目覚めのフィオラ

シマセイ

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5. 救出作戦

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エリオンは古い砦の陰に身を潜めた。

夕闇が森を包み、砦の崩れた石壁に苔がびっしりと張り付いている。

風が吹き抜け、乾いた葉がカサカサと地面を転がる音が響く。

盗賊たちの火が赤々と燃え、揺れる炎が男たちの顔を照らし出す。

馬の鼻息と、時折鳴る金属の擦れ合う音が耳に届いた。

エリオンは手に持った丸い石をぎゅっと握り、汗で湿った掌にその冷たさを感じた。  

「よし、まず注意を引くんだ。石を投げて、罠に誘い込もう……」  

彼は深呼吸し、震える足を抑えて呟いた。  

計画を実行する時だ。彼は石を手に持つと、火の近くの地面を狙って投げた。

石は弧を描き、乾いた土にバシンと音を立てて落ちた。

盗賊の一人が立ち上がり、剣を抜いた。  

「おい、何だあれ!? 誰かいるのか!?」  

髭面の男が目を細め、エリオンが隠れる森の方へ近づいてきた。  

「見張りがサボってんじゃねえだろうな? お前ら、確認しろ!」  

二人の盗賊が火から離れ、森に踏み入った。

その瞬間、一人がエリオンの仕掛けた蔓に足を取られ、顔から地面に倒れた。  

「うわっ! 何だこれ、足が絡まったぞ!」  
もう一人が助けようとしたが、エリオンはすかさず次の行動に出た。乾いた枝の束に火打ち石を擦り、細い煙が上がり始めた。  

「よし、煙だ! これで混乱させられる!」  
彼は枝を地面に叩きつけ、煙が砦の方へ流れ出すようにした。灰色の煙が盗賊たちの視界を覆い、咳き込む声が響いた。  

「くそっ、何だこの煙!? 目が痛ぇぞ!」  

「誰かいる! 見つけ出せ!」  

エリオンは煙に紛れ、砦の裏手に回った。

足元には砕けた石が散らばり、靴底にその硬さを感じた。

リナの檻に近づくと、彼女の目が希望で光った。  

「リナ、大丈夫!? 今、縄を切るよ!」  

エリオンはナイフを手に、縄に刃を当てた。

刃先が粗い繊維を切り裂き、ザリザリという音が手に伝わる。

リナが布を外され、かすれた声で言った。  

「エリオン、ありがとう……でも、早く逃げなきゃ!」  

「うん、すぐ行くよ! 立てる?」  

リナが頷き、エリオンは彼女の手を引いて檻から引き出した。

彼女の腕は縄の跡で赤く腫れ、冷たい汗で濡れていた。  

だが、その時、煙の中から盗賊の声が近づいてきた。  

「おい、あのガキが檻にいるぞ! 逃がすな!」  

屈強な男が剣を手に、エリオンたちに向かって突進してきた。

エリオンはリナを背に庇い、叫んだ。  

「リナ、走って! 森に逃げるんだ!」  

「嫌だよ、エリオン置いてかない!」  

リナが叫び返す中、エリオンは地面に落ちていた尖った枝を拾い上げた。

枝の先は鋭く、表面には剥がれた樹皮がザラザラと残っている。  

「僕だって戦えるよ! お前ら、リナに触るな!」  

彼は枝を構え、盗賊に立ち向かった。

だが、10歳の少年の力では、迫る刃を止めるのは難しかった。
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