86 / 206
第一章
86番外編 あの男と残りの七人
しおりを挟む
扉を開けて目の前にある円卓には、十三ある席の一つを残して全てが埋まっていた。
各人各様の視線が向けられる。
「おせぇぞ」
一番奥に座る男に言われ、へらりと笑った。
「わりー。寝坊した」
「あなたはいくつですか。もう子供ではないのですから、少しは自覚をもって」
「へーへー。申し訳ございませんね、クイーン」
いつもの長くなるお説教を先んじて封じる。
特大のため息をつかれつつ、空いてる席についた。
「おはよう、レグ」
「はよー、エルザ。今日も美人だな」
「知ってる」
何を言っても当たり前のように受け流す女にまたへらへら笑ってみせる。世辞じゃないんだがな。
「馬鹿は放っておいて、会議を始めるぞ。何か議題のあるやつはいるか? いないな? よし、解散」
「はぁい、キング。ありまーすよー」
「……あんのかよ……なんだ?」
片肘をつくルーファスに促されて口を開いたのは、スペードの3のパンジー。濃い金髪を両耳の上で結んだポッチャリ女子だ。
二十四歳でその髪型はきつくねぇかと言うと、愛用の大斧が顔面を掠めることになる。ポッチャリは許されるのだから女は難しい。
「仮面舞踏会ってあるでしょー? そこで女の子からイタズラされたって被害届が出てるそうでー」
「イタズラって?」
頭に疑問符が浮いてそうな顔で聞いたクソ真面目なメガネは、スペードの8のネビル。
女の子でイタズラといえば、あらかた想像つかないのかねぇと呆れてしまう。
「ドレスを汚された、とか?」
お前もか。隣を見れば、エルザが眉根を寄せて首を傾げている。
仮面舞踏会なんてとこに行くような上流階級の女がドレスを汚されたくらいで被害を訴えたりしないだろ。
「えー、そこ説明いるー? あんた達はわかんないだろーと思ったけどぉ」
言いにくいのだろうパンジーも困り顔だ。
「被害届が出てるくらいなら、酒飲ませて無理矢理連れ込んでーってとこだろ?」
助け舟を出したらネビルとエルザは顔を赤くしたが、片方は羞恥で片方は怒りだ。
だが怒りの声は向かいから上がった。
「そんな悪辣な輩がいるとはっ! とっ捕まえて切り取ってやる!」
「それ、男でよく言えるな……」
関係ない俺の腕に鳥肌がたつからやめてほしい。
スペードの7のウィルは正義感溢れる元委員長だ。アカデミーを卒業した後も同期連中は委員長と呼んでいる。
「切り取るかは別として、犯人の目星は?」
ウィルの抑え役で同じクラスの副委員長をずっと押し付けられていたスペードの6のクライブが冷静にパンジーに尋ねる。
パンジーは肩をすくめて持参した書類をめくった。
「毎回髪と眼の色を変えてるみたいでー、女の子達の証言に統一性がないんだよー。ほんと、女の敵ー」
「被害はスペードの国で開催される舞踏会に集中してんのか?」
ルーファスが尋ねればパンジーは「残念だけどそうー」と答えた。
「んじゃ、次にどっかで開催されるの待って、見張りに行くしかやることねーじゃん」
「特殊な舞踏会ですし、毎回参加してる方は多いでしょうしねぇ」
揺り椅子のようにグラグラと動かしながら言うクソガキは、スペードのエース、ヴァン。
相槌を打ったのはもう一人クソガキ、スペードの4のナットだ。糸目でいつもにやけた顔のこいつは胡散臭くて俺は好きじゃない。どちらもノエルの悪友だってんだから、あのガキも見た目通りの天使じゃないと俺は睨んでいる。
「そんな悠長にしていて被害者が増えたらどうしますの。ガンッガン! 攻めるべきですわ!」
好戦的なお嬢様口調はスペードの2のベル。位持ち唯一の貴族で、本名がめちゃくちゃ長くて誰も覚えていない。
「攻めるって例えばどーすんの」
「男性の参加者を一人一人呼び出して尋問するのですわ!」
「犯人に気取られて、みすみす逃しますねぇそれは」
