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第二章
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その後、あちらこちらを二人で観光ついでに歩いてみるも、アリーはおろかその他の攻略対象達すら姿を見せず、諦めて辻馬車を拾い、帰路につくことになった。
「……これも私のせいでストーリーに影響が出たのかもしれないわね……」
「でも、アリーって円形闘技場によく遊びに行くって話でしたよね。この世界では違うんですか?」
「いいえ、賭け事大好きなアリーそのままよ。そもそも初対面の時にはすでにダイヤのキングだったから、私のせいで影響が出たとも思えないんだけど……」
乙女ゲームの攻略対象といえば、悩み事をヒロインが解決してくれて、その過程で愛を育むものだ。ルーファス達と違って悩み事がそのままのアリーに私の何かが影響したとは考えにくい……。
「あの、お客さん。少しよろしいですか」
突然馬車がゆるりと速度を落とし、御者の若い男性が小窓を開け、困った調子を隠さず話しかけてきた。
「何かあったの?」
「ええ、はい。どうやら先を行っていた馬車が故障したようで、立ち往生してるんです。このままだと、うちの馬車も通れなくて……少しお時間がかかるかもしれません」
「それは大変ね。何か手伝えることはないかしら。聞いてきてもらえる?」
御者は安心したように「わかりました」と言って、駆け出していった。
「ふんだりけったりですね」
「本当にね。次はアリーと約束を取り付けておくわ。プロローグ通りにはいかないけど、それで確実にアリーとは仲良くなれるわよ」
レスターほどじゃないが、アリーも可愛い女の子は大好きだから、きっとララのことも気にいってくれるはずだ。
ほんの数分で御者が戻ってきた。手伝いは断られたそうだ。
馬車に篭っているのも退屈だから、と二人で外に出る。
故障した馬車は黄土色にゴールドの装飾が見事な箱馬車で、大きくダイヤの紋章が掲げられている。
周りで修理する人達の服装も見覚えがあった。
黄色に金の装飾の騎士服は、ダイヤの城の兵士達のものだ。
五人ほどの男達がいるから、たしかに手伝いは不要だろう。
黙々と作業する男達から目を外し、ララに向き合った、その時だ。
「──っ!!」
微かな。恐らくは男性のものだ。
「今の、聞こえた?」
「はい。悲鳴、でしょうか……?」
「ちょっと、見てくるわ。ララは馬車の中にいて」
頷いたララが馬車に乗り込んだのを確認して、悲鳴が聞こえた方向へと一気に駆け出した。
林の中を幾分も進まないうちに、開けた場所に出た。その真ん中で、男性が倒れている。
すぐさま駆け寄り声を掛けようとして。
「っ!」
腕を強く掴まれた。小さく声が漏れてしまったが、男性はそれを気にも留めず、息も絶え絶えになりながら真っ直ぐに視線を合わせてくる。
男性の瞳には強い悲哀と懐疑が見て取れた。その口元が震え、咄嗟に耳を近付けた。
「────」
「……え?」
聞き返すも返事はなく、強く掴む腕からはするりと力が抜け──地面に落ちた。
助けられなかった。
一度目を瞑り、気持ちを整える。落ち込むのも、最期の言葉の意味を考えるのも後だ。
男性はダイヤの騎士服を身につけている。恐らくは故障していた馬車の乗員だろう。
腰に挿した剣はそのままだから、突然襲われて抵抗すら出来なかったのだと思う。
ここは深い森の中というわけでもないが、それでも熊や狼が出ることもあるらしい。それに一人で出会したなんて可哀想に……。
そう思って傷口に目をやり、背筋がゾッと凍りついた。
右の肩から左の脇腹までを袈裟懸けに真っ直ぐ斬られている。
こんな傷、猛獣では……いえ、一般人にも出来ることじゃない。
殺人事件だ。それも犯人は被害者と同じ騎士職の──。
「キャ────っ!!」
突然背後で上がった甲高い悲鳴に、体が跳ねた。
振り返れば黄色の騎士服を着た女性がこちらを憎々し気に睨み付けている。
「あなたがコニーを殺したんですか!?」
突然の嫌疑に慌てて立ち上がった。
「違います! 私は悲鳴を聞いて駆けつけただけで──」
「ウソ! 剣を持ってるじゃない!」
女性は被害者へと駆け寄るが、涙まじりの視線は私を刺したままだ。
そのあまりの苛烈さに、被害者とは友人以上の関係だったのかもしれないと思った。
いや、それどころじゃない! 疑いを解かないと!
