ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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 それを聞いた瞬間、私の意識は過去へと遡り、前世へと飛んだ。
 好きなアニメについて友達と語っているところだった。好きなキャラのメイン回について語る友人は言ったのだ。

「推しが尊すぎてつらい」と。

それに対して私は当たり前のように口を開いていた。

「わかる」

 このたった六文字のやり取りで、私とレスターの間には確かな絆が生まれた。

 以来こっそりと手紙でのやり取りを始め、さらにはこっそりと会って想いをぶつけあう日々だ。

「そうだ、エルザ。心して聞いてほしいんだけど……」
「なになに? 当然聞くわよ。私のいない間に何かあった?」
「うん、エルザが僕達から離れて行った後なんだけどね……」

 今までの熱に浮かされた表情が嘘のように、真剣な眼差しでレスターは語りだした。


 ※


「まったく……ノエルになんてことをさせるんだ、あの女は! ほんっとに嫌なら嫌だって言わなきゃダメだよ!」
「え~、嫌なんかじゃないよ? エルザはいつも優しい僕のお姉ちゃんだもん」

 ノエルの相変わらずの天使の微笑みには思わず頷いてしまいそうになった。
 確かにエルザには姉のような包み込む優しい魅力があることはわかっているからだ。
 でも約束は約束。僕はエルザと仲が悪いふりをした。

「そ、そう……? と、とにかくノエルにあんなことをさせるなんて、許し難い!」
「う~ん……」
「今度こそ断固として抗議を……むぐっ」

 話す口に何かが突っ込まれてきて言葉が止まった。サクランボのゼリーか。美味しい。

「ほら、これでおあいこ! だから、ね? 僕はエルザとレスターが仲良くしてるとこが見たいなぁ?」


 ※


「……いつもの天使の笑顔なのに、どこか兄のような包容力が感じられる余裕のある笑みがまたとんでもない威力で!」
「ちょっとなにそれ! どうして私がいる時にしてくれないのよ!」

 話し終えたレスターがあまりの衝撃に膝から崩れそうになるのを支えつつ抗議する。
 私は弟らしい可愛すぎるノエルしか見たことないのにずるい!

「お兄ちゃんノエルとか貴重すぎる……」
「ここで新たな魅力とかもう疲れる……」



「それでね、相談なんだけど……やっぱり皆の前でも普通にお話ししない? 僕だって君と仲良くしたいんだよ」
「あら、ダメよ! そんなことしたらノエルとショーンを私達がどんな目で見てるかバレるじゃない!」

 バレて距離でも置かれたらどうする。二人を見る目は完全に不審者のそれだというのに。自覚が足りない!

「でも……」
「大丈夫よ。私、あなたに罵倒されるのもかなりイイと思ってるもの! もっと欲しいくらいよ!」

 派手な見た目のイケメン美人に罵倒されるなんて、年下キャラ好きな私にとってもご褒美よ!

「………………………………そうだね、やっぱり黙っていようか」
「あらなぁに、その目は? あなたと私は一蓮托生でしょう?」

 残念なものを見る目はやめなさい。


「エルザさん」

 レスターを笑顔の圧力で脅していたら背後から声がして、二人して飛び上がった。
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