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高嶺の花に催眠

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高嶺の花に催眠

 いつもなら憂鬱な月曜日を今日は待ち望んでいた。
 いつも通り授業中の彼女を見る。いつもはその横顔に見惚れるだけだが今日はそれ以上に妄想が膨らんでしまう。

 休み時間のたびにドキドキしながらチャンスを待つが、そう上手いこといかない。結局、昼休みまでその機会はこなかった。うずうずしながら昼ご飯を食べスマホを取り出す。いつも彼女をチラチラ見ながらだけど今日は一層スマホの画面が目に入らない。視界の中央にあるスマホはそっちのけで端に見える彼女にしか意識がいかない。時折り顔を動かさずに目だけ動かして彼女の様子を窺うが待ち望んだチャンスは訪れそうになかった。

 悪い予想通り、なにごとも起こせないまま最後の授業が終わった。クラスの面々は部活、遊び、帰宅とそれぞれの行き先に向かって教室を出て行く。
 彼女も他の2人と一緒に教室を出て行った。
 今日は運が無かったと諦めて自分も帰ろうと教室を出たとき彼女の声が聞こえた。
「ちょっとトイレ。下駄箱で待ってて」
 もちろん俺に向かって発せられた言葉ではない。いつも一緒にいる2人に向けられた言葉だ。それを聞いた残りの2人は適当な返事をしてから階段を下り、彼女だけ別れてトイレに向かっていった。
 俺はうるさいくらいに鼓動が大きくなった心臓を制服の上から抑えながらトイレのある方向へ歩き出した。

 もう放課後ということもあり男子トイレには自分1人しかいない。女子トイレは位置的にこの階の端っこで男子トイレはその1つ手前にある。トイレ目的以外では人は通らない。
 手洗い場で心を落ち着かせながら廊下に誰もいないことを確認し女子トイレから彼女が出てくるのを待つ。まだ明るい空を見て平静を保ち、これから自分が取る行動を頭の中で繰り返しイメージする。

 人が少なくなり静かになった校内に パタ パタ とスリッパと床が当たる音が小さく聞こえ自分の心臓が高鳴った。
 昨夜から繰り返した自分の行動のイメージを浮かべながら男子トイレを出ようとすると彼女と鉢合わせた。いつもより近い距離で見た彼女の顔に驚いて一瞬固まってしまったが頭は冷静だった。
 お互いを認識して立ち止まったところで軽く手を前に出して彼女に先に通るように促す。彼女は小さく「あ、ごめん」と呟き軽く頭を下げたあと足早に自分の前を通り過ぎた。
 予定通り彼女の後ろ姿を確認して見える範囲に彼女以外の人間がいないことも確認する。
 いよいよだ。
「高橋さん」
「ん?」
 きれいな顔が振り返ったところで既に構えていたスマホ画面が彼女の視界に入る。澄んだ目からスッと光が失われ彼女は直立不動になった。

 催眠状態にできた喜びと非人道的なことをしている罪悪感が上ってきたがモタモタしていられない。俺は昨夜書いたメモ書きを彼女に見せる。内容を確認した彼女は俺に背を向けて廊下を歩き出した。
 彼女が角を曲がり姿が見えなくなるとどっと汗が吹き出してきた。
 やった やった 壁に凭れ掛かると自分の呼吸が浅くなっていることに気付いた。
 深呼吸を繰り返し息を整えると俺は帰路に着いた。

 彼女の催眠に成功した日の翌朝俺は文化部棟の一室にいた。静か過ぎて落ち着かない。まだ学校は開いたばかりで校内には人が僅かしかいない。部活棟のそれも文化部の建屋には俺以外だれもいないだろう。
 テーブルの前をウロウロしていると約束の時間が近付いてくる。ドアの前で待っているとノックの音が響いた。俺の心臓の音も呼応するように響いた。
 ノックから少し間を空けてドアが開いた。
 彼女だ。
 俺は催眠アプリを開いたスマホを見せる。
「天宮さん、入って」
「うん」
 目の光を失った彼女を部屋に招き入れた。
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