最強村長の無双日記

第7話：村長、魔王の手下を笑いものに

モロコシ村の朝は、いつもと少し違っていた。森の奥から漂う重い空気。鳥のさえずりが少なく、風が不自然に止んでいる。畑では元刺客たちがトビーの監督の下で芋を掘り、チビが「もっと腰入れろよ、新入り！」とからかう。ミナはトゲちゃんに草をやりながら、「何か変な感じがします…」と呟く。ガルドは広場の椅子に座り、杖を膝に置いて目を閉じていたが、耳がピクリと動いた。（おや、こいつはでかいのが来たな。ったく、静かに寝かせてくれねぇのか）

トビーが畑から駆けてきて叫んだ。「村長さーん！森が変です！何か来てますよ！」ガルドが片目を開け、眠そうに答える。「うるせぇな、トビー。朝から騒ぐな。どうせまたミナのペットでも暴れてんだろ」「違いますって！僕の胃が教えてくれてます！ヤバいです！」トビーの「胃予報」にチビが吹き出し、ミナが「トビーさん、大丈夫ですか？」と心配そうに言う。ガルドは杖をついて立ち上がり、森の方を見た。「まぁ、確かに何か臭うな。魔王の臭いがしやがる」「魔王！？」村人たちが一斉に凍りついた。


森の木々がバキバキと折れる音が響き、巨大な影が現れた。身長3メートルを超える筋肉の塊のような人型魔物だ。右腕が鉄の義手で覆われ、左手に巨大なハンマーを握っている。顔はゴツゴツした岩のようで、目が赤く光る。「鉄腕ガゾル」――魔王軍の幹部の一人だ。ガゾルが低く唸り、村を見下した。「我が主、魔王様の命だ。この村の化け物じいさんを始末しろとの仰せだ。お前がガルドか？」その声は地響きのようで、村人たちは「ひぃぃ！」と悲鳴を上げて家に隠れる。トビーが「死にますよぉ！」とガルドの後ろに縮こまり、チビが「でけぇ！ジジイ、勝てるっすか！？」と叫ぶ。ミナはトゲちゃんの背に乗り、「村長さん…！」と不安げだ。

ガルドは鼻をほじりながら答えた。「お前なぁ、魔王の使いっ走りがこんな朝っぱらから来るとか、迷惑千万だわい。俺が若い頃はなぁ、お前みたいな雑魚、朝メシ前に――」「黙れ、ジジイ！お前が魔王様に逆らった噂は聞き飽きた！死ね！」ガゾルがハンマーを振り上げ、地面を叩いた。ドゴォォン！衝撃波が畑を抉り、芋が空に舞う。トビーが「僕の芋がぁ！」と泣き叫ぶ中、ガルドはヨタヨタと避けた――が、また木にぶつかった。ガンッ！「いてぇ！この木、毎回邪魔しやがる！」チビが「ジジイ、またっすか！？」と笑い、村人たちが隠れながら「村長、大丈夫！？」と声を揃えた。



ガゾルが目を細め、内心で考える。（このジジイ、噂通りただ者じゃない。だが、木にぶつかるような間抜けが魔王様の敵のはずがない。油断せず仕留めるぞ）再びハンマーを振り下ろすが、ガルドは杖を軽く振った。カンッ！ハンマーが跳ね返され、ガゾルの鉄腕がガキンと鳴る。「何！？この力は…！」「お前なぁ、ハンマー重すぎて動き遅ぇぞ。もっと軽いの持ってこいよ」ガゾルが「舐めるな！」と咆哮し、鉄腕を振り回して突進。だが、ガルドは一瞬で背後に回り、杖で軽く尻を叩いた。ペチンッ！「うおっ！？」ガゾルが尻を押さえ、よろける。その姿にチビが「ジジイ、センスいいっす！」と爆笑し、トビーが「笑ってる場合じゃないですよ！」と慌てる。

ガゾルが怒りに震え、鉄腕から赤い光を放った。「魔王様の力を思い知れ！『鉄炎波』！」炎の波がガルドを襲うが、彼は杖を地面に突き立てる。シュゥゥ！炎が消え、代わりにガゾルの鉄腕がチリチリと焦げ始めた。「お、お前…何をした！？」「なぁに、お前の火を跳ね返しただけだ。俺が若い頃はなぁ、魔王の炎を風呂代わりに――」「嘘つくな！」ガゾルの叫びに、ミナが「村長さん、ほんとですか？」と目を輝かせた。



ガゾルが最後の力を振り絞り、ハンマーと鉄腕で同時攻撃を仕掛ける。だが、ガルドは杖を軽く振り上げた。ゴキンッ！ハンマーが砕け、鉄腕がひしゃげ、ガゾルが地面に膝をつく。村は静まり返り、トビーが「勝った…？」と呟く。ガルドはニヤリと笑った。「お前、魔王の手下ならもっとマシに戦えよ。恥ずかしい奴だな」ガゾルが息を切らし、呟く。「貴様…確かに魔王様が警戒するだけの力だ…だが、次は…」ガルドが指をパチンとはじくと、ガゾルがモゴモゴし始めた。声が出なくなったらしい。「次とか言ってるうちに黙っとけ。お前、トゲちゃんの遊び相手でもやってろ」トゲちゃんが「グルル」と近づき、ガゾルを鼻でつつく。ガゾルが「ムゴッ！？」と驚く中、チビが「トゲちゃんの友達っすか！？」と笑った。



昼下がり、ガゾルはトゲちゃんに絡まれながら畑の隅で座っていた。村人たちは「魔王の手下がこんな目に！」「トゲちゃん、強いね！」と笑いものだ。トビーが「胃が痛い…でも勝った！」と安堵し、ミナが「村長さん、魔王と戦った話、ほんとですか？」と尋ねる。ガルドは芋をかじりながら答えた。「まぁ、あるっちゃあるな。昔、魔王の城で飯食ってた時に――」「またそれかよ！」トビーとチビのツッコミが重なり、村が笑いに包まれた。だが、ガルドは内心で呟く。（魔王の奴、動き出したか。こりゃ面倒になるな）遠くの空に、黒い雲が広がり始めた。村はまだ気づかないが、新たな試練が近づいていた。