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第一章
67 歪んだキングの独白
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舞踏会でエルザが踊っているのを見てひどく驚き、狼狽した。
エルザが俺達以外の男とダンスを踊ることは今までにもあった。
しかしエルザの浮かべる表情を見れば、この相手が今までと同じではないのだと思い知らされた。
誘われて、なんとなく了承したのではないのだと。
俺はこの時、自分がされた初めての告白を思い出していた。
赤らめる頬。合わない視線。
あれなど比べ物にならない。
逸らしても視線はすぐに混じる。少しでも見つめていたいとでもいうかのように。
赤らむ顔と顔が近付けば、ひどく動揺した。
溶けてしまいそうなほど幸せに緩む笑顔に胸が鈍く痛んだことは、隠す気もない事実だ。
最近はすっかりナリを潜めていたトラウマが湧き上がっていくのを感じていた。
そんな、マナー違反な余所見ばかりの俺をパートナーが笑った。
「エルザさんが他の男性と踊っているのが、そんなに気になりますか?」
「いや、そんなことは」
「そうですか。それなら良かったです。エルザさんのことが好きだって気付いちゃったのかと思いました」
笑いながら言われた言葉は、ずっと俺の心に巣食い続ける苛立ちと嘆きを刺激した。
「……お前もか」
「え?」
「どうしてお前らは、エルザへ向けるものが愛情だと決めつける? なぜ友情ではなく愛情であることが当たり前だと。愛情は友情よりも上位に位置するものだとどうして思う?」
積もり積もった怒りをそのまま言葉に乗せる俺の顔はひどく強張り、きっと恐ろしく歪んでいるだろうが止められなかった。
「ああ、そうだよ。俺はエルザが好きだ。だがな。ゼンのことも同じくらいに好きだと思ってる。二人ともが同じだけ大事な親友なんだ。ゼンには友情、エルザには愛情などと分ける意味が俺にはさっぱり理解できない。俺にとってはあの二人に感じる友情こそが全てにおいて優先される感情なんだよ」
そんな、誰もわかってくれない感情をぶつけたところで意味のないことだと自嘲する俺に、ララさんは真摯だった。
「男女で物事を分ける考えは私も好きではありません。ごめんなさい。失礼なことを言いました。八つ当たりしちゃったみたいです」
彼女の落ち着いた声は、俺の怒りをわずかに鎮めた。
「いや、俺も厳しい言い方をして悪かった。……八つ当たりとは?」
「ふふっ……秘密です」
俺から外された視線は、先ほど俺が見つめていた二人へと向かう。
悲しいような睨むような視線に先ほどの彼女の言葉を思い出した。
『男女で物事を分ける考えは私も好きではありません』
やはりこの人が見つめているのは……。
以前からあった疑惑の天秤は確信へと針が振れ、この人は俺と似て非なるところで同じ感情を燻らせているのだと知った。
そんな彼女の横顔に、まったく感情とは難しいものだと割り切るような、今まで抱え続けたものをやっと手放せたような気持ちになれた。
俺のトラウマはわずかな傷を心の奥に残して消え去ったが、それでもこの光景を黙って見ていることは出来なかった。
エルザはあいつを愛し、あいつもエルザを愛している。それには絶対的な確信があった。
あの二人は近いうちにきっとお互いの気持ちを知り、想いを交わすだろう。
俺やゼンは告白してきた女性に対して愛情はなかったがなんとなく付き合った。だからエルザを傷付けるならと簡単に別れられたんだ。
しかし、エルザはあいつを愛している。
愛されたお前は、俺達から離れろなどと言い出したりはしないだろうな?
もしそんなことを言われれば、エルザはきっとどちらを取ることもできずに悩み、苦しむ。
それはエルザにとって、そしてあいつにとっても不幸なことだ。
俺はあいつを存外気に入っていて、二人の幸せを思えばどうすることが正解かわかっていても、それでも俺にはエルザを手放すことだけはどうしても出来ない。
背後から感じる視線に、心の中で問いかける。
親友と恋人。距離が近いのはどちらだと思う?
