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第一章
33 補佐のプロローグ
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当代スペードの5のジュノ様はいかにもな好々爺で、笑うと長い眉で目が見えなくなるような愛嬌のある方だった。
「娘がねぇ、いつまでもお城の厄介になってないで一緒に住もうと言ってくれてるんだよ」
その口調とジュノ様の表情から、口うるさいものの人当たりの良い小母さんの姿が浮かぶ。
「それは良うございますね」と答えれば弧を描く唇が髭で隠れた。
見た目通りの穏やかで優しそうな方で安心した。
しかし補佐といえば長年その人の下で働いてきた方がすることで、こんな急ごしらえの補佐があるものかと疑問に思う。ジュノ様にもいずれ自分の後を継がせたいと思う者もいたのではないか。
優しげな空気に後押しされてそっと疑問を投げかけてみれば、鷹揚に頷いたジュノ様が説明してくださった。
「それがねぇ、私はもうのぉんびりとやっとったもんだから、補佐に誰を据えるかなんぞまったく考えておらんかったんでな。キングに相談したらお主を紹介してもらったというわけだよ」
これで一安心だと頷いているジュノ様に、のんびりとしていて5が務まるのか? と新しい疑問が増えただけだった。
問題の村へ向かう当日、広場で待機していたら、同僚で今日も帯同する予定のリドが興奮した様子で駆け寄ってきた。
「なぁ、聞いたか!? 今日の護衛にあのエルザがいるらしいぞ!」
「エルザって?」
「お前、とぼけんなよ! あのエルザだ! ノエル様とジャックを競った!」
リドの言葉に一人の女性の姿が浮かんだ。
「ああ、あの魔法の使い方が上手かった人か!」
「……お前、ほんと魔法バカだな……そこじゃねぇだろ見るとこは」
リドは呆れているがとんでもない。
ほんの数日前のことだ。
キング主催の元、キングの弟のノエル様と、幼馴染の女性でジャックの位を決める試合が執り行われた。
ジャックの位はこの国最高の騎士の証だ。当然野次馬が集まり、俺はかなり遠くから観戦することになった。
ノエル様は魔法を使えないからか、女性は魔法を主体にノエル様と対峙していた。
風で動きを制限し、相手には向かい風を自分には追い風を起こすなんと繊細な魔法の使い分けか。
更に風に水を含ませて暴風雨の最中にいるような使い方には身震いした。
俺は生まれつき火風闇の三属性を持っているが、とても剣を振り回しながら複数の属性を同時に発動させるなどできない。火をどう使うかを考えながら剣を振り、風をどう起こすかを考えながら相手の剣を避けるなど、出来の悪い操り人形のようになってしまう。
これがこの国の最高峰の魔法の使い手かと感動したのだが、まさかその方が護衛してくださるとは!
「わかったわかった! お前ほんと興奮するとうるさい!」
「わかってないだろ! あれだけ緻密に魔法を発動させることがどれだけ難し……いだっ」
「黙れ、この魔法オタク。ったく、だから見るとこちげぇって」
「……どこだよ、見るとこって」
殴られた側頭部をさすりながらリドを睨む。どうしてあの高等技術がわからないんだ。
「男なら見るとこは一つだろ! あの顔! 剣を振って引き締まった体つき!」
「二つあるぞ」
「ジャックなら高嶺の花だけど、部隊長なら俺でもチャンスあるかも!? ちょっと声かけてくるわ!」
今にも走り出しそうなリドの襟首を掴む。
「やめとけって。キングとクイーンの幼馴染だろ? 相手にされるわけない」
と言った時にはすでにリドはジャケットを脱ぎ捨てて投げられた枝を追う犬のごとく速度で走り去ったあとだった。
彼女を見てみれば確かに目鼻立ちの整ったかなりの美人だが、部下に指示を出すアイスブルーの瞳は冷然としていて、どうせ手酷く振られて帰ってくるだろうと思われた。慰める準備をしておくか。
しかし、予想に反してリドはなかなか戻らなかった。
視線を向けてみれば、なかなか話が弾んでいるようで時々同時に笑い出す様子が見える。リドは話が上手く、人見知りとは無縁の男だから当然かもしれないが、キングとクイーンが大切にしている幼馴染を横から掻っ攫うことになっては問題だ。後で釘を刺しておこう。
「娘がねぇ、いつまでもお城の厄介になってないで一緒に住もうと言ってくれてるんだよ」
その口調とジュノ様の表情から、口うるさいものの人当たりの良い小母さんの姿が浮かぶ。
「それは良うございますね」と答えれば弧を描く唇が髭で隠れた。
見た目通りの穏やかで優しそうな方で安心した。
しかし補佐といえば長年その人の下で働いてきた方がすることで、こんな急ごしらえの補佐があるものかと疑問に思う。ジュノ様にもいずれ自分の後を継がせたいと思う者もいたのではないか。
優しげな空気に後押しされてそっと疑問を投げかけてみれば、鷹揚に頷いたジュノ様が説明してくださった。
「それがねぇ、私はもうのぉんびりとやっとったもんだから、補佐に誰を据えるかなんぞまったく考えておらんかったんでな。キングに相談したらお主を紹介してもらったというわけだよ」
これで一安心だと頷いているジュノ様に、のんびりとしていて5が務まるのか? と新しい疑問が増えただけだった。
問題の村へ向かう当日、広場で待機していたら、同僚で今日も帯同する予定のリドが興奮した様子で駆け寄ってきた。
「なぁ、聞いたか!? 今日の護衛にあのエルザがいるらしいぞ!」
「エルザって?」
「お前、とぼけんなよ! あのエルザだ! ノエル様とジャックを競った!」
リドの言葉に一人の女性の姿が浮かんだ。
「ああ、あの魔法の使い方が上手かった人か!」
「……お前、ほんと魔法バカだな……そこじゃねぇだろ見るとこは」
リドは呆れているがとんでもない。
ほんの数日前のことだ。
キング主催の元、キングの弟のノエル様と、幼馴染の女性でジャックの位を決める試合が執り行われた。
ジャックの位はこの国最高の騎士の証だ。当然野次馬が集まり、俺はかなり遠くから観戦することになった。
ノエル様は魔法を使えないからか、女性は魔法を主体にノエル様と対峙していた。
風で動きを制限し、相手には向かい風を自分には追い風を起こすなんと繊細な魔法の使い分けか。
更に風に水を含ませて暴風雨の最中にいるような使い方には身震いした。
俺は生まれつき火風闇の三属性を持っているが、とても剣を振り回しながら複数の属性を同時に発動させるなどできない。火をどう使うかを考えながら剣を振り、風をどう起こすかを考えながら相手の剣を避けるなど、出来の悪い操り人形のようになってしまう。
これがこの国の最高峰の魔法の使い手かと感動したのだが、まさかその方が護衛してくださるとは!
「わかったわかった! お前ほんと興奮するとうるさい!」
「わかってないだろ! あれだけ緻密に魔法を発動させることがどれだけ難し……いだっ」
「黙れ、この魔法オタク。ったく、だから見るとこちげぇって」
「……どこだよ、見るとこって」
殴られた側頭部をさすりながらリドを睨む。どうしてあの高等技術がわからないんだ。
「男なら見るとこは一つだろ! あの顔! 剣を振って引き締まった体つき!」
「二つあるぞ」
「ジャックなら高嶺の花だけど、部隊長なら俺でもチャンスあるかも!? ちょっと声かけてくるわ!」
今にも走り出しそうなリドの襟首を掴む。
「やめとけって。キングとクイーンの幼馴染だろ? 相手にされるわけない」
と言った時にはすでにリドはジャケットを脱ぎ捨てて投げられた枝を追う犬のごとく速度で走り去ったあとだった。
彼女を見てみれば確かに目鼻立ちの整ったかなりの美人だが、部下に指示を出すアイスブルーの瞳は冷然としていて、どうせ手酷く振られて帰ってくるだろうと思われた。慰める準備をしておくか。
しかし、予想に反してリドはなかなか戻らなかった。
視線を向けてみれば、なかなか話が弾んでいるようで時々同時に笑い出す様子が見える。リドは話が上手く、人見知りとは無縁の男だから当然かもしれないが、キングとクイーンが大切にしている幼馴染を横から掻っ攫うことになっては問題だ。後で釘を刺しておこう。
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