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7. 帰還
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戦いが終わり、森に静寂が戻った。
夕闇が深まり、木々の間を抜ける風が冷たく頬を撫でる。
砦の周囲には盗賊の落とした剣やナイフが散らばり、焦げた地面に光の魔法の跡が残っていた。
エリオンは膝をつき、荒い息を吐きながら自分の手を見つめた。掌には土と汗が混じり、指先が微かに震えている。
リナが隣にしゃがみ込み、彼の肩にそっと手を置いた。
「エリオン、大丈夫? 」
エリオンは顔を上げ、リナの赤い髪が風に揺れるのを見た。
彼女の頬には涙の跡があり、縄の擦れた腕はまだ赤く腫れている。
「リナ、無事で良かった……僕、怖かったけど、リナを助けたかったんだ」
リナが微笑み、エリオンの手を握り返した。
「ありがとう、エリオン。私、信じてたよ。エリオンなら絶対来てくれるって」
二人は顔を見合わせ、疲れ果てた笑顔を浮かべた。
エリオンが立ち上がると、足元に折れた枝が転がっているのに気づいた。
戦いで使ったあの枝だ。彼はそれを拾い上げ、呟いた。
「魔法が使えるなんて思わなかったよ。でも、これがなかったら、リナを助けられなかったかもしれないね」
リナが首をかしげて言った。
「魔法もすごいけど、エリオンが罠作ったり頑張ったからだよ。私、ずっと見てたんだから!」
「そっか……うん」
エリオンは枝を手に持ったまま、リナと並んで歩き出した。
森の小道には月明かりが差し込み、木の葉が銀色に輝いている。
遠くでフクロウが一声鳴き、静かな夜が二人を包んだ。
村に近づくと、燃え尽きた家の残骸からまだ薄い煙が上がっていた。
村人たちが集まり、傷ついた者を介抱している。エリオンは母の姿を探し、家の陰に横たわる彼女を見つけた。
「お母さん! リナを連れ戻したよ!」
駆け寄ると、母は目を薄く開き、エリオンとリナを見てかすかに微笑んだ。
「エリオン……リナも……良かった、無事で……」
声は弱々しかったが、温かさに満ちていた。
エリオンは母の手を握り、涙声で言った。
「お母さん、ごめんね。僕、もっと早く戻れば……でも、約束守ったよ。リナを助けたんだ」
母はゆっくり頷き、エリオンの頬に手を伸ばした。指先は冷たく、震えていたが、優しさが伝わってきた。
「謝らないで、エリオン。あなたは強い子よ。私、誇りに思う……」
「お母さん、死なないで……僕、一人じゃ嫌だよ!」
リナがそっと加わった。
「おばさん…お願い……」
母は二人を見て、目を閉じた。
「ありがとう、リナ……あなたたちなら、大丈夫よ……」
その言葉を最後に、母の息が静かに止まった。エリオンは母の手を握り続け、涙がぽろぽろと地面に落ちた。
村人が近づき、エリオンの肩に手を置いた。おじさんの声が優しく響いた。
「エリオン、お前のお母さんは最後までお前を想ってたよ。立派だ、小僧」
エリオンは涙を拭い、立ち上がった。
「うん……ありがとう、おじさん。母ちゃんのためにも、僕、頑張るよ…」
リナがエリオンの手を握り、言った。
「私もいるよ、エリオン。一緒に…」
「うん、リナと一緒ならできるよ。約束だ……」
母をベッドに寝かせた後、二人は互いに頷き、村の中心へ歩き出した。
夜空には星が瞬き、焼け跡の村に静かな希望が宿った。
エリオンは母の言葉を胸に刻み、リナの手を離さなかった。
魔法が目覚めた少年は、もう一人ではない。村人たちが集まり、エリオンとリナに声をかけ始めた。
「エリオン、リナ、よく戻ったな」
「大変だけど、一緒に頑張ろうな」
エリオンは笑顔で答えた。
「うん… 僕……母ちゃんの分まで頑張るよ…」
森の奥で、少年と少女は新たな一歩を踏み出した。
