6 / 206
第一章
6
しおりを挟む
城に帰るとゼンにヒロイン、ララを部屋に案内するよう言われた。
本来なら侍女に頼むはずだけど、私が声をかけたし同姓だからということだろう。
「西棟のプリムラの部屋がいいでしょう。よろしくお願いしますね」
「プリムラの部屋ね、わかった」
それを聞いて、笑いそうになるのを堪えた。
客間にはそれぞれ花の名前が付けられている。
プリムラは小花が可愛らしい花だ。その花言葉は『可憐』。
ララを見たゼンが、プリムラの花のような女性だと思ってこの部屋に通したエピソードは、ゼンのルートで明らかになる。
このお堅いお説教男がそんな可愛らしいことを考えていただなんて! と当時の私は身悶えしたものだ。
ララを連れ、部屋へと案内する。
淡い桃色を基調とした可愛らしい家具で統一された部屋は、この子の雰囲気にぴったりだ。
「今日は疲れたでしょう。お風呂と着替えは侍女に頼んであるから、すぐに来てくれるからね」
「そんな、申し訳ないです! お風呂は一人で入れますから!」
恐縮するヒロインを見て、そういえばと、この後彼女が困ることになると思い出した。
嘘を付くことになるけど仕方ない……。
「ああ、あなたは火の魔法が使えるのね。一人で出来るというなら水との二属性持ちなの?」
素知らぬ顔でそう言うと、ヒロインはきょとんとした。
まぁ、そういう顔にもなるでしょうよ。
しかし私は、彼女の世界に魔法がないとは知らない人間だ。ゲームのキャラクターになりきるのよ!
「お風呂に一人で入れるんでしょう?」
そっか! 知らないんだ! とララの顔に書かれている。ごめんね。知ってる。
「私の世界には魔法がないんです。だから、私も魔法は使えなくって」
「そうなのね。ならやっぱり手伝ってもらいなさい。お湯も魔法で用意したほうが早いから」
なんとか説得できて、内心ほっと息をついた。白々しい会話はさっさと切り上げて、自分の部屋へと帰ろう。
「はい。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
そうそう、最初の頃のヒロインは迷惑をかけたことが申し訳なくて、謝ってばかりだった。そんな彼女にルーファスが言うのだ。
「謝罪はいらない。それより礼を言われた方がずっといい」
「えっ……」
しまった、声に出てた。
ゲームのストーリーを間近で見られて興奮が抑えきれてない。
「あ、そうそう。魔法が使えないならランプの消し方もわからないわよね? 数時間で消えるよう調整しておくから、消えたら今日は早く休んでね」
笑顔で誤魔化して一息で言うと、さっと手を振ってランプの調整をする。
しかし扉を閉めようとすると、ララに止められた。
「あのっ……」
「ん?」
ララはおずおずと、しかししっかりと私の目をまっすぐに見つめてくる。
「私……あの時は知り合いが誰もいなくて、たった一人で頭の中が不安でいっぱいだったんです。エルザさんに声をかけていただけなければ、今頃どうなっていたか……だから本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げたララは、頭を上げるとぎこちなくも笑顔を見せてくれた。
……なんて可愛い! さすが、数々の男を虜にする予定なだけのことはある!
