137 / 206
第二章
19
しおりを挟む
すぐに駆け寄るも、初めて鉄格子が煩わしく感じた。これがなければ、簡単に触れられる距離に、愛する人がいるのに。
「……オーウェン」
「二日ぶりだな。あんたとこんなに離れたのは初めてじゃないか?」
恋人の安堵した表情に内心でホッとする。怒られると思っていたけど、大丈夫みたいだ。
「補佐になってからは毎日一緒にいたものね」
「ああ。毎日が尻拭いの日々だ」
からかう調子すら、心がポカポカとするほど優しい。どうやら自分で思っていたよりも、参っていたらしい。
「……眠れていないのか。疲れてるみたいだな」
鉄格子の隙間から差し込まれた手が、私の目元に触れる。その仕草は優しくて暖かくて、涙が出そうだ。
「だって、ベッドが硬いんだもの。あなたの部屋のベッドが恋しいわ」
「恋しいのは、ベッドだけか?」
ほんの少し意地悪な問いに、体がぞくりと熱くなった。二日も離れていたからか、エメラルドの瞳から放たれる色めいた視線を、いつも以上に意識してしまう。
「あ、当たり前でしょう。……それよりも、聞いてもいい?」
「なんだ?」
あからさまな話題逸らしを笑われる。それでも、聞きたいことがあるのは本当だ。
「ダイヤの10は、ルーファス達になにか、変なことを言ったりしなかった? 例えば、私はあなたの辛さを分かってるわ、みたいな……」
ソフィアの目的がダイヤの攻略対象達の支配だけとは限らない。ルーファス達に会えるのを楽しみにしてる風だったし、もしかしたらハートの国や──クローバーも狙っているかも。
もしも私がこんなところでのんびりしてる間に、ルーファス達が攻略されていたら……。
「……いや? 話し合いは全てキング同士で行われたし、ダイヤの10はダイヤのキングとしか話をしていなかったな。こちらには一度も目を向けなかったよ」
「……そう」
オーウェンの言葉に、強張っていた体から力が抜けた。
もしかしたら、ソフィアもララのようにダイヤの国が好きだったのかしら。私の勘違いだったのかもしれない。
「それが聞けて安心したわ。アリー達がなんだか変だったから、少し心配だったのよ。テディから手紙は受け取ったのよね?」
「ああ。さすがエルザだな。皆さん、すぐに怒気を収めてしまわれたよ」
「どうせ後先考えずに怒ってると思ったわ」
「あんたがこちら側なら、同じように怒っただろ」
ぐうの音も出ない。
「地下牢はさすがに、とは思ったわよ。けどここもいいものよ。あなたが会いに来てくれたから、囚われのお姫様の気分が味わえてるわ」
「……それのどこがいいんだか。俺は、姫君には抱きしめられる距離にいて欲しいと思うよ」
差し込まれた手が背中に回り、抱き寄せられる。間に挟まる鉄格子が冷たいのに、触れられた背中は熱くて──。
「…………あっ」
そっと、オーウェンの手が撫でるように背中を走った。思わず声が漏れて、口を手で押さえる。
「オーウェン……?」
暖かい手は動きを止めない。その度に体がびくりと震えて、そっと大好きな顔を覗き込むも、楽しげで妖しい瞳で見つめられていて、堪えきれない声が指の間から漏れる。その度に喜びを上回る羞恥で体の芯が熱くなった。
「今晩は、ここの硬いベッドで我慢して。俺のことだけ考えて、ゆっくり休め。すぐにこんなところから出してあげますから」
掠れた声が、熱い息と共に耳に届く。それにすら、体が震えてしまう。
「わ、わかった……」
震えた返事に満足したらしいオーウェンは、手をそっと離した。
離れる間際に、そっと愛の言葉を囁いて。
「……こんなこと、しにきたの?」
照れ隠しで睨んだところで、笑顔でかわされる。
熱くなった頰をそっと撫でられた。
「ここから出たら、何かしたいことはあるか?」
「迷惑かけたのに、ご褒美をくれるの?」
「あんたは今回は被害者だろ。迷惑なんてかかってないよ」
頰を撫でる手と逆の手が、鉄格子を掴む私の手に触れる。指が数本だけ繋がって、心が幸せで満たされる。
「じゃあ、またデートがしたいわ。今度はディナーのお店は私が決めるの」
「いいな。次はスペードの国でデートしようか」
「他国は懲り懲りってわけね?」
「バレたか。……今度は、何かプレゼントさせて欲しい。デートの記念になるものを、エルザに贈りたいから」
「それなら、お揃いで何か買うのはどう? あなたへは私が贈るわ」
「ああ、それもいいが……二人の部屋に飾る家具、というのはどうかな」
二人の部屋。
驚いて言葉が途切れた。