ベルは言葉につまり、ナットを睨む。
このお嬢様も脳みそが筋肉で出来てらっしゃるからな。
「囮捜査はどう?」
やいやいと無礼講で話し合う中、俺の隣でずっと考え込んでいたエルザの言葉に全員の視線が彼女に集中した。
「仮面舞踏会なら身分証明は不要でしょう? 私が参加者のフリして、上手く釣れれば」
「駄目だ」
「駄目です」
「ダメだよ!」
「だめだっ!」
「駄目」
「駄目に決まってます!!」
六人分もの「駄目」を食らったエルザは、面食らった顔を膨らませて拗ねた。
呆れてため息をついただけの俺も合わせれば、実質七人分だ。
「なによ。私じゃ釣れないって言うの!?」
そうじゃねぇだろ。これは全員が心の中で突っ込んだだろうと思う。
「オーウェンまでそんな大声で否定することないじゃない……私ってそんなに色気ない?」
「おっ、俺に聞かないでください! 知りませんよ、そんなこと!!」
おい、やめてやれ。
隣に座る補佐に不安げに聞くエルザと顔を赤やら青やらに染めて忙しい補佐に白けた目を向けてしまう。
……色気がないと思われるのがそんなに嫌かねぇ。
「いいのか、お兄さん方。大事な妹が男に迫ってるぜ」
「誰が兄だ。こっちは母さんだ」
「こんな不詳の娘も息子も持った覚えはありませんよ」
このやり取りも何度目なんだかな。
当代スペードの国の位持ちは、二人を除いて十二人全員がルーファスかノエルのアカデミーの同期メンバーで構成されていて、気安い。
クソガキ共と補佐殿、それにお嬢様のベルを除けば八人が俺の同期か。同じクラスになったことのない奴もいるから、幼馴染という感覚はない。
「それならさ! エルザじゃなくても、僕とヴァンが女装すればいいんじゃない?」
ノエルの声に騒いでいた全員がシンと静まり返った後に、ドッと笑いが起きた。一人を除いて。
「なんっで俺なんだよ!! ナットとノエルで勝手にやってろよ!」
「私では背が高すぎて肩幅も広いですからねぇ。女装は厳しいと思いますよぉ。お二人ならともかく……くふっ……」
「笑ってんじゃねーっ!!」
顔を真っ赤にして拒絶する姿は笑えるが「しようよー! 絶対に似合うよ!」と誘うノエルは含みなど欠片もない笑顔で、多少の同情は禁じ得ない。
やっぱ兄貴と違って底知れない黒さがあるな、こいつ。
「んー。それ、ダメだと思うー」
「どういうことだよ?」
尋ねると、書類に再び目を落としたパンジーは眉間にしわを寄せた。
「犯人には共通点がないけどー、被害者は結構似てる、かもー」
「言える範囲で教えてくれ」
ルーファスに促されパンジーはうーんと深刻そうにない唸り声を上げる。
「背がそこそこ高くて痩せ型でー、可愛いよりも美人な感じー」
「ノエル達は当てはまらねぇな」
というか、一人しか当てはまらない。
ポッチャリのパンジーと背が低いベルも候補から外れる。
「あと、胸が大きいー」
「全員当てはまらねぇな」
途端各方面から魔法やら武器やらが俺に飛んできたのだから、言葉は気をつけて使おうと心に誓った。
「……わるかったってほんと。あー、反省してるわー」
「反省してるって口で言う人は信用できないね」
「そのだらけた姿勢をすぐに正して謝罪しろっ!」
「もうその辺で許してやれ。……二度目はないぞ、レグサス」
天井に吊るされた俺を据わった目で睨むネビルに毛を逆立てる委員長。その委員長を宥めつつこちらに殺気を垂れ流すクライブ。こいつらは俺の同志だ。ルーファスに黙らされた会の。
こいつらがいるときは、エルザに関して滅多なことは言ってはいけない。
あとエルザは胸のサイズを補佐に確認するな。顔色から赤が消えて真っ青になってっから。
「レグサスを降ろしてやれ、オーウェン。誰も囮なんてさせねぇよ。全員で参加して怪しい動きをしてるやつがいたら見張ればいいだけのことだ」