不安から解放された安堵の表情はまだ弱々しくて儚いが、それでも十分魅力的だ。
明日になればもっと明るい笑顔が見られるかもしれない。楽しみ。
「気にしないで。あなたは笑ってるほうが可愛いわね。明日の朝に迎えに行くから、一緒に朝食を食べましょう」
今度こそ扉をそっと閉めて立ち去る。
ランプの消し方がわからなくて、なかなか寝付けなかったという一文がゲームにあったのを思い出せてよかった。
疲れているだろうし、ゆっくり休んでほしいからね。
歩きながら先ほどのララの様子について考えるも、どうやら転生者ではないように思う。
三人に対する態度は、私が知っているヒロインそのものだったし、私に対する態度も初対面の女性に対して不自然ではなかった。
まだ警戒は解かないにしても、あのヒロインなら仲良くなれる気がするし、もしかしたら誰かとのエンディングを間近で見られるかもしれない! それなら全力で後押ししたい。
それに、彼女が転生者だろうがそうでなかろうが、なるべくなら気楽に過ごせるよう気を配ってあげたいとも思う。
なにせヒロインは、三か月後の次のお茶会まで自分の世界に帰れないのだから。
本来なら侍女に頼むはずだけど、私が声をかけたし同姓だからということだろう。
「西棟のプリムラの部屋がいいでしょう。よろしくお願いしますね」
「プリムラの部屋ね、わかった」
それを聞いて、笑いそうになるのを堪えた。
客間にはそれぞれ花の名前が付けられている。
プリムラは小花が可愛らしい花だ。その花言葉は『可憐』。
ララを見たゼンが、プリムラの花のような女性だと思ってこの部屋に通したエピソードは、ゼンのルートで明らかになる。
このお堅いお説教男がそんな可愛らしいことを考えていただなんて! と当時の私は身悶えしたものだ。
ララを連れ、部屋へと案内する。
淡い桃色を基調とした可愛らしい家具で統一された部屋は、この子の雰囲気にぴったりだ。
「今日は疲れたでしょう。お風呂と着替えは侍女に頼んであるから、すぐに来てくれるからね」
「そんな、申し訳ないです! お風呂は一人で入れますから!」
恐縮するヒロインを見て、そういえばと、この後彼女が困ることになると思い出した。
嘘を付くことになるけど仕方ない……。
「ああ、あなたは火の魔法が使えるのね。一人で出来るというなら水との二属性持ちなの?」
素知らぬ顔でそう言うと、ヒロインはきょとんとした。
まぁ、そういう顔にもなるでしょうよ。
しかし私は、彼女の世界に魔法がないとは知らない人間だ。ゲームのキャラクターになりきるのよ!
「お風呂に一人で入れるんでしょう?」
そっか! 知らないんだ! とララの顔に書かれている。ごめんね。知ってる。
「私の世界には魔法がないんです。だから、私も魔法は使えなくって」
「そうなのね。ならやっぱり手伝ってもらいなさい。お湯も魔法で用意したほうが早いから」
なんとか説得できて、内心ほっと息をついた。白々しい会話はさっさと切り上げて、自分の部屋へと帰ろう。
「はい。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
そうそう、最初の頃のヒロインは迷惑をかけたことが申し訳なくて、謝ってばかりだった。そんな彼女にルーファスが言うのだ。
「謝罪はいらない。それより礼を言われた方がずっといい」
「えっ……」
しまった、声に出てた。
ゲームのストーリーを間近で見られて興奮が抑えきれてない。
「あ、そうそう。魔法が使えないならランプの消し方もわからないわよね? 数時間で消えるよう調整しておくから、消えたら今日は早く休んでね」
笑顔で誤魔化して一息で言うと、さっと手を振ってランプの調整をする。
しかし扉を閉めようとすると、ララに止められた。
「あのっ……」
「ん?」
ララはおずおずと、しかししっかりと私の目をまっすぐに見つめてくる。
「私……あの時は知り合いが誰もいなくて、たった一人で頭の中が不安でいっぱいだったんです。エルザさんに声をかけていただけなければ、今頃どうなっていたか……だから本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げたララは、頭を上げるとぎこちなくも笑顔を見せてくれた。
……なんて可愛い! さすが、数々の男を虜にする予定なだけのことはある!
不安から解放された安堵の表情はまだ弱々しくて儚いが、それでも十分魅力的だ。
明日になればもっと明るい笑顔が見られるかもしれない。楽しみ。
「気にしないで。あなたは笑ってるほうが可愛いわね。明日の朝に迎えに行くから、一緒に朝食を食べましょう」
今度こそ扉をそっと閉めて立ち去る。
ランプの消し方がわからなくて、なかなか寝付けなかったという一文がゲームにあったのを思い出せてよかった。
疲れているだろうし、ゆっくり休んでほしいからね。
歩きながら先ほどのララの様子について考えるも、どうやら転生者ではないように思う。
三人に対する態度は、私が知っているヒロインそのものだったし、私に対する態度も初対面の女性に対して不自然ではなかった。
まだ警戒は解かないにしても、あのヒロインなら仲良くなれる気がするし、もしかしたら誰かとのエンディングを間近で見られるかもしれない! それなら全力で後押ししたい。
それに、彼女が転生者だろうがそうでなかろうが、なるべくなら気楽に過ごせるよう気を配ってあげたいとも思う。
なにせヒロインは、三か月後の次のお茶会まで自分の世界に帰れないのだから。
0
お気に入りに追加
1,161
あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる