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第一章
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「……と、いうわけで、これからは堂々とお話ししましょう! 嬉しいわね!」
「良かったんだか悪いんだか……」
ごめん……。
私はいま、舞踏会の真っ只中でレスターに事の次第を白状している。
どうして舞踏会にいるのかというと、事は数日前に遡る。
「断っといて」
「またですか。……そろそろ参加してみても悪くないと思いますけどね」
ルーファスが折り目のついた便せんをひらひらと漂わせながら、ゼンに手渡している。
「また何かあったの?」
横からその便せんをかすめ取り、中に目を通しながら尋ねる。
しかし読んだ一行目で事態を察したのだった。
「ああ、お見合い舞踏会ね……」
参加者のリストを確認すれば、見事に男女比が均衡していて、しっかりとゼンやノエル、そして私と……オーウェンの名前もある。
「もう我々もいい年ですからね。一度参加してみてもいいのではないかと思ったのですが」
「い・や・だ。女どもの匂いで悪酔いするわ」
「綺麗に着飾ってくる女性に失礼よ。悪い匂いばかりでもないし」
というかこれってゲームにあった舞踏会イベントじゃない?
確か――。
「そんなに嫌ならララを連れて行けばいいわ。スペードのキングには決まった人がいるって思われれば、誘いは減るはずよ」
という話だったはずだ。
ゲームの通りにすんなりと話がまとまるかと思いきや、二人が難色を示した。
「ララさんな……」
「ララさんですか……」
「何よ。可愛いし年も合うし、問題ないじゃない」
「いや、こっちは助かるが……向こうにメリットが何もないだろ?」
言われてみれば、ゲームでは攻略対象を意識し始めたヒロインがお見合い舞踏会と聞いて心がモヤモヤして、参加を勢いで決めてしまっていたはずだ。
しかしララと誰かの間に恋が始まっているかといえば、まったくその気配はない。
「聞いてみるだけ聞いてみましょうよ。もしかしたら舞踏会自体に興味を持ってくれるかもしれないし」
ララが参加しないというならルーファスの好感度が低いというだけだ。そして参加しないと明言しているルーファスにもデメリットはない。
かくして呼び出したララはあっさりと参加を承諾してくれた。
「エルザさん、ドレスを選ぶの手伝ってもらえませんか?」
はにかみながら尋ねるララに手を叩いて賛成する。
「いいわね! ドレスはたくさんあるからきっと楽しいわよ」
「ありがとうございます! あの、それなら……エルザさんのドレスは私が選ばせていただいてもいいですか……?」
「ええ、もちろんよ。つまらない舞踏会でもこういう楽しみ方があるのね」
二人でいそいそと衣裳部屋に向かう後ろでされた会話は、私の耳に届くことはなかった。
「あれが目的だよな?」
「メリットがあったようでなによりですね」
色とりどりのドレスを片っ端から合わせる。ララは可愛いからどれでも似合いそうだ。
「ララはパステルカラーが似合うわね。私じゃぼやけちゃうから」
「エルザさんはかっちりしたビビットカラーが似合ってて素敵です! やっぱりブルーのドレスかなぁ」
目の前に広がる青いドレスの海の前で頭を悩ませるララ。私も真剣に選んであげないと。
「これはどう?」
いくつもある中から一着を選び、まるで主人に呼ばれた子犬のような駆け足で近づいてきたララに手渡す。
すぐに侍女が数人でララを取り囲み、ドレスの試着を手伝い始めた。
パステルグリーンのドレスを着たララは一輪の可憐な花のようだ。
ふわりと広がるプリンセスラインのスカートは腰から裾にかけて薄緑から緑へとグラデーションになっていて、重ねられたフリルには白のバラと鮮やかな緑の葉やツタの刺繍が銀糸とともに豪華にあしらわれている。
半面、胸元や肩から腕にかけては銀糸の落ち着いた刺繍のみが施されていて、アクセサリーも合わせやすそうだ。
元がいいララはあっさりと決まったが、問題は私だった。
優柔不断なのかそもそもドレスが多すぎるのか、ララが本格的に悩み始めてしまい、おまけに侍女達まで「こんなものもありますよ」と別の衣裳部屋から持ち出してくるものだから、すでに何着のドレスを試したかわからない。いや十何着……何十着でないといいな……。青だけでこれなの……?
「て、適当でいいのよ……?」
「「「適当だなんてとんでもない!」」」
女性達の合唱には諸手を挙げて降伏した。冷静そうな一人の侍女がこっそりと私に近付き「色は青で決まっているようですから、先にいくつか宝飾品を選んでおきましょうか?」と耳打ちしてきた。
「お願いするわ。ここではあなただけのようね、私の味方は」
肩をすくめて言うと、冷静な侍女は苦さの混じる微笑みを返してきた。
「良かったんだか悪いんだか……」
ごめん……。
私はいま、舞踏会の真っ只中でレスターに事の次第を白状している。
どうして舞踏会にいるのかというと、事は数日前に遡る。
「断っといて」
「またですか。……そろそろ参加してみても悪くないと思いますけどね」
ルーファスが折り目のついた便せんをひらひらと漂わせながら、ゼンに手渡している。
「また何かあったの?」
横からその便せんをかすめ取り、中に目を通しながら尋ねる。
しかし読んだ一行目で事態を察したのだった。
「ああ、お見合い舞踏会ね……」
参加者のリストを確認すれば、見事に男女比が均衡していて、しっかりとゼンやノエル、そして私と……オーウェンの名前もある。
「もう我々もいい年ですからね。一度参加してみてもいいのではないかと思ったのですが」
「い・や・だ。女どもの匂いで悪酔いするわ」
「綺麗に着飾ってくる女性に失礼よ。悪い匂いばかりでもないし」
というかこれってゲームにあった舞踏会イベントじゃない?
確か――。
「そんなに嫌ならララを連れて行けばいいわ。スペードのキングには決まった人がいるって思われれば、誘いは減るはずよ」
という話だったはずだ。
ゲームの通りにすんなりと話がまとまるかと思いきや、二人が難色を示した。
「ララさんな……」
「ララさんですか……」
「何よ。可愛いし年も合うし、問題ないじゃない」
「いや、こっちは助かるが……向こうにメリットが何もないだろ?」
言われてみれば、ゲームでは攻略対象を意識し始めたヒロインがお見合い舞踏会と聞いて心がモヤモヤして、参加を勢いで決めてしまっていたはずだ。
しかしララと誰かの間に恋が始まっているかといえば、まったくその気配はない。
「聞いてみるだけ聞いてみましょうよ。もしかしたら舞踏会自体に興味を持ってくれるかもしれないし」
ララが参加しないというならルーファスの好感度が低いというだけだ。そして参加しないと明言しているルーファスにもデメリットはない。
かくして呼び出したララはあっさりと参加を承諾してくれた。
「エルザさん、ドレスを選ぶの手伝ってもらえませんか?」
はにかみながら尋ねるララに手を叩いて賛成する。
「いいわね! ドレスはたくさんあるからきっと楽しいわよ」
「ありがとうございます! あの、それなら……エルザさんのドレスは私が選ばせていただいてもいいですか……?」
「ええ、もちろんよ。つまらない舞踏会でもこういう楽しみ方があるのね」
二人でいそいそと衣裳部屋に向かう後ろでされた会話は、私の耳に届くことはなかった。
「あれが目的だよな?」
「メリットがあったようでなによりですね」
色とりどりのドレスを片っ端から合わせる。ララは可愛いからどれでも似合いそうだ。
「ララはパステルカラーが似合うわね。私じゃぼやけちゃうから」
「エルザさんはかっちりしたビビットカラーが似合ってて素敵です! やっぱりブルーのドレスかなぁ」
目の前に広がる青いドレスの海の前で頭を悩ませるララ。私も真剣に選んであげないと。
「これはどう?」
いくつもある中から一着を選び、まるで主人に呼ばれた子犬のような駆け足で近づいてきたララに手渡す。
すぐに侍女が数人でララを取り囲み、ドレスの試着を手伝い始めた。
パステルグリーンのドレスを着たララは一輪の可憐な花のようだ。
ふわりと広がるプリンセスラインのスカートは腰から裾にかけて薄緑から緑へとグラデーションになっていて、重ねられたフリルには白のバラと鮮やかな緑の葉やツタの刺繍が銀糸とともに豪華にあしらわれている。
半面、胸元や肩から腕にかけては銀糸の落ち着いた刺繍のみが施されていて、アクセサリーも合わせやすそうだ。
元がいいララはあっさりと決まったが、問題は私だった。
優柔不断なのかそもそもドレスが多すぎるのか、ララが本格的に悩み始めてしまい、おまけに侍女達まで「こんなものもありますよ」と別の衣裳部屋から持ち出してくるものだから、すでに何着のドレスを試したかわからない。いや十何着……何十着でないといいな……。青だけでこれなの……?
「て、適当でいいのよ……?」
「「「適当だなんてとんでもない!」」」
女性達の合唱には諸手を挙げて降伏した。冷静そうな一人の侍女がこっそりと私に近付き「色は青で決まっているようですから、先にいくつか宝飾品を選んでおきましょうか?」と耳打ちしてきた。
「お願いするわ。ここではあなただけのようね、私の味方は」
肩をすくめて言うと、冷静な侍女は苦さの混じる微笑みを返してきた。
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