しゅるりと影が俺の足を雑に離したが、難なく着地する。
再び全員で席に着けば、エルザがルーファスに食い下がった。
「駄目よ、そんなの。未遂でも絶対に一人は被害者が出るじゃない」
「それはあなただって同じことでしょう。許可できませんよ」
「エルザ先輩がダメなら、やはりノエル君とヴァン君ですねぇ。胸に詰め物すれば問題な……くひひっ」
「だぁーっ! なんで俺にやらせたがんだお前らは! いいじゃねぇか、エルザで! 条件にぴったりだろ!? 美人だし胸だってでかいじゃねーか!」
「ヴァンってば、エルザのことそんなふうに思ってたんだ!」
「これは意外ですねぇ。いいネタになるなぁ」
「ばっ!? ちげーし!! 思ってねー!!」
アカデミーの初等科かよ。
顔を真っ赤にして叫ぶヴァンを、光と闇のような両極の二人がからかう。
「幼稚舎かここは……」
「あなたの人選ですよ」
キングとクイーンの二人は同じ動作で眉間のシワをほぐしていた。
「誰か一人が被害に遭うなら私がやるわ。ノエルやヴァンも、パンジーとベルにもさせる気はないわよ」
ふざけた空気を一変させる、予想通りとも言えるセリフに苦い顔で声の主を見つめる。
「私なら抵抗も出来るし、私以上の適任はいないと思うわ。背が高いし、美人で胸も大きいでしょう?」
こいつのこういうところが昔から嫌いだ。
こちらの気持ちなど頭から無視して正論を吐きやがる。
同志達はもちろん、空色の瞳を向けられたやつも同じように思っているだろう。
「ねぇ、ルーファス。本当に私で釣れないって言うなら、無駄なことしないで見張りに徹するわ。あなたは私じゃ駄目だと思う?」
こんな時、情けない俺は、決断しなければならない場所にいなくて良かったと、心の底から思う。
「……お前で釣れなきゃそこに犯人はいねぇよ。わかった。エルザ。お前に任せる」
当然だとばかりにエルザは微笑み、頷いた。
各人各様の視線が向けられる。
「おせぇぞ」
一番奥に座る男に言われ、へらりと笑った。
「わりー。寝坊した」
「あなたはいくつですか。もう子供ではないのですから、少しは自覚をもって」
「へーへー。申し訳ございませんね、クイーン」
いつもの長くなるお説教を先んじて封じる。
特大のため息をつかれつつ、空いてる席についた。
「おはよう、レグ」
「はよー、エルザ。今日も美人だな」
「知ってる」
何を言っても当たり前のように受け流す女にまたへらへら笑ってみせる。世辞じゃないんだがな。
「馬鹿は放っておいて、会議を始めるぞ。何か議題のあるやつはいるか? いないな? よし、解散」
「はぁい、キング。ありまーすよー」
「……あんのかよ……なんだ?」
片肘をつくルーファスに促されて口を開いたのは、スペードの3のパンジー。濃い金髪を両耳の上で結んだポッチャリ女子だ。
二十四歳でその髪型はきつくねぇかと言うと、愛用の大斧が顔面を掠めることになる。ポッチャリは許されるのだから女は難しい。
「仮面舞踏会ってあるでしょー? そこで女の子からイタズラされたって被害届が出てるそうでー」
「イタズラって?」
頭に疑問符が浮いてそうな顔で聞いたクソ真面目なメガネは、スペードの8のネビル。
女の子でイタズラといえば、あらかた想像つかないのかねぇと呆れてしまう。
「ドレスを汚された、とか?」
お前もか。隣を見れば、エルザが眉根を寄せて首を傾げている。
仮面舞踏会なんてとこに行くような上流階級の女がドレスを汚されたくらいで被害を訴えたりしないだろ。
「えー、そこ説明いるー? あんた達はわかんないだろーと思ったけどぉ」
言いにくいのだろうパンジーも困り顔だ。
「被害届が出てるくらいなら、酒飲ませて無理矢理連れ込んでーってとこだろ?」
助け舟を出したらネビルとエルザは顔を赤くしたが、片方は羞恥で片方は怒りだ。
