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第二章
22
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ノックの音に、ルーファスが入室を促す声をかける。
「申し訳ございません。遅くなりました」
「いや、むしろ早すぎるだろ」
囚われの恋人に会いに行っていると聞いていたから、てっきり今晩は戻らないものだと思っていた。
思わず声をかけた俺を見て、オーウェンは目を丸くさせた。
「レグサス。あなたがどうしてここに?」
その問いには、我らがキングが答えた。
「俺が、城を出る前に言っといたんだよ。後から追いかけて来いって。こいつにダイヤの10の目的を聞き出させるつもりだったが……どうも、難しそうだな。エルザはどうだった?」
聞かれたオーウェンは、ほんの少し答えに迷ったようだった。
「……いつもより言葉が直接的で……不安がっていました。その……皆さんがあの女に声をかけられてはいないか、と」
「俺らが? まさか、あの女に籠絡されんじゃないかって?」
ルーファスの声に、呆れが混じる。ダイヤの10には、ダイヤのキングやジャックがすっかり参ってるらしい。だからといって、こいつらまで惚れ込むってのは、ちょっとばかし考えが飛躍しているような気がしなくもない。
「あんな言葉で騙されると思われたなら心外ですよ。私には一人で頑張っているとかなんとか言っていましたが、あんな、エルザの存在を無視したような言葉を言われて、誰が喜ぶものですか。呆れどころか嫌悪しか抱けませんよ」
憤慨しているゼンは、珍しく手にしたティーカップを音を立てて置いた。よほど腹に据えかねているらしい。ノエルは……いや、今は視線を向けないでおこう。
「俺やノエルにもなにやら言ってきたが……オーウェンにはなかったな。いや、部屋を出る前に何か言ってたか。お前、あれと知り合いなのか?」
「いいえ。初めて会いました。……ですが、もしもあの女の目的が各国のキング位からジャック位なら……兄のことを調べた過程で、俺のことを知ったのかもしれません」
「お前、兄貴がいるのか?」
初耳だ。問い掛ければ、言いづらそうに、というよりも嫌そうな顔でオーウェンは口を開いた。
「……俺の兄は、現クローバーのキングだ」
思わずルーファスに顔を向けると、肩を竦められた。どうやら知っていたらしい。
「クローバーのキングを落とすなら、確かにお前と親しくしておくのが一番の近道かもな。あのブラコン野郎なら、弟の知り合いってだけでガードが緩くなりそうだ」
「いいえ、それは逆で……いや、兄のことは置いておきましょう。今はエルザです」
よほど兄貴が苦手らしいオーウェンは、頭を振る動きをして、部屋の一点に目を向けた。
「あれほど不安がるエルザを、これ以上一人にしておくわけにはいきません。俺はこれからこのダイヤの人間を半殺しにしますから、同じ牢に投獄されるよう取り計らっていただけますか、キング」
そう言ってオーウェンは、ダイヤの人間の襟首を掴み、拳を振り上げた。
「いやいやいや、待ってくださいよ! 私はエルザの手紙をちゃんと届けたじゃありませんかぁ、オーウェン殿」
部屋にしれっと居座っていたダイヤのクイーンが顔を引きつらせて拒絶している。オーウェンも今回の件には相当キテるらしい。
「やかましい。お前らの不始末で、どうしてエルザが投獄される流れになるんだ。まずは死んで詫びろ」
「いや半殺しのはずでは!? オ、オーウェン殿、なんだか性格変わりましたね!?」
「残念だが、俺はこれが素だ。他国のクイーンになら礼も尽くすが、お前は今日で殉職するから、もう猫を被らなくてもいいだろ」
「順序が逆ですよぉ! スペードのキング、お助けください! あなたの5が乱心されております!」
「これに関しちゃ、庇う道理はねぇんだよなぁ」
わざとらしい哀れな声を出すダイヤのクイーンは「エルザはあなたの大切な上司であるとは心得ておりますよ! なるべく早くお出しするよう尽力しますから、それまでは平にご容赦を」と情けなく命乞いをしている。
大切な上司、か。……前からこのニヤけた男からは、俺らと同じ匂いがしていたが、まさかなぁ……。
「上司だが、その前にエルザは俺の恋人だ。恋人の不遇に怒りを覚えない男がいると思うか」
苛立ちがピークらしいオーウェンは、極めてはっきりとそう口にして、ダイヤのクイーンを見下ろした。
これはもう一発くらいは見て見ぬ振りをしてやるべきだろうと静観の構えで見守るが、見下ろされた方は、口をポカンと開けたまま固まってしまった。
「こいびとって……………………あ、あんなの、どうやったら落とせるんですか!!?」
