最強村長の無双日記

第9話：村長、魔王と再会する

モロコシ村の上空は、真っ黒な雲に覆われていた。昼なのに夜のように暗く、雷鳴が遠くでゴロゴロと響く。
畑は静まり、トゲちゃんが「グルル」と唸り、ガゾルが「何か来るぞ…」と鉄腕を構える。
チビが「ジジイ、今回はマジでヤバいっすね！」と緊張し、ミナがトゲちゃんにしがみつき、「村長さん…」と震える。トビーは畑の隅で「胃が…胃が死にました…」と蹲っていた。
ガルドは広場の椅子に座り、杖を膝に置いて目を閉じていたが、ゆっくり立ち上がった。（こりゃあの野郎だな。ったく、昔みたいに派手に登場しやがって）
彼が呟くより早く、空が裂けた。ズガァァン！黒雲が渦を巻き、中央から巨大な影が降り立つ。
村人たちが「何！？」「終わりだ！」と悲鳴を上げる中、ガルドだけがニヤリと笑った。



現れたのは、魔王ゴルザードその人だった。身長5メートル、漆黒の鎧に身を包み、頭に角が生え、背中に巨大な翼が広がる。手に持つ剣は炎を纏い、目が血のように赤く輝く。
威圧感だけで村の屋根が震え、畑の土が舞い上がった。「我が名はゴルザード、魔王なり。辺境の老人、ガルド。お前が我に刃向かった罪、ここで償え」その声は雷鳴のようで、村人たちが一斉に隠れる。
トビーが「死にました！完全に死にました！」と泣き叫び、チビが「でけぇ！ジジイ、勝てるっすか！？」と目を丸くする。ガゾルが「魔王様…！」と呻き、ミナが「村長さん…！」とトゲちゃんにしがみついた。

ガルドは鼻をほじりながら歩み出て、眠そうな声で言った。「お前、ゴルザードか。ずいぶん立派になったな。
昔は俺に、酒奢ってもらってたガキだったのに」
「何！？」
魔王が目を剥き、村人たちが「えぇぇ！？」と驚く。
ゴルザードが剣を振り上げ、叫んだ。「戯言を！貴様、我が軍を次々と打ち倒し、我が威信を傷つけた！その罪、死で――」「うるせぇな。昔みたいに黙って酒でも飲めよ。俺が若い頃は、お前と一緒に――」
「黙れぇぇ！」ゴルザードの剣が振り下ろされ、炎の衝撃波がガルドを襲う。だが、彼は杖を軽く振った。シュゥゥ！炎が消え、魔王の鎧がチリチリと焦げ始めた。
「お、お前…何を！？」「なぁに、お前の火じゃ弱すぎるってだけだ。昔はもっと熱かったぞ」ミナが「ほんとですか！？」と目を輝かせ、トビーが「今それどころじゃないですよ！」と叫んだ。



ゴルザードが剣を構え直し、翼を広げた。「貴様…確かにあの時の…いや、そんなはずはない！」（あの時の？誰だ？こいつ、俺を知ってるのか？）魔王が内心で動揺する中、ガルドは杖を肩に担ぎ、ニヤニヤしながら言う。
「お前なぁ、昔は俺に『ガルド様ぁ！』って泣きついてたよな。魔王になった途端偉そうにしやがって」「貴様ぁぁ！」ゴルザードが突進し、剣を振り下ろす。
ガルドはヨタヨタと避け――また木にぶつかった。ガンッ！「いてぇ！この木、絶対呪われてんな！」チビが「ジジイ、またっすか！？」と爆笑し、ガゾルが「隙だらけだぞ！」と呆れる。
ゴルザードが「今だ！」と剣を突き出すが、ガルドは杖で軽く払った。カンッ！剣が跳ね返り、魔王がよろける。「お前なぁ、剣が重すぎて遅ぇよ。昔はもっと軽快だったぞ」

ゴルザードが咆哮し、翼から黒い風を放つ。「くらえ、『暗黒嵐』！」風が村を襲い、屋根が飛ぶ。だが、ガルドは杖を地面に突き立てた。ドンッ！衝撃波が風を打ち消し、魔王の翼がバタバタと萎む。
「お、お前…何者だ！？」「ただの村長だよ。昔はお前と一緒に、城で飯食ってただけさ」村人たちが「えぇぇ！？」「ほんと！？」と騒ぐ中、ゴルザードが顔を歪めた。



ゴルザードが最後の力を振り絞る。「我が全力をもって貴様を葬る！」鎧が輝き、剣から巨大な炎が放たれた。
村人たちが「終わりだ！」と叫ぶが、ガルドは杖を軽く振り上げた。ゴキンッ！炎が消え、剣が砕け、ゴルザードが膝をつく。
村は静まり返り、トビーが「勝った…？」と呟く。ガルドが近づき、杖で魔王の頭を軽く叩いた。
コンッ！「お前なぁ、昔みたいに素直になれよ。魔王なんて柄じゃねぇだろ」ゴルザードが息を切らし、呟く。
「貴様…やはり…あの…ガルドか…」ガルドがニヤリと笑う。
「覚えててくれたか。まぁ、昔、お前と一緒に魔王だった奴をしばいただけだがな」「何！？」村人たちが「えぇぇぇ！？」と驚き、ミナが「村長さん、すごい！」と目を輝かせた。

「帰れ、ゴルザード。次はお前ん家に遊びに行くぞ」ガルドの言葉に、魔王が指をパチンとはじかれると、モゴモゴし始めた。声が出なくなったらしい。黒雲が消え、ゴルザードは翼を震わせて飛び去った。



夜、広場で盛大な宴が開かれた。村人たちが「生きてる！」「村長さん最強！」と騒ぎ、トビーが「胃が生き返りました！」と笑う。
チビが「ジジイ、魔王まで倒すとかヤバいっす！」と興奮し、ガゾルが「魔王様があんな目に…」と苦笑い。
ミナはトゲちゃんを撫で、「村長さん、私も強くなりたいです！」と言う。ガルドは芋をかじりながら独白した。（あのガキ、昔は可愛かったのにな。まぁ、また会うか）
チビが「ジジイ、魔王とほんとに友達だったんすか？」と尋ねると、ガルドは笑った。「友達ってか、昔は一緒に悪さしてただけだ。奴が魔王になって俺に喧嘩売るとか笑えるわい」
「またそれかよ！」トビーとチビのツッコミに、村が笑いに包まれた。
空は晴れ、星が輝く中、ガルドは杖を手に未来を見据えた。