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第一章
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私には、ずっと考えていることがあった。
生前、乙女ゲームのキャラクターへの転生という題材の小説が好きでたくさん読んでいたが、それらには大きく分けてパターンがあった。
それはヒロインが主人公と同じ転生者か、それとも転生者ではないかということだ。
もし同じ転生者であれば、その多くが主人公と敵対関係となり、攻略対象を文字通り攻略にかかる。
その過程で二人は戦い、最終的にヒロインはぎゃふんと言わされ追放、主人公は攻略対象達と幸せに暮らしましたでエンディングだ。
私の場合モブへの転生だから、ゲームにエルザというキャラクターは存在していない。
どちらの国も一作目では10からエースは名前すらゲームには出てこなかった。
しかし深く考えず嬉しさのままに攻略対象である三人と交流を持ち続けた結果、抵抗むなしくスペードの10に任命されるに至ってしまった。
もちろん三人とともに剣や魔法の鍛錬をしてきた結果であって、友人だからという理由での任命ではないが、出来ることなら一人のモブ兵隊として三人を支えつつ、いずれ訪れるだろうヒロインと三人のうちの誰かとの甘い恋愛ストーリーを画面の外から眺めたかった。
もしもこの世界のヒロインが転生者だった場合、三人と親しい間柄の私に彼女はどう反応をするだろう。
仲良くなれれば良し。乙女ゲームについて語り合える友達ができれば、かなり嬉しい。
しかし、もしもだ。ヒロインが小説と同じような、すべての攻略対象を求めてゲームにはなかった逆ハーレムエンドを目指すような強欲な人間だった場合、恋愛関係にないとはいえ攻略対象達と親しい私は、彼女にとって邪魔な存在になっているのではないか。
ヒロインと友達になりたい。大好きなゲームを生で見られるなんて嬉しい。そう思う気持ちと、みんながヒロインに心を奪われ、彼女の言うままに私に敵意を見せたらと不安に思う気持ちがごちゃまぜになる。
目の前のヒロインの姿に、お茶会前に霧散した気持ちがまた心に重く圧し掛かってきた。
「どうしました?」
同じく窓の外を覗いたゼンに尋ねられ、びくりと体が震えた。
「あの人……こんな時間にどうしたのかと、思って……」
空が赤から深い藍色へと変化していく時間帯だ。
前世に比べて治安が良くはないこの国で、この時間に女性が一人でいることは珍しい。
ましてその女性は明らかに訳ありとわかる雰囲気なのだ。
ゲームでは、お茶会の途中で知り合った女性を見つけたルーファスが、馬車を止めてヒロインに話しかける。
そっと様子をうかがうも、ルーファスは窓の外をちらりと覗いただけで声をかける様子はない。
どうして話しかけないのかと不満に思ったと同時に気が付いた。
この二人、知り合ってないんだった!
本来ならお茶会を抜け出すはずのルーファスは、私の隣に居座り続けていたんだった。
さっき見かけた女がいたから声をかける、というのがストーリーの流れだったから、このルーファスはヒロインに声をかけない! どうしよう!?
私の焦る気持ちを知らない四頭の馬は、軽快に足を進めていく。
そのうちヒロインの横を通り過ぎ、私の様子に首を傾げていたゼンもまた、窓から視線を外した。
そんな、気持ちばかりが焦る中で、一つの葛藤が生まれてしまう。
もし、このままヒロインと三人が出会わなければ、私の心配事はなくなる。
トラブルの元となるかもしれないヒロインとの関わりは、持たないほうがいい。
現時点で彼女は三人と面識もないし、このまま黙っていれば記憶にも残らないはず。
でもそうしたら、見知らぬ土地、どころか異世界で、頼る人もいない彼女はこれからどうなる? 彼女はこの世界のことを何も知らないのに――。
「――停めて!」
生前、乙女ゲームのキャラクターへの転生という題材の小説が好きでたくさん読んでいたが、それらには大きく分けてパターンがあった。
それはヒロインが主人公と同じ転生者か、それとも転生者ではないかということだ。
もし同じ転生者であれば、その多くが主人公と敵対関係となり、攻略対象を文字通り攻略にかかる。
その過程で二人は戦い、最終的にヒロインはぎゃふんと言わされ追放、主人公は攻略対象達と幸せに暮らしましたでエンディングだ。
私の場合モブへの転生だから、ゲームにエルザというキャラクターは存在していない。
どちらの国も一作目では10からエースは名前すらゲームには出てこなかった。
しかし深く考えず嬉しさのままに攻略対象である三人と交流を持ち続けた結果、抵抗むなしくスペードの10に任命されるに至ってしまった。
もちろん三人とともに剣や魔法の鍛錬をしてきた結果であって、友人だからという理由での任命ではないが、出来ることなら一人のモブ兵隊として三人を支えつつ、いずれ訪れるだろうヒロインと三人のうちの誰かとの甘い恋愛ストーリーを画面の外から眺めたかった。
もしもこの世界のヒロインが転生者だった場合、三人と親しい間柄の私に彼女はどう反応をするだろう。
仲良くなれれば良し。乙女ゲームについて語り合える友達ができれば、かなり嬉しい。
しかし、もしもだ。ヒロインが小説と同じような、すべての攻略対象を求めてゲームにはなかった逆ハーレムエンドを目指すような強欲な人間だった場合、恋愛関係にないとはいえ攻略対象達と親しい私は、彼女にとって邪魔な存在になっているのではないか。
ヒロインと友達になりたい。大好きなゲームを生で見られるなんて嬉しい。そう思う気持ちと、みんながヒロインに心を奪われ、彼女の言うままに私に敵意を見せたらと不安に思う気持ちがごちゃまぜになる。
目の前のヒロインの姿に、お茶会前に霧散した気持ちがまた心に重く圧し掛かってきた。
「どうしました?」
同じく窓の外を覗いたゼンに尋ねられ、びくりと体が震えた。
「あの人……こんな時間にどうしたのかと、思って……」
空が赤から深い藍色へと変化していく時間帯だ。
前世に比べて治安が良くはないこの国で、この時間に女性が一人でいることは珍しい。
ましてその女性は明らかに訳ありとわかる雰囲気なのだ。
ゲームでは、お茶会の途中で知り合った女性を見つけたルーファスが、馬車を止めてヒロインに話しかける。
そっと様子をうかがうも、ルーファスは窓の外をちらりと覗いただけで声をかける様子はない。
どうして話しかけないのかと不満に思ったと同時に気が付いた。
この二人、知り合ってないんだった!
本来ならお茶会を抜け出すはずのルーファスは、私の隣に居座り続けていたんだった。
さっき見かけた女がいたから声をかける、というのがストーリーの流れだったから、このルーファスはヒロインに声をかけない! どうしよう!?
私の焦る気持ちを知らない四頭の馬は、軽快に足を進めていく。
そのうちヒロインの横を通り過ぎ、私の様子に首を傾げていたゼンもまた、窓から視線を外した。
そんな、気持ちばかりが焦る中で、一つの葛藤が生まれてしまう。
もし、このままヒロインと三人が出会わなければ、私の心配事はなくなる。
トラブルの元となるかもしれないヒロインとの関わりは、持たないほうがいい。
現時点で彼女は三人と面識もないし、このまま黙っていれば記憶にも残らないはず。
でもそうしたら、見知らぬ土地、どころか異世界で、頼る人もいない彼女はこれからどうなる? 彼女はこの世界のことを何も知らないのに――。
「――停めて!」
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