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第一章
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よそ行きの笑顔で言われた言葉にひどく体が冷えて、反対に目の周りがじわりと熱を持った。
どうしてという疑問だけが、延々と頭に浮かぶ。
「ふ、二人と踊った後でも踊れるわ。体力には、自信があるし……」
馬鹿なことを言っているとはわかっている。それでも何を言えばいいのか、どうしてこんなことになっているのか、わからないことばかりで恐ろしくて仕方ない。
ただ私はあの日のことが嬉しくて、また一緒に踊りたいだけ、それだけだったのに。
「……わかり、ました。機会があれば、ぜひ」
静かに言われた言葉に、動揺する心が一瞬で冷静になった。
この言葉は、言わせた。
私が、言わせてしまった。
「そうね。機会があれば踊りましょうね」
顔を上げて努めて冷静に言った。下を向けなかった。
それでも、どうしてもオーウェンの顔だけは見ることができない。
「それじゃあ今日は休むわね。おやすみなさい」
まくしたてるように言って、今度は私が踵を返した。
背中に「おやすみなさいませ」と小さい声がかかる。
振り向くことが出来ずに早足に自室を目指した。
やっと部屋に着くと扉をばたりと閉めて、その場に崩れ落ちた。
震える膝を抱えて「ハンプティの嘘つき」と友人への理不尽な苦情が唇からこぼれ落ちる。
立ち去れば引き止めてくれるのではという甘い考えを、一人で笑った。
気が付いたら部屋が明るくて愕然とした。
まさか、もう朝!?
どうやらあのまま扉の前で寝てしまったらしい。
今日も朝から仕事なのに!
急いで身支度を整えて、部屋から飛び出した。
しかし執務室に着いてから後悔し、逃げ出したくなった。
今日も一日オーウェンと二人でいなければならない。
昨日の会話を思い出して、普段通りにすれば大丈夫だろうかとも考えるも、どんな顔をして会えばいいのかわからない。ぎこちないのも嫌だし、かといって一切気にしてませんよというのもなんだか嫌だ。
逃げたら、また迎えにきてくれるだろうかという考えは、すぐに捨てた。
もう迷惑はかけないようにしないと。
ノックの音が響いて体が跳ねた。
返事……返事をしないと……。
焦る私を尻目に、慌てた様子で開けられた扉に驚くと、中に駆け込んだオーウェンが私を見て「いたか……」と小さく漏らすのが聞こえた。
……うん。サボったと思われたらしい。
「……いるわよ。おはよう」
「おはようございます……」
誤魔化すように頭を下げたオーウェンが書類を取り出す。
極めていつも通りの様子に少し悲しくなりつつ、仕事をこなした。
午後になり、オーウェンが「今日はもう休んでいただいて結構ですよ」と言い出した。
「え?」
仕事はまだ残っているし、体調が悪いわけでもない。
「急ぎのものはあらかた済みましたから、私ももうすぐ休みます」
なら残りも先に済ませればいいのではと言おうとしたが、やめた。
私もこの部屋から出たいと思っていたところだったから。
「……わかったわ。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
部屋から出て、長く息を吐いた。
気晴らしに、外に買い物にでも行こう。
人通りの多い廊下で、奥歯を噛みながら歩く。
今日は一度も、オーウェンと目が合わなかった。
ああ、どうしてこうなってしまったんだろう。
こんなことなら、ダンスのことなど言わなければ……いいえ、恋などしなければ良かったのかもしれない。
どうしてという疑問だけが、延々と頭に浮かぶ。
「ふ、二人と踊った後でも踊れるわ。体力には、自信があるし……」
馬鹿なことを言っているとはわかっている。それでも何を言えばいいのか、どうしてこんなことになっているのか、わからないことばかりで恐ろしくて仕方ない。
ただ私はあの日のことが嬉しくて、また一緒に踊りたいだけ、それだけだったのに。
「……わかり、ました。機会があれば、ぜひ」
静かに言われた言葉に、動揺する心が一瞬で冷静になった。
この言葉は、言わせた。
私が、言わせてしまった。
「そうね。機会があれば踊りましょうね」
顔を上げて努めて冷静に言った。下を向けなかった。
それでも、どうしてもオーウェンの顔だけは見ることができない。
「それじゃあ今日は休むわね。おやすみなさい」
まくしたてるように言って、今度は私が踵を返した。
背中に「おやすみなさいませ」と小さい声がかかる。
振り向くことが出来ずに早足に自室を目指した。
やっと部屋に着くと扉をばたりと閉めて、その場に崩れ落ちた。
震える膝を抱えて「ハンプティの嘘つき」と友人への理不尽な苦情が唇からこぼれ落ちる。
立ち去れば引き止めてくれるのではという甘い考えを、一人で笑った。
気が付いたら部屋が明るくて愕然とした。
まさか、もう朝!?
どうやらあのまま扉の前で寝てしまったらしい。
今日も朝から仕事なのに!
急いで身支度を整えて、部屋から飛び出した。
しかし執務室に着いてから後悔し、逃げ出したくなった。
今日も一日オーウェンと二人でいなければならない。
昨日の会話を思い出して、普段通りにすれば大丈夫だろうかとも考えるも、どんな顔をして会えばいいのかわからない。ぎこちないのも嫌だし、かといって一切気にしてませんよというのもなんだか嫌だ。
逃げたら、また迎えにきてくれるだろうかという考えは、すぐに捨てた。
もう迷惑はかけないようにしないと。
ノックの音が響いて体が跳ねた。
返事……返事をしないと……。
焦る私を尻目に、慌てた様子で開けられた扉に驚くと、中に駆け込んだオーウェンが私を見て「いたか……」と小さく漏らすのが聞こえた。
……うん。サボったと思われたらしい。
「……いるわよ。おはよう」
「おはようございます……」
誤魔化すように頭を下げたオーウェンが書類を取り出す。
極めていつも通りの様子に少し悲しくなりつつ、仕事をこなした。
午後になり、オーウェンが「今日はもう休んでいただいて結構ですよ」と言い出した。
「え?」
仕事はまだ残っているし、体調が悪いわけでもない。
「急ぎのものはあらかた済みましたから、私ももうすぐ休みます」
なら残りも先に済ませればいいのではと言おうとしたが、やめた。
私もこの部屋から出たいと思っていたところだったから。
「……わかったわ。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
部屋から出て、長く息を吐いた。
気晴らしに、外に買い物にでも行こう。
人通りの多い廊下で、奥歯を噛みながら歩く。
今日は一度も、オーウェンと目が合わなかった。
ああ、どうしてこうなってしまったんだろう。
こんなことなら、ダンスのことなど言わなければ……いいえ、恋などしなければ良かったのかもしれない。
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