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第二章
51 グレン視点
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「違いますっ! わたしは……」
「何が違う。お前が言ったのだろうが。被害者が亡くなったその場には、スペードの10と被害者しかいないのを見たと。スペードの10が犯人ではないのだから、お前しかいない」
断言されたソフィアの顔に、みるみる汗が浮かぶ。助けを求めるようにスペードのキングへと走り寄り、両手を伸ばした。
「ルーファス! 信じて! わたしは殺してなんかっ」
パンと乾いた音がして、ソフィアの伸ばした手が払い除けられた。
「ルーファスさんに近寄らないで。この、人殺し……っ」
まるでスペードのキングを守るようにソフィアの前に立ちはだかったのは、可愛らしい女の人だ。
「この人は私の恋人です。バカ女の最低な嘘に、もう付き合わせないで!」
「恋人!? ふざけんな! ルーファスはわたしの……っ」
可愛らしい女の人に掴みかかろうとしたソフィアが、一瞬で床に沈んだ。
俺達の近くにいたはずの軽薄そうな男性が、ソフィアを後ろ手に床に押さえつけている。
「あんたっ……彼女が浮気してるのに、何してんのよ!! 馬鹿じゃないの!?」
「えー。それ、まだ信じてんのか。しかも浮気ってのは、どの面下げて言ってんだ?」
呆れた調子も軽いその男性の纏う雰囲気が、がらりと変わった。
「改めて名乗ろうか。俺はスペードの9のレグサスだ。白の10は我が国のキングの大切な方で、俺はその護衛に過ぎない。お前のような馬鹿な女に危害を加えられないために、キングから直接命を受けた護衛だ。……言ってる意味は、わかるよな?」
言われたソフィアは顔色を変えたが、その向こうにいるスペードのキングはもう、ソフィアを視界には入れておらず、可愛らしい女性を抱きとめているところだった。
「……我慢を強いて悪かった。今回の俺は本当に駄目なキングだったな」
「エルザさんのためならいくらでも我慢できます。……私はあなたが駄目なキングだなんて思ったことは一度もありませんよ。馬鹿キングとは思いましたけど。それと、ろくなことしないなとはいつも思ってます。あ、あと」
「どんどん出てくんのな……」
可愛らしい見た目に反して、なかなか手厳しい人だった。
「ドレスの件はまだ許してませんから」
「お前の意見を最大限に採用するから、選ぶ場には居させてくれよ。……楽しみにしてたんだって」
「……エルザさんとお揃いのドレスを作ってくれるなら、許してあげてもいいですけど」
「ああ、いいな、それ。エルザにも悪いことしたし、詫び代わりにするか。……色の件はまだ有効かな」
「……可哀想だから、譲歩してあげます」
スペードのキングは「ありがとう」と言って可愛らしい女性の頰に口付けた。
その口を離して女性を見つめる瞳には、紛れもない愛情があった。
「そんな……ルーファス、嘘よね……だって、わたし、ちゃんと選択肢を……」
まるで恋人の浮気に直面したような顔をしたソフィアの前に立ったのは、銀の瞳に対象を射殺すような鋭い眼差しを浮かべたスペードのクイーンだ。
「お前は、誰に断って不躾にも我が国のキングの名を呼び捨てにするのです。ダイヤの国ではこのような無礼がまかり通っているのですか。ダイヤのキング」
視線はソフィアに向いたまま厳しく問われたダイヤのキングは、スペードのキングに対して静かに右手を胸に添え、床に膝をついて頭を下げた。
続いてダイヤのクイーンも同じく膝をついた。拳を白くなるほど握り込んだダイヤのジャックもだ。
ザックと二人で顔を見合わせ、惚けている場合ではないと自国のキング方に倣おうと膝をつきかけて──襟首を掴まれた。
「君らはしなくていい。あの人のことだ……どうせ────に決まってる」
「えっ? 今、なんと……?」
肝心なところが聞き取れず、思わず聞き返す。
しかし襟首を解放したオーウェン様は答えてくれず、ため息だけが返ってきた。
ダイヤのキングの声だけが、その場に残された。
「いいえ。他国のキングの名を呼び捨てにするなど、とんでもないことでございます。スペードのキング。我が国の10の犯した数々の無礼を謝罪いたします。また、この度の一件はすべてダイヤの10主導で行われたものであることをダイヤは認め、この者の処遇は全て、スペードの国の御沙汰に従います」
「アーノルド! あんた、何を勝手なことを……っ!」
未だ往生際の悪いソフィアが叫び、その場にいるすべての人の眉が呆れたように寄った。
そんな女の元に歩み寄ったのは、可愛らしい女性を腕に抱いたままのスペードのキングだ。
「ルーファス! ねぇ、こんなの嘘よね!? わたし、ちゃんとあなたが喜ぶように」
「控えろ。俺は、お前に名を呼ぶ許しを与えた覚えはない」
床に押さえつけられたままのソフィアを立っているスペードのキングが見下ろして、これ以上ないほどの冷たい声が投げつけられた。
視線を外したその目はもう、腕の中の人しか見ていない。
