ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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 スペードの国とは違う、白い石畳をガタガタと馬車が進む。

 この国の大通りには背の高い木々が道沿いに植えられていて、それらを繋ぐように備え付けられた花壇では色とりどりの花が咲いている。この木々も季節によって花を咲かせ、葉を彩るからいつ来てもこの国は華やかだ。
 今は小さな桃色の小花を付けていて、桜並木のようになっている。

 目的地について馬車を降りると、ラベンダー色の三つ編みを揺らしてレスターが駆け寄ってきてくれた。
 その後ろには仏頂面のショーンがいる。

「いらっしゃい、ララ! ハートの国にようこそ!」

 レスターが降りるララの手を取って笑顔で言う。
 今日はショーンオススメのお店に案内してくれるという約束のために、ララとノエルと一緒にハートの国観光にやってきた。
 案内人はハートのクイーンとジャック。なんという贅沢!

「ノエルは今日も可愛い!」と言いながらレスターがノエルに抱きついている。

 さすがにララに抱きつかない分別はあるようで、ちょっと安心した。

「こんにちは、レスター、ショーン。今日はよろしくね。お仕事は忙しくなかった?」
「ううん、声をかけてくれて嬉しいよ!」

 パッとノエルから体を離したレスターが、今度は私に抱きついてくる。ちょっと苦しいが、ポンポンと背中を叩いて応じた。
 愛情表現が豊かなのも、レスターの美点の一つだ。

「……俺のオススメの店に案内するだけなのに、なんでクイーンも来るんだよ」

 私からレスターを剥がした不貞腐れショーンが、ぶつぶつと文句を言っている。
 ああもうすでに可愛い。

「せっかくハートの国に来てくれるんだから、僕だって三人に会いたかったんだよ!」
「……ウザい」

 吐き捨てるセリフと冷たい眼差しに卒倒しそうになる。
 初っ端から飛ばさないでほしい。悶え死にしてしまうわ。

 今日も安定の推しの可愛さに抜け出してしまいそうだが、さすがに人数が少なくて無理か!?
 レスターと目を合わせると、同じことを考えていたらしく頰が緩みっぱなしで、一緒に笑ってしまった。



 ショーンが案内してくれたのは、建物と建物の間にある小さなお店だった。
 看板も出ていなくて、パッと見ただけではとてもお店には見えない。下手をすれば倉庫かなと思ってしまいそうな小ささだ。通りからでは窓も見えない。
 ショーンが扉を無造作に開くと、アンティークのカウベルが軋んだ音を立てた。
 ここまではちょっとしたホラーのような雰囲気だが、中を進めばそこは別世界だった。
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