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第一章
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まるで私の限界などお見通しだとばかりに、そっと背後に一人分の影が伸びた。
「数分後、あちらの林で」
落とされた言葉に小さく頷くと、人影は離れていく。
その後、残りのフルーツケーキをすべて食べきった私は先ほどの人物が近くにいないことを確認して、約束の林に向けて歩き出した。
ここの川辺は広く草地が広がっているが、少し川から離れれば道を挟んで高い木々が密集した林となり、更に深く分け入れば森になる。
暖かな日差しが真っ直ぐに照らす川辺とは違って、林の中では生い茂る木々からキラキラと木漏れ日が射していて綺麗だ。
ルーファス達がきちんと目視でき、しかし声は聞こえないだろう距離を歩くと、その人は木の影から姿を現した。
見事な深緑の中で目立つラベンダー色の人は私の接近に気付いていたらしく、熱に浮かされた瞳をこちらに向け、我慢できないとばかりに小走りに近付いてくる。
堪らず私も駆け出した。指の先まで美しい手が私の両肩を掴み、これまた極上に美しい顔が眼前に迫る。
私はそっと美しさと比例していない厚い胸に両の手のひらを添えて――。
「ノエルとショーンが可愛すぎてもう無理ぃいい」
「わかるわぁああ」
ピクニックの仕込みの最終目的。
心の友との、愛すべき推しキャラ、ノエルとショーンについて語る会のスタートだ。
「ノエルが、あーんってさ! もうどうしよう、どうしたらいい? 息が出来ないよ可愛すぎてつらい」
「こっちだってショーンの手作りケーキよ! 何も考えずに食べちゃった。ちょっと一度戻してもいいかしら? 味わって食べ直す」
「ああ、あれ君のために作ってたのか。何日も前から試行錯誤してたから、その時の様子も聞きたがるだろうと思ってしっかり見ておいたよ。ただ可愛いの一言」
「その一言で全てが伝わるわ……目に浮かぶ。ノエルのあーんも良かったでしょう? あの困り顔ったら! たまらん!」
「そうなんだよ……本当にありがとう。普段は満点笑顔なノエルの困った顔なんて、あんなにレアなものをあんなに間近で見られるなんて……! 生きてて良かった」
目頭を押さえて俯くレスターの肩をそっと撫でる。わかるわ、その気持ち。
「そうそう!この間のお茶会でだけど、ショーンのローブ姿ったらもう! あなたのデザインで仕立てたものだってすぐにわかったわ。ハートの国の色は赤銅だけどショーンに暖色は似合わない。だからこそ白地のローブに装飾は黒、でも裾は豪華に赤銅色の糸で縫い取られていてハートの国の位持ちだってすぐにわかるようになってたわね! ちょっと袖が長くなっていたのがもう素晴らしくて……はみ出す細い指が破壊力抜群よ!」
「あの袖の素晴らしさがわかるなんて、君は本当に最高だ。でも僕も気付いたよ。ノエルはいつもの騎士服だったけど、髪は君だろう? 外に小さく、しかし大胆に跳ねさせたクリーム色の髪に粉砂糖を振りかけたような銀粉の煌きがノエルの魅力を存分に引き立てていて見事だった……まさに地上に降り立った天使だ」
「大人になっちゃって最近はクリームを口元につけることもなくなっちゃったから、少しでも美味しさをアップさせようと思ってね! あなたのために用意したのよ。気付いてくれて頑張った甲斐があったわぁ」
「口元にクリーム……懐かしいね。僕がこれほど自分の気持ちをさらけ出せるようになったのもノエルの口元のクリームのお陰だよ」
「覚えているわ……あのクリームのお陰であなたとこんなにも楽しい会話が出来るようになったのだものね」
二人してしみじみとしてしまう。
レスターと私は当初本当に仲が悪かった。というよりも私が一方的に嫌われていた。
しかしある日のことだ。
相変わらずノエルを挟んで言い合っていたらノエルが口元にたくさんのクリームを付けてケーキを頬張っていて、内心身悶えしながらハンカチで拭いてあげていた。
その時だ。
