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第一章
85 補佐は頑張りました
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「こいつに飲み放題は勿体ないよな」
「まったく……夜中にお腹を空かせないといいのですが」
肩に乗る重みに対する意見に苦笑を返す。
店に入り、開口一番「この店にあるお肉の高いものから五つ持ってきてちょうだい」とやってのけた恋人は、その五つを食べきる前にアルコールに負けた。
「オーウェン、食ってるか? 遠慮するなよ」
「はい。いただいています」
以前なら間違いなく喉を通らなかっただろうキングの前での食事も、今日はリラックスして味わえている。それもあの手合わせのおかげかもしれない。
「すみませーん! 特上全種類持ってきてくださーい!」
「いただいてるってのはこういうのを言うんだぞ」
笑顔で注文するララさんを親指で指して言うキングに、笑ってもいいものか悩む。
「あー、人のお金で食べるお肉最高! 酒がうまいっ!」
「ララさん、性格変わりました……?」
「そっとしといてやれ」
ボトルを向けられ、慌ててグラスを滑らせる。
濃紫のワインだ。甘いものが苦手なキングだからかやはり赤で、スパイシーさが癖になった。
キングは肘をついて一口含み、グラスを傾けて中のワインを無表情で見つめている。
一体どうされたのか。クイーンを伺い見ても静かに食事をされているだけで、お二人とも感情が読み取れない。
もしや、今になってエルザが他の男のものとなってしまったことを惜しく思われているのでは。そう考えると胸がざわついた。
キングが大きく息を吐き、肩がびくりとはねた。
肘をついた手に顎を乗せたキングとまっすぐに目が合う。心臓が騒がしくなり、ひどく恐ろしい気持ちになった。この人が本気で取り戻そうとすれば、俺などひとたまりも。
「こういうのが、娘を嫁にやる父親の気持ちか……なぁ、母さん」
「不本意ながら、同じ気持ちです」
手元のグラスを一気に煽った。
紛らわしい両親だ。本当に。
「おお。いい飲みっぷりだな、婿殿」
「その茶番、続くんですか……」
またしてもボトルを向けられ、本音が漏れる。
肩にもたれかかるエルザが身じろぎ、声を漏らした。
目を覚ましたらしいエルザに水を差し出すと、肩に頭を預けたまま受け取りもせずに口をつける。
「……零しますよ」
ささやかに注意しつつも飲みやすいようにグラスを傾けるのだから、俺も甘い。
コクコクと喉が動き、一雫、赤くなった首筋をつるりと流れた。
雫は首よりも更に下へと流れ、グラスから口を外したエルザは雫をそのままに俺を見上げ、形の良い濡れた唇から「ねぇ」と零した。
「駄目です!!!」
たまらず叫んでいた。
キングとクイーンの目の前で何を言いだすんだ!!
しかし焦る俺の前でエルザは目をパチリと見開き、逡巡の末、爆笑した。
腹を抱えて。
「ちっ、違うのよ……っふふ……お肉が食べたいから、取ってって言おうと思って……あははははっ!」
盛大な勘違いを把握し、全身が燃えるように熱くなる。キングとクイーンの方が見られない。
「なんだぁ? 何と勘違いしたんだよ?」
「詳しく聞かせていただきたいですね」
「男ってそんなことばっかり考えてるの?」
耐えきれず机に突っ伏した。
今朝散々悩まされた声音で言われれば、誰だって勘違いするに決まってる。俺は悪くない! 断じて!!
今後しばらくの間、このネタでからかわれることになった。
「まったく……夜中にお腹を空かせないといいのですが」
肩に乗る重みに対する意見に苦笑を返す。
店に入り、開口一番「この店にあるお肉の高いものから五つ持ってきてちょうだい」とやってのけた恋人は、その五つを食べきる前にアルコールに負けた。
「オーウェン、食ってるか? 遠慮するなよ」
「はい。いただいています」
以前なら間違いなく喉を通らなかっただろうキングの前での食事も、今日はリラックスして味わえている。それもあの手合わせのおかげかもしれない。
「すみませーん! 特上全種類持ってきてくださーい!」
「いただいてるってのはこういうのを言うんだぞ」
笑顔で注文するララさんを親指で指して言うキングに、笑ってもいいものか悩む。
「あー、人のお金で食べるお肉最高! 酒がうまいっ!」
「ララさん、性格変わりました……?」
「そっとしといてやれ」
ボトルを向けられ、慌ててグラスを滑らせる。
濃紫のワインだ。甘いものが苦手なキングだからかやはり赤で、スパイシーさが癖になった。
キングは肘をついて一口含み、グラスを傾けて中のワインを無表情で見つめている。
一体どうされたのか。クイーンを伺い見ても静かに食事をされているだけで、お二人とも感情が読み取れない。
もしや、今になってエルザが他の男のものとなってしまったことを惜しく思われているのでは。そう考えると胸がざわついた。
キングが大きく息を吐き、肩がびくりとはねた。
肘をついた手に顎を乗せたキングとまっすぐに目が合う。心臓が騒がしくなり、ひどく恐ろしい気持ちになった。この人が本気で取り戻そうとすれば、俺などひとたまりも。
「こういうのが、娘を嫁にやる父親の気持ちか……なぁ、母さん」
「不本意ながら、同じ気持ちです」
手元のグラスを一気に煽った。
紛らわしい両親だ。本当に。
「おお。いい飲みっぷりだな、婿殿」
「その茶番、続くんですか……」
またしてもボトルを向けられ、本音が漏れる。
肩にもたれかかるエルザが身じろぎ、声を漏らした。
目を覚ましたらしいエルザに水を差し出すと、肩に頭を預けたまま受け取りもせずに口をつける。
「……零しますよ」
ささやかに注意しつつも飲みやすいようにグラスを傾けるのだから、俺も甘い。
コクコクと喉が動き、一雫、赤くなった首筋をつるりと流れた。
雫は首よりも更に下へと流れ、グラスから口を外したエルザは雫をそのままに俺を見上げ、形の良い濡れた唇から「ねぇ」と零した。
「駄目です!!!」
たまらず叫んでいた。
キングとクイーンの目の前で何を言いだすんだ!!
しかし焦る俺の前でエルザは目をパチリと見開き、逡巡の末、爆笑した。
腹を抱えて。
「ちっ、違うのよ……っふふ……お肉が食べたいから、取ってって言おうと思って……あははははっ!」
盛大な勘違いを把握し、全身が燃えるように熱くなる。キングとクイーンの方が見られない。
「なんだぁ? 何と勘違いしたんだよ?」
「詳しく聞かせていただきたいですね」
「男ってそんなことばっかり考えてるの?」
耐えきれず机に突っ伏した。
今朝散々悩まされた声音で言われれば、誰だって勘違いするに決まってる。俺は悪くない! 断じて!!
今後しばらくの間、このネタでからかわれることになった。
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