俺達は、どちらも同じ距離に置ける男でないと、エルザの恋人として認めてやることが出来ない。
ごめんな。エルザの恋人になるなら、このくらいは我慢してくれ。
「ケーキ。ついてたぞ」
……平気でやった俺も俺だが、エルザもまたまったく動揺していないらしい。
目の前で平然としている親友に対して笑いを堪えるのは、ひどく難しいことだった。
エルザが俺達以外の男とダンスを踊ることは今までにもあった。
しかしエルザの浮かべる表情を見れば、この相手が今までと同じではないのだと思い知らされた。
誘われて、なんとなく了承したのではないのだと。
俺はこの時、自分がされた初めての告白を思い出していた。
赤らめる頬。合わない視線。
あれなど比べ物にならない。
逸らしても視線はすぐに混じる。少しでも見つめていたいとでもいうかのように。
赤らむ顔と顔が近付けば、ひどく動揺した。
溶けてしまいそうなほど幸せに緩む笑顔に胸が鈍く痛んだことは、隠す気もない事実だ。
最近はすっかりナリを潜めていたトラウマが湧き上がっていくのを感じていた。
そんな、マナー違反な余所見ばかりの俺をパートナーが笑った。
「エルザさんが他の男性と踊っているのが、そんなに気になりますか?」
「いや、そんなことは」
「そうですか。それなら良かったです。エルザさんのことが好きだって気付いちゃったのかと思いました」
笑いながら言われた言葉は、ずっと俺の心に巣食い続ける苛立ちと嘆きを刺激した。
「……お前もか」
「え?」
「どうしてお前らは、エルザへ向けるものが愛情だと決めつける? なぜ友情ではなく愛情であることが当たり前だと。愛情は友情よりも上位に位置するものだとどうして思う?」
積もり積もった怒りをそのまま言葉に乗せる俺の顔はひどく強張り、きっと恐ろしく歪んでいるだろうが止められなかった。
「ああ、そうだよ。俺はエルザが好きだ。だがな。ゼンのことも同じくらいに好きだと思ってる。二人ともが同じだけ大事な親友なんだ。ゼンには友情、エルザには愛情などと分ける意味が俺にはさっぱり理解できない。俺にとってはあの二人に感じる友情こそが全てにおいて優先される感情なんだよ」
そんな、誰もわかってくれない感情をぶつけたところで意味のないことだと自嘲する俺に、ララさんは真摯だった。
「男女で物事を分ける考えは私も好きではありません。ごめんなさい。失礼なことを言いました。八つ当たりしちゃったみたいです」
彼女の落ち着いた声は、俺の怒りをわずかに鎮めた。
「いや、俺も厳しい言い方をして悪かった。……八つ当たりとは?」
「ふふっ……秘密です」
俺から外された視線は、先ほど俺が見つめていた二人へと向かう。
悲しいような睨むような視線に先ほどの彼女の言葉を思い出した。
『男女で物事を分ける考えは私も好きではありません』
やはりこの人が見つめているのは……。
以前からあった疑惑の天秤は確信へと針が振れ、この人は俺と似て非なるところで同じ感情を燻らせているのだと知った。
そんな彼女の横顔に、まったく感情とは難しいものだと割り切るような、今まで抱え続けたものをやっと手放せたような気持ちになれた。
俺のトラウマはわずかな傷を心の奥に残して消え去ったが、それでもこの光景を黙って見ていることは出来なかった。
エルザはあいつを愛し、あいつもエルザを愛している。それには絶対的な確信があった。
あの二人は近いうちにきっとお互いの気持ちを知り、想いを交わすだろう。
俺やゼンは告白してきた女性に対して愛情はなかったがなんとなく付き合った。だからエルザを傷付けるならと簡単に別れられたんだ。
しかし、エルザはあいつを愛している。
愛されたお前は、俺達から離れろなどと言い出したりはしないだろうな?
もしそんなことを言われれば、エルザはきっとどちらを取ることもできずに悩み、苦しむ。
それはエルザにとって、そしてあいつにとっても不幸なことだ。
俺はあいつを存外気に入っていて、二人の幸せを思えばどうすることが正解かわかっていても、それでも俺にはエルザを手放すことだけはどうしても出来ない。
背後から感じる視線に、心の中で問いかける。
親友と恋人。距離が近いのはどちらだと思う?
俺達は、どちらも同じ距離に置ける男でないと、エルザの恋人として認めてやることが出来ない。
ごめんな。エルザの恋人になるなら、このくらいは我慢してくれ。
「ケーキ。ついてたぞ」
……平気でやった俺も俺だが、エルザもまたまったく動揺していないらしい。
目の前で平然としている親友に対して笑いを堪えるのは、ひどく難しいことだった。
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