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第一章
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「タルトタタンは僕も好きだよ。たまに作ってる」
「美味しいですよね! お店には出さないんですか?」
「一人でやりくりしてるからどうしても手が足りなくってね。人を雇おうか悩んでるとこなんだ」
二人は美味しいお菓子を作るのも食べるのも好きということで、すぐに意気投合した。
小太りな体型のハンプティは、その外見のイメージ通りにおおらかで温厚な人だ。
おまけに料理上手ときているから、ゲームのキャラクター人気投票でも『結婚したいキャラクター』部門で数々のイケメンたちを差し置いて1位に輝いていた。
ストーリーも終始穏やかで、人手が足りないお店の手伝いをすることになったヒロインとのんびりとした時間を過ごす。
しかしヒロインが別の世界の人間だとわかって、最後の日まで楽しく一緒に過ごせたらそれで十分だと、自分の気持ちを押し殺してヒロインに自分の世界へ戻るように諭すのだ。
帰らない選択をしたヒロインの前で涙ながらに「本当は帰ってほしくなかったんだ」と漏らすシーンには私も泣いてしまった。
このゲーム屈指の癒し系ストーリーだ。
「あっ、エルザごめんね。二人で盛り上がってて」
話に入らず思い出に浸っていた私に、気が付いた二人が慌てている。
スチルにはない穏やかに話す二人を、心のカメラに収めていたから気にしなくていいのに……。
「ララがのんびり過ごせればと思ってここに来たのだから、楽しく話す二人を見ているのが楽しいの」
まぎれもない本心なのに、ハンプティは気を使ったと思ったらしい。
「そんなこと言わずに、キミとも話がしたいよ。そういえばこの前、スペードのキングが店に来てくれたよ」
「ああ、そういえばエッグタルトのお土産をもらったわね。とても美味しかった、いつも通り」
「そう言ってもらえると嬉しいな。それにしてもルーファスはすっかりキング然としてるね。キミ達があちこちで遊びまわってた頃からは想像もできないよ」
「人が見ている時のキングモードね。誰もいないときは相変わらずにガキ大将よ。うるさくて嫌になっちゃう」
「ははは! 相変わらず仲が良くってうらやましいよ」
肩をすくめる私に、すべてお見通しとばかりにハンプティが笑う。
いつもならここからルーファス達の面白話を展開していくけど、今度はララを退屈させてしまいそうだ。
「そろそろお暇するわね、まだ観光の途中だったから」
「そうかい? それならお土産を持って帰ってよ。ルーファスは甘いものが苦手だろう? キッシュを作っていたんだ。いつキミ達が来てくれてもいいようにと思って」
ララを促して立ち上がると、ハンプティがそう言いながら厨房に向かった。ハンプティのキッシュ!? ゲームにも出てないわ、そんなの!
「すっごく嬉しい! キッシュをいただくのは初めてね」
「確かそうだね。本当はメニューに加えようか悩んでいるから、感想を聞かせてほしいだけなんだよ」
丸い瞳でウィンクしながらお皿に乗ったキッシュを見せてくれる。ポテトとベーコン、それにほうれん草も入っている。具沢山だ。
「感想なんて、この香りだけでもう美味しいの一言よ。嬉しいわ、ありがとう。でもお茶の分と含めてこのキッシュのお代も払わせてね」
「ダメだよ! 試作なんだから!」
「銀貨五枚でいいかしら、店員さん?」
銀貨は前世の貨幣に換算すると一枚千円くらいの感覚だ。
「高すぎるよ!」
押し問答の末、妥当だと思う金額で落ち着いたが、ハンプティは不満げだ。
「まったく、エルザは言ったら聞かないんだから」
「次はごちそうになるわ。みんなも連れてまた来るわね」
「ぜひそうしてよ。その時はララさんも遊びに来てね。タルトタタンを用意して待ってるから」
わざとらしい不満げな表情を消して笑顔になったハンプティはララに話しかけるが、ララはあいまいに笑って「ごちそうさまでした」と言って頷かなかった。