直後、オーウェンの拳は鋭く唸り、情けない悲鳴が飛んだ。あんなのの幼馴染の一人は肩を震わせ、もう一人は額を押さえている。残る一人は無表情で空を見つめていた。
「申し訳ございません。遅くなりました」
「いや、むしろ早すぎるだろ」
囚われの恋人に会いに行っていると聞いていたから、てっきり今晩は戻らないものだと思っていた。
思わず声をかけた俺を見て、オーウェンは目を丸くさせた。
「レグサス。あなたがどうしてここに?」
その問いには、我らがキングが答えた。
「俺が、城を出る前に言っといたんだよ。後から追いかけて来いって。こいつにダイヤの10の目的を聞き出させるつもりだったが……どうも、難しそうだな。エルザはどうだった?」
聞かれたオーウェンは、ほんの少し答えに迷ったようだった。
「……いつもより言葉が直接的で……不安がっていました。その……皆さんがあの女に声をかけられてはいないか、と」
「俺らが? まさか、あの女に籠絡されんじゃないかって?」
ルーファスの声に、呆れが混じる。ダイヤの10には、ダイヤのキングやジャックがすっかり参ってるらしい。だからといって、こいつらまで惚れ込むってのは、ちょっとばかし考えが飛躍しているような気がしなくもない。
「あんな言葉で騙されると思われたなら心外ですよ。私には一人で頑張っているとかなんとか言っていましたが、あんな、エルザの存在を無視したような言葉を言われて、誰が喜ぶものですか。呆れどころか嫌悪しか抱けませんよ」
憤慨しているゼンは、珍しく手にしたティーカップを音を立てて置いた。よほど腹に据えかねているらしい。ノエルは……いや、今は視線を向けないでおこう。
「俺やノエルにもなにやら言ってきたが……オーウェンにはなかったな。いや、部屋を出る前に何か言ってたか。お前、あれと知り合いなのか?」
「いいえ。初めて会いました。……ですが、もしもあの女の目的が各国のキング位からジャック位なら……兄のことを調べた過程で、俺のことを知ったのかもしれません」
「お前、兄貴がいるのか?」
初耳だ。問い掛ければ、言いづらそうに、というよりも嫌そうな顔でオーウェンは口を開いた。
「……俺の兄は、現クローバーのキングだ」
思わずルーファスに顔を向けると、肩を竦められた。どうやら知っていたらしい。
「クローバーのキングを落とすなら、確かにお前と親しくしておくのが一番の近道かもな。あのブラコン野郎なら、弟の知り合いってだけでガードが緩くなりそうだ」
「いいえ、それは逆で……いや、兄のことは置いておきましょう。今はエルザです」
よほど兄貴が苦手らしいオーウェンは、頭を振る動きをして、部屋の一点に目を向けた。
「あれほど不安がるエルザを、これ以上一人にしておくわけにはいきません。俺はこれからこのダイヤの人間を半殺しにしますから、同じ牢に投獄されるよう取り計らっていただけますか、キング」
そう言ってオーウェンは、ダイヤの人間の襟首を掴み、拳を振り上げた。
「いやいやいや、待ってくださいよ! 私はエルザの手紙をちゃんと届けたじゃありませんかぁ、オーウェン殿」
部屋にしれっと居座っていたダイヤのクイーンが顔を引きつらせて拒絶している。オーウェンも今回の件には相当キテるらしい。
「やかましい。お前らの不始末で、どうしてエルザが投獄される流れになるんだ。まずは死んで詫びろ」
「いや半殺しのはずでは!? オ、オーウェン殿、なんだか性格変わりましたね!?」
「残念だが、俺はこれが素だ。他国のクイーンになら礼も尽くすが、お前は今日で殉職するから、もう猫を被らなくてもいいだろ」
「順序が逆ですよぉ! スペードのキング、お助けください! あなたの5が乱心されております!」
「これに関しちゃ、庇う道理はねぇんだよなぁ」
わざとらしい哀れな声を出すダイヤのクイーンは「エルザはあなたの大切な上司であるとは心得ておりますよ! なるべく早くお出しするよう尽力しますから、それまでは平にご容赦を」と情けなく命乞いをしている。
大切な上司、か。……前からこのニヤけた男からは、俺らと同じ匂いがしていたが、まさかなぁ……。
「上司だが、その前にエルザは俺の恋人だ。恋人の不遇に怒りを覚えない男がいると思うか」
苛立ちがピークらしいオーウェンは、極めてはっきりとそう口にして、ダイヤのクイーンを見下ろした。
これはもう一発くらいは見て見ぬ振りをしてやるべきだろうと静観の構えで見守るが、見下ろされた方は、口をポカンと開けたまま固まってしまった。
「こいびとって……………………あ、あんなの、どうやったら落とせるんですか!!?」
直後、オーウェンの拳は鋭く唸り、情けない悲鳴が飛んだ。あんなのの幼馴染の一人は肩を震わせ、もう一人は額を押さえている。残る一人は無表情で空を見つめていた。
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