目を大きく見開き固まったソフィアの姿に、ああ、終わったのかと肩から力が抜けた。
「何が違う。お前が言ったのだろうが。被害者が亡くなったその場には、スペードの10と被害者しかいないのを見たと。スペードの10が犯人ではないのだから、お前しかいない」
断言されたソフィアの顔に、みるみる汗が浮かぶ。助けを求めるようにスペードのキングへと走り寄り、両手を伸ばした。
「ルーファス! 信じて! わたしは殺してなんかっ」
パンと乾いた音がして、ソフィアの伸ばした手が払い除けられた。
「ルーファスさんに近寄らないで。この、人殺し……っ」
まるでスペードのキングを守るようにソフィアの前に立ちはだかったのは、可愛らしい女の人だ。
「この人は私の恋人です。バカ女の最低な嘘に、もう付き合わせないで!」
「恋人!? ふざけんな! ルーファスはわたしの……っ」
可愛らしい女の人に掴みかかろうとしたソフィアが、一瞬で床に沈んだ。
俺達の近くにいたはずの軽薄そうな男性が、ソフィアを後ろ手に床に押さえつけている。
「あんたっ……彼女が浮気してるのに、何してんのよ!! 馬鹿じゃないの!?」
「えー。それ、まだ信じてんのか。しかも浮気ってのは、どの面下げて言ってんだ?」
呆れた調子も軽いその男性の纏う雰囲気が、がらりと変わった。
「改めて名乗ろうか。俺はスペードの9のレグサスだ。白の10は我が国のキングの大切な方で、俺はその護衛に過ぎない。お前のような馬鹿な女に危害を加えられないために、キングから直接命を受けた護衛だ。……言ってる意味は、わかるよな?」
言われたソフィアは顔色を変えたが、その向こうにいるスペードのキングはもう、ソフィアを視界には入れておらず、可愛らしい女性を抱きとめているところだった。
「……我慢を強いて悪かった。今回の俺は本当に駄目なキングだったな」
「エルザさんのためならいくらでも我慢できます。……私はあなたが駄目なキングだなんて思ったことは一度もありませんよ。馬鹿キングとは思いましたけど。それと、ろくなことしないなとはいつも思ってます。あ、あと」
「どんどん出てくんのな……」
可愛らしい見た目に反して、なかなか手厳しい人だった。
「ドレスの件はまだ許してませんから」
「お前の意見を最大限に採用するから、選ぶ場には居させてくれよ。……楽しみにしてたんだって」
「……エルザさんとお揃いのドレスを作ってくれるなら、許してあげてもいいですけど」
「ああ、いいな、それ。エルザにも悪いことしたし、詫び代わりにするか。……色の件はまだ有効かな」
「……可哀想だから、譲歩してあげます」
スペードのキングは「ありがとう」と言って可愛らしい女性の頰に口付けた。
その口を離して女性を見つめる瞳には、紛れもない愛情があった。
「そんな……ルーファス、嘘よね……だって、わたし、ちゃんと選択肢を……」
まるで恋人の浮気に直面したような顔をしたソフィアの前に立ったのは、銀の瞳に対象を射殺すような鋭い眼差しを浮かべたスペードのクイーンだ。
「お前は、誰に断って不躾にも我が国のキングの名を呼び捨てにするのです。ダイヤの国ではこのような無礼がまかり通っているのですか。ダイヤのキング」
視線はソフィアに向いたまま厳しく問われたダイヤのキングは、スペードのキングに対して静かに右手を胸に添え、床に膝をついて頭を下げた。
続いてダイヤのクイーンも同じく膝をついた。拳を白くなるほど握り込んだダイヤのジャックもだ。
ザックと二人で顔を見合わせ、惚けている場合ではないと自国のキング方に倣おうと膝をつきかけて──襟首を掴まれた。
「君らはしなくていい。あの人のことだ……どうせ────に決まってる」
「えっ? 今、なんと……?」
肝心なところが聞き取れず、思わず聞き返す。
しかし襟首を解放したオーウェン様は答えてくれず、ため息だけが返ってきた。
ダイヤのキングの声だけが、その場に残された。
「いいえ。他国のキングの名を呼び捨てにするなど、とんでもないことでございます。スペードのキング。我が国の10の犯した数々の無礼を謝罪いたします。また、この度の一件はすべてダイヤの10主導で行われたものであることをダイヤは認め、この者の処遇は全て、スペードの国の御沙汰に従います」
「アーノルド! あんた、何を勝手なことを……っ!」
未だ往生際の悪いソフィアが叫び、その場にいるすべての人の眉が呆れたように寄った。
そんな女の元に歩み寄ったのは、可愛らしい女性を腕に抱いたままのスペードのキングだ。
「ルーファス! ねぇ、こんなの嘘よね!? わたし、ちゃんとあなたが喜ぶように」
「控えろ。俺は、お前に名を呼ぶ許しを与えた覚えはない」
床に押さえつけられたままのソフィアを立っているスペードのキングが見下ろして、これ以上ないほどの冷たい声が投げつけられた。
視線を外したその目はもう、腕の中の人しか見ていない。
目を大きく見開き固まったソフィアの姿に、ああ、終わったのかと肩から力が抜けた。
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