今日で帰るつもりでいるからだろう。
「美味しいですよね! お店には出さないんですか?」
「一人でやりくりしてるからどうしても手が足りなくってね。人を雇おうか悩んでるとこなんだ」
二人は美味しいお菓子を作るのも食べるのも好きということで、すぐに意気投合した。
小太りな体型のハンプティは、その外見のイメージ通りにおおらかで温厚な人だ。
おまけに料理上手ときているから、ゲームのキャラクター人気投票でも『結婚したいキャラクター』部門で数々のイケメンたちを差し置いて1位に輝いていた。
ストーリーも終始穏やかで、人手が足りないお店の手伝いをすることになったヒロインとのんびりとした時間を過ごす。
しかしヒロインが別の世界の人間だとわかって、最後の日まで楽しく一緒に過ごせたらそれで十分だと、自分の気持ちを押し殺してヒロインに自分の世界へ戻るように諭すのだ。
帰らない選択をしたヒロインの前で涙ながらに「本当は帰ってほしくなかったんだ」と漏らすシーンには私も泣いてしまった。
このゲーム屈指の癒し系ストーリーだ。
「あっ、エルザごめんね。二人で盛り上がってて」
話に入らず思い出に浸っていた私に、気が付いた二人が慌てている。
スチルにはない穏やかに話す二人を、心のカメラに収めていたから気にしなくていいのに……。
「ララがのんびり過ごせればと思ってここに来たのだから、楽しく話す二人を見ているのが楽しいの」
まぎれもない本心なのに、ハンプティは気を使ったと思ったらしい。
「そんなこと言わずに、キミとも話がしたいよ。そういえばこの前、スペードのキングが店に来てくれたよ」
「ああ、そういえばエッグタルトのお土産をもらったわね。とても美味しかった、いつも通り」
「そう言ってもらえると嬉しいな。それにしてもルーファスはすっかりキング然としてるね。キミ達があちこちで遊びまわってた頃からは想像もできないよ」
「人が見ている時のキングモードね。誰もいないときは相変わらずにガキ大将よ。うるさくて嫌になっちゃう」
「ははは! 相変わらず仲が良くってうらやましいよ」
肩をすくめる私に、すべてお見通しとばかりにハンプティが笑う。
いつもならここからルーファス達の面白話を展開していくけど、今度はララを退屈させてしまいそうだ。
「そろそろお暇するわね、まだ観光の途中だったから」
「そうかい? それならお土産を持って帰ってよ。ルーファスは甘いものが苦手だろう? キッシュを作っていたんだ。いつキミ達が来てくれてもいいようにと思って」
ララを促して立ち上がると、ハンプティがそう言いながら厨房に向かった。ハンプティのキッシュ!? ゲームにも出てないわ、そんなの!
「すっごく嬉しい! キッシュをいただくのは初めてね」
「確かそうだね。本当はメニューに加えようか悩んでいるから、感想を聞かせてほしいだけなんだよ」
丸い瞳でウィンクしながらお皿に乗ったキッシュを見せてくれる。ポテトとベーコン、それにほうれん草も入っている。具沢山だ。
「感想なんて、この香りだけでもう美味しいの一言よ。嬉しいわ、ありがとう。でもお茶の分と含めてこのキッシュのお代も払わせてね」
「ダメだよ! 試作なんだから!」
「銀貨五枚でいいかしら、店員さん?」
銀貨は前世の貨幣に換算すると一枚千円くらいの感覚だ。
「高すぎるよ!」
押し問答の末、妥当だと思う金額で落ち着いたが、ハンプティは不満げだ。
「まったく、エルザは言ったら聞かないんだから」
「次はごちそうになるわ。みんなも連れてまた来るわね」
「ぜひそうしてよ。その時はララさんも遊びに来てね。タルトタタンを用意して待ってるから」
わざとらしい不満げな表情を消して笑顔になったハンプティはララに話しかけるが、ララはあいまいに笑って「ごちそうさまでした」と言って頷かなかった。
今日で帰るつもりでいるからだろう。
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