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第一章
84 補佐は頑張りました
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あまりの怒号に身を竦ませる。
だが怒りの主が背中を向けてしまったことで我に返った。
「エルザ! 待ってください!」
「知らない。待たない!」
前に立って歩みを止めたはいいが、触れていいのかわからない。赤い顔で鋭く睨まれて言葉に詰まる。
「なに」
「え、えっと、ですね……」
返事を。もらっていない。
恋人になっていただけるのかどうかの。
それでも、こんなにも怒らせてしまってはもう……。
「もう、あなたに触れることは、許していただけないのでしょうか……」
呆れた空色の瞳から逃げるように目をそらし、俯いた。
「言うに事欠いて……」
声音にも呆れが滲むエルザの声に気分が沈んでいく。
ああ、どうしよう。もうこの人のいない生活になど戻りたくないのに。
ドスリと胸に鈍い衝撃があり、甘い香りが鼻に届く。俯く顔の目の前には、肩を揺らす空色の頭があった。
「……ふっ、ふふ……」
「エ、エルザ……?」
「今のあなた、なんだか捨てられた犬みたいね」
笑いの混じる声で言われて、心臓が跳ねる。
見上げた顔には面白くて仕方ないとばかりの笑顔が浮かんでいた。
「怒っていらっしゃるんじゃ……」
「もういいわよ。……昨日散々いじめてくれたから、そのお返し」
「い、いじめてなんていませんよ」
心外だ。ただこの人があまりにも可愛すぎただけなのに。
「そうなの? 恋人としてあれが適切な距離感なのかしら……あ、まだ恋人ではなかったんだっけ?」
「いえ、それは……」
「恋人にしてくれるの?」
上目遣いで微笑まれ、心臓がうるさく脈打つ。
「それは、こちらから土下座して頼まなくてはならないところです」
「あら、いいわねそれ。お願いしようかしら」
くすくすと楽しそうに笑うエルザに全身の緊張が解け、恐る恐る赤らむ頰に指を伸ばした。
「あなたが望むなら、いくらでもしますが」
「冗談よ。……あなたは本当にしそうで怖いわね」
俺の伸ばした手を取り、エルザは手のひらに頬ずりする。
暖かく柔らかな感触は、これがまぎれもない現実なのだと俺に教えてくれた。
ふわりとした微笑みと熱のこもる空色の瞳が真っ直ぐに俺に向けられて。
「オーウェン。あなたの恋人にしてくれる?」
これほど幸せにしてくれる言葉など、かつてない。
「喜んで」
「さて……焼肉でいいのか」
たまらず唇を寄せようと身をかがめると、静止するかのようにキングの声がして慌てて体を離した。
「墓穴を掘りましたね。飲み放題付きでお願いします」
「あー、くっそ。損したなぁ。ほら、お前らも行くぞ。どこの店にする?」
話しながら歩いていくキング達に急かされ、ついていこうと一歩踏み出すと、エルザは俺の手を引いた。
はにかむ表情は今朝から何度も見たもので。
小さく吹き出し、そっと肩に触れて、口付けを落とす。
秘め事のようなキスに胸が幸せに疼いた。
だが怒りの主が背中を向けてしまったことで我に返った。
「エルザ! 待ってください!」
「知らない。待たない!」
前に立って歩みを止めたはいいが、触れていいのかわからない。赤い顔で鋭く睨まれて言葉に詰まる。
「なに」
「え、えっと、ですね……」
返事を。もらっていない。
恋人になっていただけるのかどうかの。
それでも、こんなにも怒らせてしまってはもう……。
「もう、あなたに触れることは、許していただけないのでしょうか……」
呆れた空色の瞳から逃げるように目をそらし、俯いた。
「言うに事欠いて……」
声音にも呆れが滲むエルザの声に気分が沈んでいく。
ああ、どうしよう。もうこの人のいない生活になど戻りたくないのに。
ドスリと胸に鈍い衝撃があり、甘い香りが鼻に届く。俯く顔の目の前には、肩を揺らす空色の頭があった。
「……ふっ、ふふ……」
「エ、エルザ……?」
「今のあなた、なんだか捨てられた犬みたいね」
笑いの混じる声で言われて、心臓が跳ねる。
見上げた顔には面白くて仕方ないとばかりの笑顔が浮かんでいた。
「怒っていらっしゃるんじゃ……」
「もういいわよ。……昨日散々いじめてくれたから、そのお返し」
「い、いじめてなんていませんよ」
心外だ。ただこの人があまりにも可愛すぎただけなのに。
「そうなの? 恋人としてあれが適切な距離感なのかしら……あ、まだ恋人ではなかったんだっけ?」
「いえ、それは……」
「恋人にしてくれるの?」
上目遣いで微笑まれ、心臓がうるさく脈打つ。
「それは、こちらから土下座して頼まなくてはならないところです」
「あら、いいわねそれ。お願いしようかしら」
くすくすと楽しそうに笑うエルザに全身の緊張が解け、恐る恐る赤らむ頰に指を伸ばした。
「あなたが望むなら、いくらでもしますが」
「冗談よ。……あなたは本当にしそうで怖いわね」
俺の伸ばした手を取り、エルザは手のひらに頬ずりする。
暖かく柔らかな感触は、これがまぎれもない現実なのだと俺に教えてくれた。
ふわりとした微笑みと熱のこもる空色の瞳が真っ直ぐに俺に向けられて。
「オーウェン。あなたの恋人にしてくれる?」
これほど幸せにしてくれる言葉など、かつてない。
「喜んで」
「さて……焼肉でいいのか」
たまらず唇を寄せようと身をかがめると、静止するかのようにキングの声がして慌てて体を離した。
「墓穴を掘りましたね。飲み放題付きでお願いします」
「あー、くっそ。損したなぁ。ほら、お前らも行くぞ。どこの店にする?」
話しながら歩いていくキング達に急かされ、ついていこうと一歩踏み出すと、エルザは俺の手を引いた。
はにかむ表情は今朝から何度も見たもので。
小さく吹き出し、そっと肩に触れて、口付けを落とす。
秘め事のようなキスに胸が幸せに疼いた。
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