ヒロインは私のルートを選択したようです

深川ねず

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第一章

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「こんにちは、エルザさん。相変わらず白ウサギ殿が女性に声をかけていらしたか」
「こんにちは、ハッターさん。ええ、相変わらずですわ」

 黒いシルクハットを傾けて挨拶してくれるこの人は、帽子屋ロイド・ハッター。攻略対象の一人で、白の国の一等地に貴族御用達の帽子工房を構えている。

 ゲームのストーリーでは、ゼンを選択し観光に出かけるも人混みではぐれてしまったヒロインが、偶然にも白ウサギを見つけて声をかける。
 ところが先ほどの調子で口説かれて困っていたところを助けてくれるのがこのハッターさんだ。
 狙い通りにイベントを発生させられたらしい。

「御機嫌よう、ロイド殿。いやはや、お二人が私を離してくれんで、困っておるところです」
「ああ、文字通りにですね」

 白ウサギの言葉に、ハッターさんは悪戯っぽく私の手元を見つめる。
 少々気まずくなり、手を離した。ララも白ウサギからするりと手を離している。まだ握られていたか。

「ハッターさん、こちらはララです。スペードの城のお客様ですわ」

 取り繕うようにハッターさんにララを紹介し、ララにも彼を紹介したが、ハッターさんを含む一般市民の攻略対象の四人には、ヒロインが別世界の人間だと終盤まで知らされない。
 紹介を受けて、のんびりと会話している二人を見つめる。

 あの三人の好感度を上げないなら、ハッターさんはオススメだ。
 大人で優しい紳士なハッターさんとのルートは、ドロドロに甘やかしに甘やかされる。
 しかしヒロインが別世界の人間だとわかると、一番大人であるはずの彼が、自分の世界に帰るつもりでいるヒロインを思わず引き留めてしまうのだ。
 そんな自分に自己嫌悪して、ヒロインを突き放そうとするハッターさんを優しい愛で包み込むヒロインがまたいい!

 しかし、残りの三人のうちの二人は個人的には好きなのだけどオススメはできない。

 私のせいでイベントの発生にズレが生じている可能性があるから、出来るだけイベントは起こすように立ち回ってあげたいとは思っているが、あの二人だけはいっそ出会いイベントすら回避する方向でいこうと思う。

「エルザ姉ちゃーん!」
「……さぁ、ララ! そろそろ行くわよ! まだまだ見るところはたくさんあるわ!」
「エルザ殿、呼ばれておるようですが……?」
「気のせい気のせい! そんな長い耳しておいて役に立たないわね!」

 ひどい!と飛び上がって嘆く白ウサギは放置して、ララの手を引く。

「ああ、トゥイードル・ディーとダムの兄弟ですか。あの二人はやんちゃですからね」

 ハッターさんがフォローしてくれるが、私は決して子供が嫌いなわけではない。

「エルザ姉ちゃん、なんで逃げるんだよ! 今日こそ剣の稽古つけてよ。約束だろ!」
「エルザおねえちゃん、どうして逃げるの……? ひどいよ……」

 可愛い二人の少年が全く同じ顔で、片方は眉を吊り上げ、片方は眉尻を下げて、こちらを睨む。

 トゥイードル・ディーとダムの双子の兄弟。私がどうしてもオススメ出来ない、攻略対象の二人だ。それには当然理由がある。

 私はどちらかといえば可愛らしいキャラクターが好きで、ノエルの他にこの二人のルートもとても気に入っていた。
 活発でヒロインを振り回すが、大人ぶって背伸びするところが可愛らしいディーと、内気で大人しくヒロインにべったり甘えてくるダム。
 二人とも一定の層から非常に人気の高い十五歳だ。
 年齢から言って中身が幼すぎないかと思わなくもない。
 しかしこの二人には、そのある層の更に一部を熱狂させるあるエンディングが存在する。その名は『あなたは僕達二人だけのものだよ』エンド。

 通称『双子狂愛メリバエンド』だ。
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