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第一章
44 補佐が夜に見たのは白昼夢か
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「何に対する謝罪でしょうね?」
クイーンも首を傾げている。
「さてな。心当たりが多すぎてわからん」
キングの声にはまたしても苦労が滲み出ている。
「ゼン! ノエル! ごめんねぇぇ」
キングから離れて今度はクイーンとジャックにしがみついて謝罪するエルザ殿に、全員で首をひねった。
「私達にもですか…どの件のことでしょうか」
「心当たりが増えただけだな」
「そういえば先日も書類の送り先を間違えていましたね」
「オーウェンさんが取り戻しに他国にまで行った時の?」
「それか、こいつが書類整理した後にオーウェンが整理し直してたやつか?」
「あっ、あの件では? オーウェン殿が」
「あの……」
たまらず口を挟んだ。
「私に謝罪がありませんので、仕事の件ではないのではないかと……」
場の空気がピシリと音を立てて固まり焦る。
じょ、冗談なんだけどな……。
「本当に申し訳ない、オーウェン殿……まさかここまで役に立たないとは私も予想しておらず」
「い、いえ、そんな役立たずとまでは……」
『ここまで』にものすごく力がこもっている。
「オーウェンさん疲れてない? 美味しいもの取ってきてあげるね」
「ありがとうございます、ジャック……お気持ちだけで……」
それより、そこで肩を震わせているあなたの兄上をどうにかしてください。
「こいつ、頭は悪くないのに妙に抜けてるからな」
「ええ、忘れもしませんよ……アカデミーの試験で解答欄をずらして0点になるところを、字が綺麗だという理由で点数をいただいていましたからね」
「ああ、字はお綺麗ですよね……」
未だ声に笑いの滲むキングが、眉間のシワを伸ばすクイーンにエルザ殿を託した。
「とにかくこいつを連れて先に帰ってろ。ララさんとオーウェンも一緒に帰ってくれて構わない。ノエルは俺と残れよ」
「仕方ありませんね、まったく……」
ため息をついたクイーンが、再び眠ってしまったエルザ殿を横抱きにして歩き出す。
「承知しました。先に失礼いたします」
挨拶すると、キングは笑顔を少し苦くした。
「ああ。……悪いな、補佐というより世話係になっているだろう」
「えっ、い、いえ、そのようなことは……」
真っ直ぐに視線が合って、思わず目を逸らしてしまった。
この人の大切にしている女性に懸想しているという事実が、先ほど浮上した心をひどく重くし、地につけた。
抱きつかれて自然に彼女の腰に添えられたキングの手や、なんの気負いなく彼女を抱きかかえたクイーンの姿が思い出される。
ダンスですら触れることに緊張する俺と違って、この人達は容易く彼女に触れられるのだ。
「もし負担があれば言ってくれて構わないが……エルザも君を気に入っているから、出来れば世話係は続けてもらえればこちらも助かる」
「は、はい。それは、もちろん……」
それでは失礼いたします、と頭を下げて逃げるようにその場を辞去した。
城の自室に戻るとハンガーにかけるのも面倒でコートをその辺に放り出した。
心身が力尽きてベッドにドサリと倒れこむ。
仰向けになり、自らの両手を見つめて長く息を吐いた。
時間が経ってしまえば、あの幸福な時間がまるで夢だったように感じていた。
俺の欲望が見せた、自分にとって都合の良い幸せな夢だったのでは、と。
「夜に見るのでも白昼夢って言うのか?」
おかしな独り言を言って寝てしまえば、翌朝には本当に夢だったのか現実だったのかがわからなくなった。
クイーンも首を傾げている。
「さてな。心当たりが多すぎてわからん」
キングの声にはまたしても苦労が滲み出ている。
「ゼン! ノエル! ごめんねぇぇ」
キングから離れて今度はクイーンとジャックにしがみついて謝罪するエルザ殿に、全員で首をひねった。
「私達にもですか…どの件のことでしょうか」
「心当たりが増えただけだな」
「そういえば先日も書類の送り先を間違えていましたね」
「オーウェンさんが取り戻しに他国にまで行った時の?」
「それか、こいつが書類整理した後にオーウェンが整理し直してたやつか?」
「あっ、あの件では? オーウェン殿が」
「あの……」
たまらず口を挟んだ。
「私に謝罪がありませんので、仕事の件ではないのではないかと……」
場の空気がピシリと音を立てて固まり焦る。
じょ、冗談なんだけどな……。
「本当に申し訳ない、オーウェン殿……まさかここまで役に立たないとは私も予想しておらず」
「い、いえ、そんな役立たずとまでは……」
『ここまで』にものすごく力がこもっている。
「オーウェンさん疲れてない? 美味しいもの取ってきてあげるね」
「ありがとうございます、ジャック……お気持ちだけで……」
それより、そこで肩を震わせているあなたの兄上をどうにかしてください。
「こいつ、頭は悪くないのに妙に抜けてるからな」
「ええ、忘れもしませんよ……アカデミーの試験で解答欄をずらして0点になるところを、字が綺麗だという理由で点数をいただいていましたからね」
「ああ、字はお綺麗ですよね……」
未だ声に笑いの滲むキングが、眉間のシワを伸ばすクイーンにエルザ殿を託した。
「とにかくこいつを連れて先に帰ってろ。ララさんとオーウェンも一緒に帰ってくれて構わない。ノエルは俺と残れよ」
「仕方ありませんね、まったく……」
ため息をついたクイーンが、再び眠ってしまったエルザ殿を横抱きにして歩き出す。
「承知しました。先に失礼いたします」
挨拶すると、キングは笑顔を少し苦くした。
「ああ。……悪いな、補佐というより世話係になっているだろう」
「えっ、い、いえ、そのようなことは……」
真っ直ぐに視線が合って、思わず目を逸らしてしまった。
この人の大切にしている女性に懸想しているという事実が、先ほど浮上した心をひどく重くし、地につけた。
抱きつかれて自然に彼女の腰に添えられたキングの手や、なんの気負いなく彼女を抱きかかえたクイーンの姿が思い出される。
ダンスですら触れることに緊張する俺と違って、この人達は容易く彼女に触れられるのだ。
「もし負担があれば言ってくれて構わないが……エルザも君を気に入っているから、出来れば世話係は続けてもらえればこちらも助かる」
「は、はい。それは、もちろん……」
それでは失礼いたします、と頭を下げて逃げるようにその場を辞去した。
城の自室に戻るとハンガーにかけるのも面倒でコートをその辺に放り出した。
心身が力尽きてベッドにドサリと倒れこむ。
仰向けになり、自らの両手を見つめて長く息を吐いた。
時間が経ってしまえば、あの幸福な時間がまるで夢だったように感じていた。
俺の欲望が見せた、自分にとって都合の良い幸せな夢だったのでは、と。
「夜に見るのでも白昼夢って言うのか?」
おかしな独り言を言って寝てしまえば、翌朝には本当に夢だったのか現実だったのかがわからなくなった。
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