慌てて身分証を取り出そうとポケットに手を入れて──。
「誰かっ! 誰か来て!! スペードの10がコニーを殺した!!」
──────は?
「……これも私のせいでストーリーに影響が出たのかもしれないわね……」
「でも、アリーって円形闘技場によく遊びに行くって話でしたよね。この世界では違うんですか?」
「いいえ、賭け事大好きなアリーそのままよ。そもそも初対面の時にはすでにダイヤのキングだったから、私のせいで影響が出たとも思えないんだけど……」
乙女ゲームの攻略対象といえば、悩み事をヒロインが解決してくれて、その過程で愛を育むものだ。ルーファス達と違って悩み事がそのままのアリーに私の何かが影響したとは考えにくい……。
「あの、お客さん。少しよろしいですか」
突然馬車がゆるりと速度を落とし、御者の若い男性が小窓を開け、困った調子を隠さず話しかけてきた。
「何かあったの?」
「ええ、はい。どうやら先を行っていた馬車が故障したようで、立ち往生してるんです。このままだと、うちの馬車も通れなくて……少しお時間がかかるかもしれません」
「それは大変ね。何か手伝えることはないかしら。聞いてきてもらえる?」
御者は安心したように「わかりました」と言って、駆け出していった。
「ふんだりけったりですね」
「本当にね。次はアリーと約束を取り付けておくわ。プロローグ通りにはいかないけど、それで確実にアリーとは仲良くなれるわよ」
レスターほどじゃないが、アリーも可愛い女の子は大好きだから、きっとララのことも気にいってくれるはずだ。
ほんの数分で御者が戻ってきた。手伝いは断られたそうだ。
馬車に篭っているのも退屈だから、と二人で外に出る。
故障した馬車は黄土色にゴールドの装飾が見事な箱馬車で、大きくダイヤの紋章が掲げられている。
周りで修理する人達の服装も見覚えがあった。
黄色に金の装飾の騎士服は、ダイヤの城の兵士達のものだ。
五人ほどの男達がいるから、たしかに手伝いは不要だろう。
黙々と作業する男達から目を外し、ララに向き合った、その時だ。
「──っ!!」
微かな。恐らくは男性のものだ。
「今の、聞こえた?」
「はい。悲鳴、でしょうか……?」
「ちょっと、見てくるわ。ララは馬車の中にいて」
頷いたララが馬車に乗り込んだのを確認して、悲鳴が聞こえた方向へと一気に駆け出した。
林の中を幾分も進まないうちに、開けた場所に出た。その真ん中で、男性が倒れている。
すぐさま駆け寄り声を掛けようとして。
「っ!」
腕を強く掴まれた。小さく声が漏れてしまったが、男性はそれを気にも留めず、息も絶え絶えになりながら真っ直ぐに視線を合わせてくる。
男性の瞳には強い悲哀と懐疑が見て取れた。その口元が震え、咄嗟に耳を近付けた。
「────」
「……え?」
聞き返すも返事はなく、強く掴む腕からはするりと力が抜け──地面に落ちた。
助けられなかった。
一度目を瞑り、気持ちを整える。落ち込むのも、最期の言葉の意味を考えるのも後だ。
男性はダイヤの騎士服を身につけている。恐らくは故障していた馬車の乗員だろう。
腰に挿した剣はそのままだから、突然襲われて抵抗すら出来なかったのだと思う。
ここは深い森の中というわけでもないが、それでも熊や狼が出ることもあるらしい。それに一人で出会したなんて可哀想に……。
そう思って傷口に目をやり、背筋がゾッと凍りついた。
右の肩から左の脇腹までを袈裟懸けに真っ直ぐ斬られている。
こんな傷、猛獣では……いえ、一般人にも出来ることじゃない。
殺人事件だ。それも犯人は被害者と同じ騎士職の──。
「キャ────っ!!」
突然背後で上がった甲高い悲鳴に、体が跳ねた。
振り返れば黄色の騎士服を着た女性がこちらを憎々し気に睨み付けている。
「あなたがコニーを殺したんですか!?」
突然の嫌疑に慌てて立ち上がった。
「違います! 私は悲鳴を聞いて駆けつけただけで──」
「ウソ! 剣を持ってるじゃない!」
女性は被害者へと駆け寄るが、涙まじりの視線は私を刺したままだ。
そのあまりの苛烈さに、被害者とは友人以上の関係だったのかもしれないと思った。
いや、それどころじゃない! 疑いを解かないと!
慌てて身分証を取り出そうとポケットに手を入れて──。
「誰かっ! 誰か来て!! スペードの10がコニーを殺した!!」
──────は?
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