「今も毎晩どちらかの部屋で寝泊りしてるだろ。城にある二人部屋に移動させてもらえないか、キングに頼むつもりなんだが……どうかな」
「あ、そ、そう、ね……」
さすがに『そういうこと』ではなかったらしい。それでも、心臓がうるさく騒いでエメラルドの瞳を見つめ返せない。
そんな私に、オーウェンは「それで……」と続けた。
「エルザが、俺と生活していく中で、不満がなければ……あなたに伝えたいことがあるんだ」
触れた指がとても熱くなって、目の奥がじわりと滲んだ。
「……不満なんて、出ると思う……?」
震える声で尋ねれば、オーウェンは「出ないに決まってるが、恋人気分を楽しむのもいいだろ」と本当に楽しそうな笑顔と共に断言した。
目元を優しく拭ったオーウェンは、一転して残念そうな顔になって時計を取り出した。
「……もう戻らないと。また来ます。いや、次は解放される時にと言った方がいいか」
「ええ……来てくれて、会えて嬉しかったわ」
「俺もだ」
別れ際にキスできないのが残念だ。鉄格子を掴む手は全然冷たくならない。
同じことを考えたらしいオーウェンは、自らの指を唇に付けると、それを私の唇にそっと押し当てた。
優しい瞳は、今はこれで我慢だと言っているようだった。
何度も振り返りながら去っていくオーウェンの姿が見えなくなって、そっとベッドに腰を下ろした。
一つ、ため息が漏れる。
……伝えたいこと。伝えたい、こと。だって。
昨夜眠れていない私のために、してくれたことかもしれないけど──。
「眠気が全部吹き飛んだわよ……」
恨めしい声にすらひどく熱が篭って、素直にここに入ったことを後悔した。
ガチャンと大きな音がして、体が跳ねた。
「わっ、あ、あの、も、申し訳、ない……っ」
慌てた様子で倒した槍を拾う若い男に、私は思い出した。
……見張りのダイヤの兵士さんが、いたんだった。
「えっと……ご、ごめんなさい……?」
「い、いえ……」
真っ赤になった青年を前に、恥ずかしいやら申し訳ないやらで居た堪れなくなる。
「……ふふっ」
申し訳ないけど、なんだか可笑しくて笑ってしまった。
真っ赤な顔でこちらを睨む青年に微笑みかける。
「ねぇ。あなた、お名前は?」
この可愛らしい兵士さんとは、少しだけ打ち解けられそうだ。
「……オーウェン」
「二日ぶりだな。あんたとこんなに離れたのは初めてじゃないか?」
恋人の安堵した表情に内心でホッとする。怒られると思っていたけど、大丈夫みたいだ。
「補佐になってからは毎日一緒にいたものね」
「ああ。毎日が尻拭いの日々だ」
からかう調子すら、心がポカポカとするほど優しい。どうやら自分で思っていたよりも、参っていたらしい。
「……眠れていないのか。疲れてるみたいだな」
鉄格子の隙間から差し込まれた手が、私の目元に触れる。その仕草は優しくて暖かくて、涙が出そうだ。
「だって、ベッドが硬いんだもの。あなたの部屋のベッドが恋しいわ」
「恋しいのは、ベッドだけか?」
ほんの少し意地悪な問いに、体がぞくりと熱くなった。二日も離れていたからか、エメラルドの瞳から放たれる色めいた視線を、いつも以上に意識してしまう。
「あ、当たり前でしょう。……それよりも、聞いてもいい?」
「なんだ?」
あからさまな話題逸らしを笑われる。それでも、聞きたいことがあるのは本当だ。
「ダイヤの10は、ルーファス達になにか、変なことを言ったりしなかった? 例えば、私はあなたの辛さを分かってるわ、みたいな……」
ソフィアの目的がダイヤの攻略対象達の支配だけとは限らない。ルーファス達に会えるのを楽しみにしてる風だったし、もしかしたらハートの国や──クローバーも狙っているかも。
もしも私がこんなところでのんびりしてる間に、ルーファス達が攻略されていたら……。
「……いや? 話し合いは全てキング同士で行われたし、ダイヤの10はダイヤのキングとしか話をしていなかったな。こちらには一度も目を向けなかったよ」
「……そう」
オーウェンの言葉に、強張っていた体から力が抜けた。
もしかしたら、ソフィアもララのようにダイヤの国が好きだったのかしら。私の勘違いだったのかもしれない。
「それが聞けて安心したわ。アリー達がなんだか変だったから、少し心配だったのよ。テディから手紙は受け取ったのよね?」
「ああ。さすがエルザだな。皆さん、すぐに怒気を収めてしまわれたよ」
「どうせ後先考えずに怒ってると思ったわ」
「あんたがこちら側なら、同じように怒っただろ」
ぐうの音も出ない。
「地下牢はさすがに、とは思ったわよ。けどここもいいものよ。あなたが会いに来てくれたから、囚われのお姫様の気分が味わえてるわ」
「……それのどこがいいんだか。俺は、姫君には抱きしめられる距離にいて欲しいと思うよ」
差し込まれた手が背中に回り、抱き寄せられる。間に挟まる鉄格子が冷たいのに、触れられた背中は熱くて──。
「…………あっ」
そっと、オーウェンの手が撫でるように背中を走った。思わず声が漏れて、口を手で押さえる。
「オーウェン……?」
暖かい手は動きを止めない。その度に体がびくりと震えて、そっと大好きな顔を覗き込むも、楽しげで妖しい瞳で見つめられていて、堪えきれない声が指の間から漏れる。その度に喜びを上回る羞恥で体の芯が熱くなった。
「今晩は、ここの硬いベッドで我慢して。俺のことだけ考えて、ゆっくり休め。すぐにこんなところから出してあげますから」
掠れた声が、熱い息と共に耳に届く。それにすら、体が震えてしまう。
「わ、わかった……」
震えた返事に満足したらしいオーウェンは、手をそっと離した。
離れる間際に、そっと愛の言葉を囁いて。
「……こんなこと、しにきたの?」
照れ隠しで睨んだところで、笑顔でかわされる。
熱くなった頰をそっと撫でられた。
「ここから出たら、何かしたいことはあるか?」
「迷惑かけたのに、ご褒美をくれるの?」
「あんたは今回は被害者だろ。迷惑なんてかかってないよ」
頰を撫でる手と逆の手が、鉄格子を掴む私の手に触れる。指が数本だけ繋がって、心が幸せで満たされる。
「じゃあ、またデートがしたいわ。今度はディナーのお店は私が決めるの」
「いいな。次はスペードの国でデートしようか」
「他国は懲り懲りってわけね?」
「バレたか。……今度は、何かプレゼントさせて欲しい。デートの記念になるものを、エルザに贈りたいから」
「それなら、お揃いで何か買うのはどう? あなたへは私が贈るわ」
「ああ、それもいいが……二人の部屋に飾る家具、というのはどうかな」
二人の部屋。
驚いて言葉が途切れた。
「今も毎晩どちらかの部屋で寝泊りしてるだろ。城にある二人部屋に移動させてもらえないか、キングに頼むつもりなんだが……どうかな」
「あ、そ、そう、ね……」
さすがに『そういうこと』ではなかったらしい。それでも、心臓がうるさく騒いでエメラルドの瞳を見つめ返せない。
そんな私に、オーウェンは「それで……」と続けた。
「エルザが、俺と生活していく中で、不満がなければ……あなたに伝えたいことがあるんだ」
触れた指がとても熱くなって、目の奥がじわりと滲んだ。
「……不満なんて、出ると思う……?」
震える声で尋ねれば、オーウェンは「出ないに決まってるが、恋人気分を楽しむのもいいだろ」と本当に楽しそうな笑顔と共に断言した。
目元を優しく拭ったオーウェンは、一転して残念そうな顔になって時計を取り出した。
「……もう戻らないと。また来ます。いや、次は解放される時にと言った方がいいか」
「ええ……来てくれて、会えて嬉しかったわ」
「俺もだ」
別れ際にキスできないのが残念だ。鉄格子を掴む手は全然冷たくならない。
同じことを考えたらしいオーウェンは、自らの指を唇に付けると、それを私の唇にそっと押し当てた。
優しい瞳は、今はこれで我慢だと言っているようだった。
何度も振り返りながら去っていくオーウェンの姿が見えなくなって、そっとベッドに腰を下ろした。
一つ、ため息が漏れる。
……伝えたいこと。伝えたい、こと。だって。
昨夜眠れていない私のために、してくれたことかもしれないけど──。
「眠気が全部吹き飛んだわよ……」
恨めしい声にすらひどく熱が篭って、素直にここに入ったことを後悔した。
ガチャンと大きな音がして、体が跳ねた。
「わっ、あ、あの、も、申し訳、ない……っ」
慌てた様子で倒した槍を拾う若い男に、私は思い出した。
……見張りのダイヤの兵士さんが、いたんだった。
「えっと……ご、ごめんなさい……?」
「い、いえ……」
真っ赤になった青年を前に、恥ずかしいやら申し訳ないやらで居た堪れなくなる。
「……ふふっ」
申し訳ないけど、なんだか可笑しくて笑ってしまった。
真っ赤な顔でこちらを睨む青年に微笑みかける。
「ねぇ。あなた、お名前は?」
この可愛らしい兵士さんとは、少しだけ打ち解けられそうだ。
0
お気に入りに追加
1,161
あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる