ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

文字の大きさ
上 下
79 / 206
第一章

79 補佐は頑張りました

しおりを挟む
「ルーファス!」

 俺から手を外してエルザはキングを呼んだ。

「二対二でしない? ルーファスとゼン、私とオーウェンで」

 エルザは両手の指を二つ立ててキングに突きつけたが、俺は動揺した。
 それは駄目だ。エルザの力を借りたりしたら、キングに認めてもらえなくなる……っ!

「エルザ、駄目で――」
「いいぜ。それも面白そうだ」
「……キング?」

 驚いてキングを見ると、先ほどと同じ楽しげな目を俺達に向けている。

「せっかく上手くまとまったのに! こいつ、ほんと馬鹿!」

 ララさんの声が遠くから聞こえた気がした。



 作戦を立てると言うエルザに手を引かれて三人から離れた。

 二対二はアカデミーでよく行われる模擬戦の一つだ。
 前衛と後衛で分かれることが多く、作戦も二人できっちり立てる。

「当然だけど、私が前、オーウェンが後ろね」

 ワクワクといった様子のエルザは楽しげに作戦を説明してくれた。

「ゼンは援護がうまいから先に落としましょう。私が突っ切るから、ゼンを倒すまでルーファスの足止めよろしくね」
「キングのですか!?」

 さっき散々転ばされたばかりだと言うのに!

「影を使えば不可能じゃないわ。オーウェンは火と風もあるからルーファスの火にも対応できる」

 複数の属性を一度に使うのは不慣れだ。だからさっきも影しか使えなかった。
 足止めしたところで火を使われれば、きっと為すすべがない。

 それでも、あのお二人のことを一番よく知るエルザが立てた作戦だ。
 この人が一緒に戦ってくれるのに、泣き言は言いたくなかった。

「わかりました。必ずキングを足止めします」
「お願いね。オーウェンとチーム戦だなんて、ちょっと楽しいわね」

 笑いながら言うエルザに、一気に肩の力が抜けた。
 先ほどまで絶望的な気持ちだったのに、思わず頰が緩む。

「はい……俺も、ちょっと楽しくなってきました」

 嬉しそうに笑うエルザは「景気付けに一回キスしてあげましょうか?」とくちびるに指を当てておどけた。

「勝利の女神の微笑みは頂きましたから、キスは勝ってからに取っておきましょう」

 こんな時に冗談が言えるなんて。

「必ず勝つわよ」
「はい。絶対に、キングを止めてみせます」

 俺の勝利の女神は満足げに笑みを深めた。


「負けた方が焼肉奢りね!」
「おう。飲み放題も付けろよ」

 対峙する前衛二人は似た笑みを浮かべている。

「エルザさん! ボッコボコにしてやって!!」

 エルザにララさんの声援が飛ぶ。
 あの人、あんな性格だったか……?

「任せなさい!」

 エルザは親指を立てて声援に応えた。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...