大人しくされるままに口元を拭かれるノエルを見ていたレスターの口から洩れた言葉は『つらい』だった。
「数分後、あちらの林で」
落とされた言葉に小さく頷くと、人影は離れていく。
その後、残りのフルーツケーキをすべて食べきった私は先ほどの人物が近くにいないことを確認して、約束の林に向けて歩き出した。
ここの川辺は広く草地が広がっているが、少し川から離れれば道を挟んで高い木々が密集した林となり、更に深く分け入れば森になる。
暖かな日差しが真っ直ぐに照らす川辺とは違って、林の中では生い茂る木々からキラキラと木漏れ日が射していて綺麗だ。
ルーファス達がきちんと目視でき、しかし声は聞こえないだろう距離を歩くと、その人は木の影から姿を現した。
見事な深緑の中で目立つラベンダー色の人は私の接近に気付いていたらしく、熱に浮かされた瞳をこちらに向け、我慢できないとばかりに小走りに近付いてくる。
堪らず私も駆け出した。指の先まで美しい手が私の両肩を掴み、これまた極上に美しい顔が眼前に迫る。
私はそっと美しさと比例していない厚い胸に両の手のひらを添えて――。
「ノエルとショーンが可愛すぎてもう無理ぃいい」
「わかるわぁああ」
ピクニックの仕込みの最終目的。
心の友との、愛すべき推しキャラ、ノエルとショーンについて語る会のスタートだ。
「ノエルが、あーんってさ! もうどうしよう、どうしたらいい? 息が出来ないよ可愛すぎてつらい」
「こっちだってショーンの手作りケーキよ! 何も考えずに食べちゃった。ちょっと一度戻してもいいかしら? 味わって食べ直す」
「ああ、あれ君のために作ってたのか。何日も前から試行錯誤してたから、その時の様子も聞きたがるだろうと思ってしっかり見ておいたよ。ただ可愛いの一言」
「その一言で全てが伝わるわ……目に浮かぶ。ノエルのあーんも良かったでしょう? あの困り顔ったら! たまらん!」
「そうなんだよ……本当にありがとう。普段は満点笑顔なノエルの困った顔なんて、あんなにレアなものをあんなに間近で見られるなんて……! 生きてて良かった」
目頭を押さえて俯くレスターの肩をそっと撫でる。わかるわ、その気持ち。
「そうそう!この間のお茶会でだけど、ショーンのローブ姿ったらもう! あなたのデザインで仕立てたものだってすぐにわかったわ。ハートの国の色は赤銅だけどショーンに暖色は似合わない。だからこそ白地のローブに装飾は黒、でも裾は豪華に赤銅色の糸で縫い取られていてハートの国の位持ちだってすぐにわかるようになってたわね! ちょっと袖が長くなっていたのがもう素晴らしくて……はみ出す細い指が破壊力抜群よ!」
「あの袖の素晴らしさがわかるなんて、君は本当に最高だ。でも僕も気付いたよ。ノエルはいつもの騎士服だったけど、髪は君だろう? 外に小さく、しかし大胆に跳ねさせたクリーム色の髪に粉砂糖を振りかけたような銀粉の煌きがノエルの魅力を存分に引き立てていて見事だった……まさに地上に降り立った天使だ」
「大人になっちゃって最近はクリームを口元につけることもなくなっちゃったから、少しでも美味しさをアップさせようと思ってね! あなたのために用意したのよ。気付いてくれて頑張った甲斐があったわぁ」
「口元にクリーム……懐かしいね。僕がこれほど自分の気持ちをさらけ出せるようになったのもノエルの口元のクリームのお陰だよ」
「覚えているわ……あのクリームのお陰であなたとこんなにも楽しい会話が出来るようになったのだものね」
二人してしみじみとしてしまう。
レスターと私は当初本当に仲が悪かった。というよりも私が一方的に嫌われていた。
しかしある日のことだ。
相変わらずノエルを挟んで言い合っていたらノエルが口元にたくさんのクリームを付けてケーキを頬張っていて、内心身悶えしながらハンカチで拭いてあげていた。
その時だ。
大人しくされるままに口元を拭かれるノエルを見ていたレスターの口から洩れた言葉は『つらい』だった。
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