に向かったのだから自分も戻れば良いところをそうしないのは、娘の恋人から挨拶に来るのを待っていてくれているのかもしれない。
キングからエルザの父親は少し怖い方だと聞いている。心臓が壊れそうなほど騒いだが、意を決して父親の前に立った。
「挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。オーウェンと申します。お嬢様と、お付き合いさせていただいております」
持ちうる限りの礼を尽くして頭を下げる。少しして頭を上げれば、娘と同じ空色の小さな目が真っ直ぐにオーウェンを射抜いていた。
「おい」
低く響くような声に「はい」と返す。しかし父親は「てめえじゃねえ。そこの、ガキ共だ」と顎でオーウェンの後ろを指した。
成り行きを見守っていたグレンとザックが顔を見合わせ、しかし上官の父親が呼んでいるのだからとすぐさま近寄ってくる。
ザックが先に口を開いた。
「なにかご用でしょうか……?」
「この男は、お前らの上司か?」
この男と言って差されたのはオーウェンだ。二人は頷いた。
「はい」
「そうです」
返答を聞いて、父親は「そうか。なら──」と口を開いた。
「この男の、欠点はなんだ? 近くにいるお前らならこの男をよく知ってるだろう」
思わぬ問いに二人は目を瞬いて、すぐに内心困り果てた。
オーウェンの目の前で欠点を、それもよりにもよって恋人の父親に言うのか、と。
だが、エルザの父親の目は適当なことを言えば容赦はしないと語っている。
しかしいくらなんでも目の前で言うのは気がひけるな、と二人は同時に思って──同時に首を捻った。難しい顔をして、グレンが先に口を開いた。
「……欠点が思いつきません」
「俺もです……あ、怒ると怖い、とかなら……」
「でも俺らってあんまり叱られたことないし、そもそも怒ったら誰でも怖いだろ」
「それは確かにそうだけどさ……」
尚も首を捻る二人だが、エルザの父親がガンッと音を立ててグラスを置いたところで、同時に口を継ぐんだ。
「そうか。なら……俺の娘は詐欺師に騙されてるってこったな。欠点のない人間なんざいるわけがねえ。こいつは欠点をひた隠しにしてる、詐欺師野郎なんだろうよ」
いくらエルザの父親だといえ、言って良いことと悪いことがある。二人は同時に怒りに顔を真っ赤に染めて、グレンが父親に食ってかかった。
「なんだと、この……っ」
「やめろ、グレン!」
だがそれを止めたのは、他ならぬオーウェンだ。
部下を宥めようとグレンの頭に手を置こうとして、グレンの「でもこいつが!」の言葉に掌を拳骨の形に変えた。
「上官の御父君をこいつ呼ばわりするとは何事だ!」
「も、申し訳ありません……」
頭を押さえて素直に謝るグレンに、オーウェンもそれ以上は叱り付けなかったが、実際はエルザの父親に認めてもらえなかったことに心が痛んだ。
おまけに、さきほど父親は確かに『ルウかゼンにもらってもらえ』と口にしていた。あの二人は、父親のお眼鏡にかなったということだ。そのことが密かにオーウェンの胸を締め付けたが、今はそれに構っている場合ではない。
「部下が大変失礼を致しました」と神妙に頭を下げた。
だが、父親は頑なにオーウェンに目を向けない。
寂しく思いつつもオーウェンはその事実を甘んじて受け入れたが、部下二人はそれどころではない。
自分達の返答のせいで、オーウェンがエルザの父親に詐欺師呼ばわりされたのだ。
そんなことはない。二人はとても仲が良いし、オーウェンは素晴らしい上官だ。もしも良いところを聞かれたのならそう答えられるのに、この意地悪な親父は欠点が知りたいという。
グレンとザックは目を見合わせた。何か、上官のために一つでも欠点をあげなければ。
頭の中がぐるぐると揺れたように感じるほど二人は悩み──「そうだ!」とグレンが声を張った。
「先日、エルザ様に水魔法の鞭を当ててくださいとお願いしていた姿は、ちょっとだけ気持ち悪かったです!!」
「あっ、そういうことなら俺もあります! エルザ様を後ろ手に縛られていたのは決して趣味ではないと仰っていましたが、後ろですよ! 確実にご自身の趣味趣向が反映されていたと思われます!!」
二人の眼前に星が散ったようだった。
「この、馬鹿共が!! よりにもよってエルザの父親に!! 言っていいことと悪いことの区別もつかんのか、お前達は!!」
二つの拳を握りしめたオーウェンの怒号に負けじと二人も声を張る。
「だっ、だって、このくらいしか思いつかなかったんです!」
「そうですよ! 立派すぎる欠点じゃないですか!」
「やかましい!! 水の鞭をお願いしていたのは純粋な魔法の研究者としての興味だし、手を縛ったのは反省を促すためだと説明しただろう!! ……まさか今までずっと疑っていたのか!?」
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