げーむ?

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ロク

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「……」

 学校に登校している最中にも関わらずおれの身体はブルブルと小刻みに震えていて、声すらもまともに出すことも叶わなかった。

 全て理解できた。あの夜の出来事が夢ではなかったこと、おれが殺されたこと。

 本来なら今日ははずだった。おれの記憶が正しくて間違っていないのならば今日は6月6日の土曜日のはずだからだ。

 だが実際にスマホの画面を見てみれば、そこに記されているのは6月5日の金曜日の文字。

 それだけではなく、おれの身体にも傷痕のようなものがついていた。ついていた場所は少女に切断された左腕と首の部位。
 それでおれは確信してしまった。昨日の夜にあった出来事が悪夢ゆめではなかったと。

 そんな事を考えているうちに学校についてしまった。太陽の光と古い学校が合わさることで、いつものような歴史を感じる立派な学校だというイメージは昨夜の出来事のせいで湧いてこなかった。
 変わりに頭の中で過るのは、巨大な口を歪め不気味なまでの笑顔を見せて鉈を振り回す恐ろしい少女で、自然と拳に力が入ってしまった。

 学校の中に入るだけなのに、いつもとは違って勇気が必要だった。深呼吸をして、落ち着いてからゆっくりと歩を進める。
 門を潜り抜け、コンクリートを踏む音がいつもよりも大きく聞こえて、僅かな風が身体にぶつかっているのがわかる。そんな些細でどうでもよいことも、今は敏感に感じてしまう。

 階段を上り生徒玄関の先にある靴箱から上靴を取り出して外靴と履き替える。
 最悪なことに2年生の教室はこの学校に二つある情報処理室のうちの一つがある三階だ。

 三階の情報処理室といえばあの少女を初めに見つけた場所で、今はその教室に行くのはもちろん見たくもなかった。
 意識などせずに自然と早足になってしまい、逃げるように教室の中に入った。


「……おはよう」

「え、あの……おはようございます」

 教室に入り、見渡せば予想外なことに佐藤さんが自席に座っていた。
 少々面食らってしまうがそれも無理はない。今の時刻は7時だし、この学校に2年間通っているがおれより早く来る奴なんて滅多にいなかった。

「佐藤さんってこんなに早かったっけ?」

「……い、いえ、……猫屋敷くんが朝早いことは……有名なので……」

 佐藤さんの言いたい事が分からない。なぜここでおれが出てくるのだろうか。少なくともおれは佐藤さんに何かした覚えはないし、逆に佐藤さんが何かおれに用事でもあるのだろうか。
 となると……。

「……まさか……?  ……覚えているのか!?」

「……は、はい」 

 佐藤さん特有の控えめな声だが、それをおれが聞き逃すことはなかった。
 もし仮に佐藤さんの言っていることが本当だったとしたら、おれが殺された後のことが知りたい。

「……話せるか?」


 佐藤さんはおれの言葉に黙って頷いた。


■     ■     ■

 
 おれが佐藤さんを逃したあと、彼女は無事に門へとたどり着いたそうだ。ただし、そこにはなぜか先に逃げたはずの永井、優斗、朝霧さんの三名が逗留していた。

 おれと佐藤さんの帰りを待っていた……なんて理由ではなかったそうだ。
 原理は不明だが門が開かず、飛び越えようとしても何かに阻まれるとその場で朝霧さんは言ったそうだ。

 その後も逃げる方法を探していくつか実践したそうだが敢え無く全て失敗。その結果、朝霧さん達は逃げることを諦め、あの少女が来るのを大人しく待っていたそうだ。

 
 だが佐藤さんは、おれに生かされたという気持ちがあったそうで簡単には諦められなかったそうだ。

 とはいってもすぐに思いつく事は大抵朝霧さん達が既にやっているのでそれと同様に全て失敗に終わり、その後はおれと同じく殺されたそうだ。





「そうか……ちなみに傷痕はあるか?」

「は、はい……わ、わたしはあの子にお腹を殴られまして……。」

「腹を? ……だけど腹を殴られた程度で死ぬのか?」
 

 そうだ。そんな簡単に人は死なない。第一あの少女がおれ達の腹を殴るだけ殺せるならあの鉈は邪魔にしかならない。

「わ、わたしも……殴られた時は突然で……反応できませんでしたけど……。」

「……佐藤さんが言うならそうなんだろうな」

「……あの子の足が……突然早くなって、突進するように殴られたのは……今も覚えいます」

 確かに今考えてみると少女がおれの首を飛ばした時も突然早くなった。それこそおれは少女が鉈を振るったのすら見えなかった。
 一瞬だったんだ。本当に瞬きをするような時間よりも短くて……。

「おはよー! 猫屋敷くんはともかく佐藤さんも来てるなんて珍しいね?」

「ああ、おはよう。佐藤さんとは話したいことがあってな」

 随分と話し込んでしまったらしい、時計を見れば8時5分になっていた。
 おれは「また後で話そう」と小声でささやき自席へと向かった。
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