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第二章
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再度引かれたオーウェンの腕を掴んで、ダイヤのクイーンを解放してやる。二発目はさすがにまずいだろう。
「さて、じゃあどうすっかね。俺がダイヤの10に近づけばいいのか?」
「それなんだがなぁ……あの女は9のレグには興味を持たないかもな」
落ち着いたのか、そう見せかけているのか、オーウェンは居住まいを正してから頷いた。
「俺もそう思います。俺をスペードの5としてしか認識していなかった時、あの女は俺を視界にも入れませんでした。狙いはキング位からジャック位かと」
思わず眉を潜めてしまう。
「それなら確かにエルザをお前らから離す理由にもなるだろうが……それにしたって、そのやり方はこっちの印象が最悪になるだろ。その辺は考えてないのかね?」
「それ込みでも俺らを落とせる自信があるんじゃねぇかな。現にダイヤは落とせてるわけだからな」
正直言って、そこまでの女には見えなかったが、実績はある訳だ。魔性の女ってのは見た目に左右されない。
「なら目的を聞き出すのはルーファス達がやった方がはえーな。俺は駆け付け損か」
肩を竦めたルーファスは「そうでもない」と言い出した。
「テディには悪いが、正直に言って俺はスペードの人間以外信用してないからな。だからレグにはララの護衛を頼む」
「……そうくるか」
ララちゃんといえば、白の女王陛下のわがままの被害者で、スペードの城に客として滞在しているとしか聞かされていなかった。
ついこの間、今回のトラブルについての対策会議で、白の10なんて位をもらったということと、あとはどうやら…………ルーファスがかなり気に入っている女の子だと分かったくらいだ。
「可愛い女の子の護衛は光栄だけどなー」
ルーファスの気に入ってる相手だと分かった今、多少面倒な役どころだと思わざるを得ない。
「頼むよ。……あの女はどうも気色が悪い。確証はねぇが……今回の殺人事件の犯人は、あの女かもな」
静寂が降りる。
今回の騒動、たかだかルーファス達を落とすために、とはもう言えない。一つの国のキングからジャックには、殺人を犯してでも狙う価値がある。現にダイヤのキングとジャックはすでに女の言いなりなわけだからな。
「エルザを閉じ込めてもまだララという障害があると分かった時に、あの女がどう動くかがわからない。だから俺やゼン、ノエルはしばらくララに近付かないようにするつもりだ」
「……オーウェンじゃダメなのかよ?」
「事件を調べる都合もあるし、なにより恋人と会えない時に他の女と二人きりにさせるのは、オーウェンにもエルザにも悪いだろ。ララにもな」
こうなったらもう、こいつを説得できるカードはこちらにはない。降参を表して「謹んでお受けします、キング」と口にした。
「助かるよ。だがな、レグサス」
軽い調子の声に、ぶるりと身震いした。
「ララに、手を出すなよ?」
「…………っだから俺はこんな役回りは嫌だっつったんだ! 牽制してくんじゃねーよ!!」
調子は軽くとも、この笑顔と言葉の重みはとんでもない。
久しぶりにでかい声を出して、どっと疲れた。本当に、こいつらと関わるとろくなことがない……。
「もしもあの女が俺達に接触してくることがあれば、適当に話を合わせて目的を聞き出すか。今晩はそれぞれ、自分の部屋で待機だな」
「ララちゃんは自分の部屋にいるのか?」
俺は今来たばかりで自分の部屋をもらえていない。ダイヤのクイーンが部屋を用意すると言ってくれたが、正直に言えば、ララちゃんからあまり離れたくはなかった。
「ララちゃんの部屋が寝室と居室で分かれてるなら、居室のソファでも借りるわ。……って、怒るなよ? そんな危ねー女がいるなら、目を離したくないっつーだけだ」
「わかってるよ。俺はレグを信じてるからな」
この野郎……。
恨めしく睨んだところで、この男はどこ吹く風だった。
そうして各自解散となったわけだが──。
「兄さんや。ちょっと聞いてもいいかい」
「なんだよ?」
無表情で去りゆく、ゆるふわ少年の背中を見つめつつ、その兄貴にそっと問いかけた。
「ノエル君のあれは、大丈夫なのかね? 危険度的な意味で」
いつもの天使スマイルが皆無なんだが。
「ああ……あれはエルザ不足だ。長期休みの時はいつもああなる。…………近寄るなよ。暴れたら俺にも止められないからな」
「…………中毒性のたけー女だな……」
遠くから「俺の恋人を違法薬物のように言わないでください!」との苦情が耳に届いた。こっちにも、エルザ不足患者がいやがったか。
「さて、じゃあどうすっかね。俺がダイヤの10に近づけばいいのか?」
「それなんだがなぁ……あの女は9のレグには興味を持たないかもな」
落ち着いたのか、そう見せかけているのか、オーウェンは居住まいを正してから頷いた。
「俺もそう思います。俺をスペードの5としてしか認識していなかった時、あの女は俺を視界にも入れませんでした。狙いはキング位からジャック位かと」
思わず眉を潜めてしまう。
「それなら確かにエルザをお前らから離す理由にもなるだろうが……それにしたって、そのやり方はこっちの印象が最悪になるだろ。その辺は考えてないのかね?」
「それ込みでも俺らを落とせる自信があるんじゃねぇかな。現にダイヤは落とせてるわけだからな」
正直言って、そこまでの女には見えなかったが、実績はある訳だ。魔性の女ってのは見た目に左右されない。
「なら目的を聞き出すのはルーファス達がやった方がはえーな。俺は駆け付け損か」
肩を竦めたルーファスは「そうでもない」と言い出した。
「テディには悪いが、正直に言って俺はスペードの人間以外信用してないからな。だからレグにはララの護衛を頼む」
「……そうくるか」
ララちゃんといえば、白の女王陛下のわがままの被害者で、スペードの城に客として滞在しているとしか聞かされていなかった。
ついこの間、今回のトラブルについての対策会議で、白の10なんて位をもらったということと、あとはどうやら…………ルーファスがかなり気に入っている女の子だと分かったくらいだ。
「可愛い女の子の護衛は光栄だけどなー」
ルーファスの気に入ってる相手だと分かった今、多少面倒な役どころだと思わざるを得ない。
「頼むよ。……あの女はどうも気色が悪い。確証はねぇが……今回の殺人事件の犯人は、あの女かもな」
静寂が降りる。
今回の騒動、たかだかルーファス達を落とすために、とはもう言えない。一つの国のキングからジャックには、殺人を犯してでも狙う価値がある。現にダイヤのキングとジャックはすでに女の言いなりなわけだからな。
「エルザを閉じ込めてもまだララという障害があると分かった時に、あの女がどう動くかがわからない。だから俺やゼン、ノエルはしばらくララに近付かないようにするつもりだ」
「……オーウェンじゃダメなのかよ?」
「事件を調べる都合もあるし、なにより恋人と会えない時に他の女と二人きりにさせるのは、オーウェンにもエルザにも悪いだろ。ララにもな」
こうなったらもう、こいつを説得できるカードはこちらにはない。降参を表して「謹んでお受けします、キング」と口にした。
「助かるよ。だがな、レグサス」
軽い調子の声に、ぶるりと身震いした。
「ララに、手を出すなよ?」
「…………っだから俺はこんな役回りは嫌だっつったんだ! 牽制してくんじゃねーよ!!」
調子は軽くとも、この笑顔と言葉の重みはとんでもない。
久しぶりにでかい声を出して、どっと疲れた。本当に、こいつらと関わるとろくなことがない……。
「もしもあの女が俺達に接触してくることがあれば、適当に話を合わせて目的を聞き出すか。今晩はそれぞれ、自分の部屋で待機だな」
「ララちゃんは自分の部屋にいるのか?」
俺は今来たばかりで自分の部屋をもらえていない。ダイヤのクイーンが部屋を用意すると言ってくれたが、正直に言えば、ララちゃんからあまり離れたくはなかった。
「ララちゃんの部屋が寝室と居室で分かれてるなら、居室のソファでも借りるわ。……って、怒るなよ? そんな危ねー女がいるなら、目を離したくないっつーだけだ」
「わかってるよ。俺はレグを信じてるからな」
この野郎……。
恨めしく睨んだところで、この男はどこ吹く風だった。
そうして各自解散となったわけだが──。
「兄さんや。ちょっと聞いてもいいかい」
「なんだよ?」
無表情で去りゆく、ゆるふわ少年の背中を見つめつつ、その兄貴にそっと問いかけた。
「ノエル君のあれは、大丈夫なのかね? 危険度的な意味で」
いつもの天使スマイルが皆無なんだが。
「ああ……あれはエルザ不足だ。長期休みの時はいつもああなる。…………近寄るなよ。暴れたら俺にも止められないからな」
「…………中毒性のたけー女だな……」
遠くから「俺の恋人を違法薬物のように言わないでください!」との苦情が耳に届いた。こっちにも、エルザ不足患者がいやがったか。
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