涙と笑顔が交錯する中、フィオラの里には未来が芽生えていた。
夕闇が深まり、木々の間を抜ける風が冷たく頬を撫でる。
砦の周囲には盗賊の落とした剣やナイフが散らばり、焦げた地面に光の魔法の跡が残っていた。
エリオンは膝をつき、荒い息を吐きながら自分の手を見つめた。掌には土と汗が混じり、指先が微かに震えている。
リナが隣にしゃがみ込み、彼の肩にそっと手を置いた。
「エリオン、大丈夫? 」
エリオンは顔を上げ、リナの赤い髪が風に揺れるのを見た。
彼女の頬には涙の跡があり、縄の擦れた腕はまだ赤く腫れている。
「リナ、無事で良かった……僕、怖かったけど、リナを助けたかったんだ」
リナが微笑み、エリオンの手を握り返した。
「ありがとう、エリオン。私、信じてたよ。エリオンなら絶対来てくれるって」
二人は顔を見合わせ、疲れ果てた笑顔を浮かべた。
エリオンが立ち上がると、足元に折れた枝が転がっているのに気づいた。
戦いで使ったあの枝だ。彼はそれを拾い上げ、呟いた。
「魔法が使えるなんて思わなかったよ。でも、これがなかったら、リナを助けられなかったかもしれないね」
リナが首をかしげて言った。
「魔法もすごいけど、エリオンが罠作ったり頑張ったからだよ。私、ずっと見てたんだから!」
「そっか……うん」
エリオンは枝を手に持ったまま、リナと並んで歩き出した。
森の小道には月明かりが差し込み、木の葉が銀色に輝いている。
遠くでフクロウが一声鳴き、静かな夜が二人を包んだ。
村に近づくと、燃え尽きた家の残骸からまだ薄い煙が上がっていた。
村人たちが集まり、傷ついた者を介抱している。エリオンは母の姿を探し、家の陰に横たわる彼女を見つけた。
「お母さん! リナを連れ戻したよ!」
駆け寄ると、母は目を薄く開き、エリオンとリナを見てかすかに微笑んだ。
「エリオン……リナも……良かった、無事で……」
声は弱々しかったが、温かさに満ちていた。
エリオンは母の手を握り、涙声で言った。
「お母さん、ごめんね。僕、もっと早く戻れば……でも、約束守ったよ。リナを助けたんだ」
母はゆっくり頷き、エリオンの頬に手を伸ばした。指先は冷たく、震えていたが、優しさが伝わってきた。
「謝らないで、エリオン。あなたは強い子よ。私、誇りに思う……」
「お母さん、死なないで……僕、一人じゃ嫌だよ!」
リナがそっと加わった。
「おばさん…お願い……」
母は二人を見て、目を閉じた。
「ありがとう、リナ……あなたたちなら、大丈夫よ……」
その言葉を最後に、母の息が静かに止まった。エリオンは母の手を握り続け、涙がぽろぽろと地面に落ちた。
村人が近づき、エリオンの肩に手を置いた。おじさんの声が優しく響いた。
「エリオン、お前のお母さんは最後までお前を想ってたよ。立派だ、小僧」
エリオンは涙を拭い、立ち上がった。
「うん……ありがとう、おじさん。母ちゃんのためにも、僕、頑張るよ…」
リナがエリオンの手を握り、言った。
「私もいるよ、エリオン。一緒に…」
「うん、リナと一緒ならできるよ。約束だ……」
母をベッドに寝かせた後、二人は互いに頷き、村の中心へ歩き出した。
夜空には星が瞬き、焼け跡の村に静かな希望が宿った。
エリオンは母の言葉を胸に刻み、リナの手を離さなかった。
魔法が目覚めた少年は、もう一人ではない。村人たちが集まり、エリオンとリナに声をかけ始めた。
「エリオン、リナ、よく戻ったな」
「大変だけど、一緒に頑張ろうな」
エリオンは笑顔で答えた。
「うん… 僕……母ちゃんの分まで頑張るよ…」
森の奥で、少年と少女は新たな一歩を踏み出した。
涙と笑顔が交錯する中、フィオラの里には未来が芽生えていた。
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