だが怒りの声は向かいから上がった。
「そんな悪辣な輩がいるとはっ! とっ捕まえて切り取ってやる!」
「それ、男でよく言えるな……」
関係ない俺の腕に鳥肌がたつからやめてほしい。
スペードの7のウィルは正義感溢れる元委員長だ。アカデミーを卒業した後も同期連中は委員長と呼んでいる。
「切り取るかは別として、犯人の目星は?」
ウィルの抑え役で同じクラスの副委員長をずっと押し付けられていたスペードの6のクライブが冷静にパンジーに尋ねる。
パンジーは肩をすくめて持参した書類をめくった。
「毎回髪と眼の色を変えてるみたいでー、女の子達の証言に統一性がないんだよー。ほんと、女の敵ー」
「被害はスペードの国で開催される舞踏会に集中してんのか?」
ルーファスが尋ねればパンジーは「残念だけどそうー」と答えた。
「んじゃ、次にどっかで開催されるの待って、見張りに行くしかやることねーじゃん」
「特殊な舞踏会ですし、毎回参加してる方は多いでしょうしねぇ」
揺り椅子のようにグラグラと動かしながら言うクソガキは、スペードのエース、ヴァン。
相槌を打ったのはもう一人クソガキ、スペードの4のナットだ。糸目でいつもにやけた顔のこいつは胡散臭くて俺は好きじゃない。どちらもノエルの悪友だってんだから、あのガキも見た目通りの天使じゃないと俺は睨んでいる。
「そんな悠長にしていて被害者が増えたらどうしますの。ガンッガン! 攻めるべきですわ!」
好戦的なお嬢様口調はスペードの2のベル。位持ち唯一の貴族で、本名がめちゃくちゃ長くて誰も覚えていない。
「攻めるって例えばどーすんの」
「男性の参加者を一人一人呼び出して尋問するのですわ!」
「犯人に気取られて、みすみす逃しますねぇそれは」
ベルは言葉につまり、ナットを睨む。
このお嬢様も脳みそが筋肉で出来てらっしゃるからな。
「囮捜査はどう?」
やいやいと無礼講で話し合う中、俺の隣でずっと考え込んでいたエルザの言葉に全員の視線が彼女に集中した。
「仮面舞踏会なら身分証明は不要でしょう? 私が参加者のフリして、上手く釣れれば」
「駄目だ」
「駄目です」
「ダメだよ!」
「だめだっ!」
「駄目」
「駄目に決まってます!!」
六人分もの「駄目」を食らったエルザは、面食らった顔を膨らませて拗ねた。
呆れてため息をついただけの俺も合わせれば、実質七人分だ。
「なによ。私じゃ釣れないって言うの!?」
そうじゃねぇだろ。これは全員が心の中で突っ込んだだろうと思う。
「オーウェンまでそんな大声で否定することないじゃない……私ってそんなに色気ない?」
「おっ、俺に聞かないでください! 知りませんよ、そんなこと!!」
おい、やめてやれ。
隣に座る補佐に不安げに聞くエルザと顔を赤やら青やらに染めて忙しい補佐に白けた目を向けてしまう。
……色気がないと思われるのがそんなに嫌かねぇ。
「いいのか、お兄さん方。大事な妹が男に迫ってるぜ」
「誰が兄だ。こっちは母さんだ」
「こんな不詳の娘も息子も持った覚えはありませんよ」
このやり取りも何度目なんだかな。
当代スペードの国の位持ちは、二人を除いて十二人全員がルーファスかノエルのアカデミーの同期メンバーで構成されていて、気安い。
クソガキ共と補佐殿、それにお嬢様のベルを除けば八人が俺の同期か。同じクラスになったことのない奴もいるから、幼馴染という感覚はない。
「それならさ! エルザじゃなくても、僕とヴァンが女装すればいいんじゃない?」
ノエルの声に騒いでいた全員がシンと静まり返った後に、ドッと笑いが起きた。一人を除いて。
「なんっで俺なんだよ!! ナットとノエルで勝手にやってろよ!」
「私では背が高すぎて肩幅も広いですからねぇ。女装は厳しいと思いますよぉ。お二人ならともかく……くふっ……」
「笑ってんじゃねーっ!!」
