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催眠アプリとの出会い

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催眠アプリとの出会い

「起立、礼」
 担任の先生がいつも通り朝のHRで話しはじめる。特に大事な連絡などはなく1分もしない内に話は終わった。先生が教卓から離れ教室を出るとガヤガヤとクラス内が騒がしくなる。1時間目は移動教室でもないので周りと喋っている生徒がほとんどだ。
「なぁこのゲームのガチャ渋過ぎるんだけど」
「いつも言ってるね。俺も目当てのキャラ出てないけど」
「そうなんだよな。やっぱ無課金にはキツイわ」
「大人がうらやましいよ」
 周りと同じように自分も前の席の男子と喋っている。話題はいつも似たようなもので、ゲームか投稿動画か漫画かアニメだ。好きなジャンルがうっすら被っていて、軽く話すには良い相手だ。たぶん自分もそう思われている。
「今週のあれ読んだ?」
「読んだ読んだ。あれは──」
 話しているうちにチャイムが鳴って授業が始まった。

 教科担当の先生が板書しながら解説しているが、自分はあまり真面目に聞いていなかった。この先生は重要なところはわざわざ「ここメモっといた方がいいぞ」と声を掛けてくれるし、授業中に生徒を指名して答えさせることもほぼない。よそ見や考えごとをしていても問題はない良い先生だ。
 こういう先生の授業では自分は決まって、ある女子生徒を見ていた。肩まで伸ばした黒髪と整った顔は毎日見ても飽きることはない。教室の対角に位置しているので黒板を向く横顔が良く見える。当人は真面目な性格なのだろう。真剣な顔で黒板を見てノートに板書を書き写している。すごく良い。
 今まで見てきた同年代女子の中で間違いなく1番かわいい。というより1番自分の好みの外見をしている。入学式で見て一目惚れして、それからいつも目で追ってしまう。話しかける勇気はないから見ることしかできないけど、それで充分だと思えた。

 高嶺の花の横顔を眺めていると時間が加速して午前の授業はすぐ終わった。早起きして作った弁当を食べながら、やはり彼女に視線を送る。
 いつも一緒に行動している3人組で1つの机を使ってお昼ご飯を食べている。仲は良いみたいで3人でいるときは笑顔も多くなる。
 勝手につられて笑いそうになるが気味悪がられるだけなので我慢して卵焼きを口に運ぶ。高校生になってから1ヶ月半経ち卵焼きを作るのも少し上手くなった気がする。手作りという名の卵焼き以外おかずは冷凍食品の弁当を早々に食べ終えスマホを取り出す。
 更新されたWEB漫画のチェック、好きなスポーツの試合結果、SNSの徘徊、などなどをして時間を潰す。校庭からは運動部のやつらがサッカーをしている声が小さく聞こえる。体を動かすのは嫌いじゃないけど昼休み中に汗を掻くのは少し嫌だ。そもそも入っていけるほどの社交性もない。
 スマホを見ながらチラチラと彼女を盗み見て目の保養をする。既にお昼ご飯を食べ終え3人グループで談笑している。当たり前だけど授業中より表情豊かで楽しそうだ。なんて考えていると唐突に彼女の目線が動いて目が合った。急いでスマホに視線を落として跳ね上がった鼓動を落ち着かせ、見上げる形で彼女を窺うと気にせず談笑していた。不審がられずに良かったと息を吐いてしばらくスマホに集中するが、懲りずにまたチラチラと彼女を見てしまっていた。

 授業が終わり帰路に着いた。中学の頃は運動部に入っていたが高校で続けるほどの情熱はなかった。進学校で部活強制でもないし全生徒の3割ほどは帰宅部だと聞いた。正直、部活が強制じゃないということもこの高校を選んだ理由に入っているが、あのときの自分の選択を何度も褒めた。おかげで人生初めての一目惚れを体験できた。成就する気配は微塵もないけど。



 時刻は21時を回った。週明けに提出の分の課題も終わり、もう眠るだけだ。ベッドに寝転がりダラダラとスマホを眺めていると見覚えのないアプリを見つけた。
「なんだこれ?」
 ゲームアプリのアイコンに紛れて、濃い紫色の背景に目が1つ描かれた少し不気味なアイコンがある。インストールした覚えはないが、アップデートでアイコン画像が変わったのだろうか。試しにタップして起動すると画面が一瞬暗くなりスゥっと渦のような模様が浮かび上がってきた。
「ええ…何これ知らない」
 画面中央のやや下に文字も書いてある。

 催眠アプリ?
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