ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

文字の大きさ
上 下
141 / 206
第二章

23

しおりを挟む
 再度引かれたオーウェンの腕を掴んで、ダイヤのクイーンを解放してやる。二発目はさすがにまずいだろう。

「さて、じゃあどうすっかね。俺がダイヤの10に近づけばいいのか?」
「それなんだがなぁ……あの女は9のレグには興味を持たないかもな」

 落ち着いたのか、そう見せかけているのか、オーウェンは居住まいを正してから頷いた。

「俺もそう思います。俺をスペードの5としてしか認識していなかった時、あの女は俺を視界にも入れませんでした。狙いはキング位からジャック位かと」

 思わず眉を潜めてしまう。

「それなら確かにエルザをお前らから離す理由にもなるだろうが……それにしたって、そのやり方はこっちの印象が最悪になるだろ。その辺は考えてないのかね?」
「それ込みでも俺らを落とせる自信があるんじゃねぇかな。現にダイヤは落とせてるわけだからな」

 正直言って、そこまでの女には見えなかったが、実績はある訳だ。魔性の女ってのは見た目に左右されない。

「なら目的を聞き出すのはルーファス達がやった方がはえーな。俺は駆け付け損か」

 肩を竦めたルーファスは「そうでもない」と言い出した。

「テディには悪いが、正直に言って俺はスペードの人間以外信用してないからな。だからレグにはララの護衛を頼む」
「……そうくるか」

 ララちゃんといえば、白の女王陛下のわがままの被害者で、スペードの城に客として滞在しているとしか聞かされていなかった。
 ついこの間、今回のトラブルについての対策会議で、白の10なんて位をもらったということと、あとはどうやら…………ルーファスがかなり気に入っている女の子だと分かったくらいだ。

「可愛い女の子の護衛は光栄だけどなー」

 ルーファスの気に入ってる相手だと分かった今、多少面倒な役どころだと思わざるを得ない。

「頼むよ。……あの女はどうも気色が悪い。確証はねぇが……今回の殺人事件の犯人は、あの女かもな」

 静寂が降りる。

 今回の騒動、たかだかルーファス達を落とすために、とはもう言えない。一つの国のキングからジャックには、殺人を犯してでも狙う価値がある。現にダイヤのキングとジャックはすでに女の言いなりなわけだからな。

「エルザを閉じ込めてもまだララという障害があると分かった時に、あの女がどう動くかがわからない。だから俺やゼン、ノエルはしばらくララに近付かないようにするつもりだ」
「……オーウェンじゃダメなのかよ?」
「事件を調べる都合もあるし、なにより恋人と会えない時に他の女と二人きりにさせるのは、オーウェンにもエルザにも悪いだろ。ララにもな」

 こうなったらもう、こいつを説得できるカードはこちらにはない。降参を表して「謹んでお受けします、キング」と口にした。

「助かるよ。だがな、レグサス」

 軽い調子の声に、ぶるりと身震いした。

「ララに、手を出すなよ?」
「…………っだから俺はこんな役回りは嫌だっつったんだ! 牽制してくんじゃねーよ!!」

 調子は軽くとも、この笑顔と言葉の重みはとんでもない。
 久しぶりにでかい声を出して、どっと疲れた。本当に、こいつらと関わるとろくなことがない……。



「もしもあの女が俺達に接触してくることがあれば、適当に話を合わせて目的を聞き出すか。今晩はそれぞれ、自分の部屋で待機だな」
「ララちゃんは自分の部屋にいるのか?」

 俺は今来たばかりで自分の部屋をもらえていない。ダイヤのクイーンが部屋を用意すると言ってくれたが、正直に言えば、ララちゃんからあまり離れたくはなかった。

「ララちゃんの部屋が寝室と居室で分かれてるなら、居室のソファでも借りるわ。……って、怒るなよ? そんな危ねー女がいるなら、目を離したくないっつーだけだ」
「わかってるよ。俺はレグを信じてるからな」

 この野郎……。
 恨めしく睨んだところで、この男はどこ吹く風だった。

 そうして各自解散となったわけだが──。



「兄さんや。ちょっと聞いてもいいかい」
「なんだよ?」

 無表情で去りゆく、ゆるふわ少年の背中を見つめつつ、その兄貴にそっと問いかけた。

「ノエル君のあれは、大丈夫なのかね? 危険度的な意味で」

 いつもの天使スマイルが皆無なんだが。

「ああ……あれはエルザ不足だ。長期休みの時はいつもああなる。…………近寄るなよ。暴れたら俺にも止められないからな」
「…………中毒性のたけー女だな……」

 遠くから「俺の恋人を違法薬物のように言わないでください!」との苦情が耳に届いた。こっちにも、エルザ不足患者がいやがったか。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...