顔を真っ赤にして拒絶する姿は笑えるが「しようよー! 絶対に似合うよ!」と誘うノエルは含みなど欠片もない笑顔で、多少の同情は禁じ得ない。
やっぱ兄貴と違って底知れない黒さがあるな、こいつ。
「んー。それ、ダメだと思うー」
「どういうことだよ?」
尋ねると、書類に再び目を落としたパンジーは眉間にしわを寄せた。
「犯人には共通点がないけどー、被害者は結構似てる、かもー」
「言える範囲で教えてくれ」
ルーファスに促されパンジーはうーんと深刻そうにない唸り声を上げる。
「背がそこそこ高くて痩せ型でー、可愛いよりも美人な感じー」
「ノエル達は当てはまらねぇな」
というか、一人しか当てはまらない。
ポッチャリのパンジーと背が低いベルも候補から外れる。
「あと、胸が大きいー」
「全員当てはまらねぇな」
途端各方面から魔法やら武器やらが俺に飛んできたのだから、言葉は気をつけて使おうと心に誓った。
「……わるかったってほんと。あー、反省してるわー」
「反省してるって口で言う人は信用できないね」
「そのだらけた姿勢をすぐに正して謝罪しろっ!」
「もうその辺で許してやれ。……二度目はないぞ、レグサス」
天井に吊るされた俺を据わった目で睨むネビルに毛を逆立てる委員長。その委員長を宥めつつこちらに殺気を垂れ流すクライブ。こいつらは俺の同志だ。ルーファスに黙らされた会の。
こいつらがいるときは、エルザに関して滅多なことは言ってはいけない。
あとエルザは胸のサイズを補佐に確認するな。顔色から赤が消えて真っ青になってっから。
「レグサスを降ろしてやれ、オーウェン。誰も囮なんてさせねぇよ。全員で参加して怪しい動きをしてるやつがいたら見張ればいいだけのことだ」
しゅるりと影が俺の足を雑に離したが、難なく着地する。
再び全員で席に着けば、エルザがルーファスに食い下がった。
「駄目よ、そんなの。未遂でも絶対に一人は被害者が出るじゃない」
「それはあなただって同じことでしょう。許可できませんよ」
「エルザ先輩がダメなら、やはりノエル君とヴァン君ですねぇ。胸に詰め物すれば問題な……くひひっ」
「だぁーっ! なんで俺にやらせたがんだお前らは! いいじゃねぇか、エルザで! 条件にぴったりだろ!? 美人だし胸だってでかいじゃねーか!」
「ヴァンってば、エルザのことそんなふうに思ってたんだ!」
「これは意外ですねぇ。いいネタになるなぁ」
「ばっ!? ちげーし!! 思ってねー!!」
アカデミーの初等科かよ。
顔を真っ赤にして叫ぶヴァンを、光と闇のような両極の二人がからかう。
「幼稚舎かここは……」
「あなたの人選ですよ」
キングとクイーンの二人は同じ動作で眉間のシワをほぐしていた。
「誰か一人が被害に遭うなら私がやるわ。ノエルやヴァンも、パンジーとベルにもさせる気はないわよ」
ふざけた空気を一変させる、予想通りとも言えるセリフに苦い顔で声の主を見つめる。
「私なら抵抗も出来るし、私以上の適任はいないと思うわ。背が高いし、美人で胸も大きいでしょう?」
こいつのこういうところが昔から嫌いだ。
こちらの気持ちなど頭から無視して正論を吐きやがる。
同志達はもちろん、空色の瞳を向けられたやつも同じように思っているだろう。
「ねぇ、ルーファス。本当に私で釣れないって言うなら、無駄なことしないで見張りに徹するわ。あなたは私じゃ駄目だと思う?」
こんな時、情けない俺は、決断しなければならない場所にいなくて良かったと、心の底から思う。
「……お前で釣れなきゃそこに犯人はいねぇよ。わかった。エルザ。お前に任せる」
当然だとばかりにエルザは微笑み、頷いた。
0
お気に入りに追加
1,161
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる