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16話
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体が重い。いくら寝ても寝足りない。
昨日の夜と今日の夜が地続きになってしまったのか、気付くと既に陽は落ちていた。
頭を働かせようと、フワフワ過ぎていった日中の出来事を整理する。床頭台の上には新しい本が置かれた。しかし、食指が向かない。
君はわたしの所に来たのを間違いだったと思うかもね。多分、正解だよ。
きっと彼は母よりも、わたしに詳しくなるはずだ。
きっと、今も走り回ってるんだよね。
聞こえなくなった足音を探して耳を澄ます。
部屋に来た看護師さんに、病院の七不思議的なものを聞こうと思っていたが、結局聞けず仕舞いだった。
わたしが知った三つの悪霊は入っているのだろうか。楽しみが増える。でも、病院なんて悪霊がどんどん増えそうだけど、大丈夫なんだろうか。
「調子はどうだ?」
飛び出そうになった返答は自分の口の中一杯に押し込まれた。
「すまない。驚かせてしまった」
「ノックとかしてくれればいいのに」
心臓が元気だとアピールをしてくる。
「周りに見られるわけにはいかないんだが…もう少し入り方は考えるよ」
そういえば、四つだった。というか、わたしが死んだらルークは死神扱いかな。吸血鬼なのに。
「まだ疲れが残っているみたいだな」
「うん。けっこう」
「環境の変化が大きな理由だから、慣れれば大して疲れなくなると思う。まあ、死んで悪霊になってしまった時、成仏しにくくなるが」
「なんで?」
「生きてるのか死んでるのかが、わからなくなるから」
ルークは壁の向こうを指差す。
「あっちの方の病室の人が、朝方亡くなった」
そういえば、騒がしかったかも。
「亡くなった直後、悪霊になっていたが、今はもう居ない。成仏した」
「そんなに早く?」
「悪霊に一番多いのは、まだ生きていると勘違いしている奴なんだ」
窓の外へと意識を向ける。
「生きているという思いが、この世に縛り付けているんだけど、そういう奴は死んだことを理解すれば勝手に成仏する。でも、生きている内に霊になっていた奴はそれが中々理解できなかったりする」
「気付きそうだけど」
「前にも言った通り、少しずつ思いや感情は消えていくから、思考が単純になる。そんな中、また生霊になったんだ、と最初に思ってしまうと、どんどん否定できなくなっていくんだ。まぁ、すぐに全てを失うわけではないから、それで真っ黒になる奴は殆ど居ないけど。ただ、他よりも成仏は遅いことが多い」
「病院だったら大丈夫そうな気もするけどね」
別に否定したいとは思っていないが、また、外に行きたいとは思っているので、何となく食い下がってしまう。
「必ず死んだ場所で悪霊になる、というわけではないんだ。全く無関係の場所には出現しないと思うが、何処で生まれるかは私達でもわからない。今日の人は看取った家族に憑いたんだろうが、もし、ハヤトが悪霊になっていたら遊園地に出現していたかもしれない。そうなったら、少し大変になるだろ」
「たしかに」
「外の悪霊も多分この病院で亡くなったのではなく、何かこの場所に意味があったから出現したんだろう」
「じゃあ、看護師さんと子供達は?」
「わからない。ただ、看護師の方は死んだことに気付かせても成仏に繋がるとは思えないかな」
「子供達の方はそれでいけるかもしれないんだ」
勝手に、希望を見つけた気分になる。
「かもしれないが、絶対に素人が確かめてはいけない」
「なんで?」
「子供の幽霊が一番危ないんだ。そもそもの知識が少ないのと、元々の意識が単純だから、理由が何であれ理解させるのが難しいのと、理解させるまでに使える時間が大人よりも少ない。だから、それを生業にする人間以外は近づかないのが吉だ」
そもそも、見えていないので、何もするつもりはなかったが、ルークは釘をさすように念入りに説明をしてくる。
「大丈夫。そもそもルークがいないと何もできないし」
「それならいいが」
ルークが大きく息を吐いた。
「そろそろ帰るとしよう」
「えっ、まだ居たらいいのに」
「調子を確認しにきただけだから」
「そんな、お母さんみたいなこと言わないでよ」
周りを見渡してみるが引き留めるようなものは見当たらない。
「明日はまた外に行ける?」
「疲れが取れていたらな」
まさか、休むことを頑張る日が来るとは思っていなかった。
「あっ、そうだ。ルーク、そこのノート一冊持って行っていいよ」
不思議そうな顔でルークはわたしを見つめる。
「山彦さん達のためのキャラクター考える用」
「私は別に考える気はなかったのだが」
「わたしも絵を描くの得意じゃないし、二人で考えれば、どっちかいいの思いつくかもしれないじゃん」
ルークの姿が消えた。隙間ができた棚からパタリと音がした。
昨日の夜と今日の夜が地続きになってしまったのか、気付くと既に陽は落ちていた。
頭を働かせようと、フワフワ過ぎていった日中の出来事を整理する。床頭台の上には新しい本が置かれた。しかし、食指が向かない。
君はわたしの所に来たのを間違いだったと思うかもね。多分、正解だよ。
きっと彼は母よりも、わたしに詳しくなるはずだ。
きっと、今も走り回ってるんだよね。
聞こえなくなった足音を探して耳を澄ます。
部屋に来た看護師さんに、病院の七不思議的なものを聞こうと思っていたが、結局聞けず仕舞いだった。
わたしが知った三つの悪霊は入っているのだろうか。楽しみが増える。でも、病院なんて悪霊がどんどん増えそうだけど、大丈夫なんだろうか。
「調子はどうだ?」
飛び出そうになった返答は自分の口の中一杯に押し込まれた。
「すまない。驚かせてしまった」
「ノックとかしてくれればいいのに」
心臓が元気だとアピールをしてくる。
「周りに見られるわけにはいかないんだが…もう少し入り方は考えるよ」
そういえば、四つだった。というか、わたしが死んだらルークは死神扱いかな。吸血鬼なのに。
「まだ疲れが残っているみたいだな」
「うん。けっこう」
「環境の変化が大きな理由だから、慣れれば大して疲れなくなると思う。まあ、死んで悪霊になってしまった時、成仏しにくくなるが」
「なんで?」
「生きてるのか死んでるのかが、わからなくなるから」
ルークは壁の向こうを指差す。
「あっちの方の病室の人が、朝方亡くなった」
そういえば、騒がしかったかも。
「亡くなった直後、悪霊になっていたが、今はもう居ない。成仏した」
「そんなに早く?」
「悪霊に一番多いのは、まだ生きていると勘違いしている奴なんだ」
窓の外へと意識を向ける。
「生きているという思いが、この世に縛り付けているんだけど、そういう奴は死んだことを理解すれば勝手に成仏する。でも、生きている内に霊になっていた奴はそれが中々理解できなかったりする」
「気付きそうだけど」
「前にも言った通り、少しずつ思いや感情は消えていくから、思考が単純になる。そんな中、また生霊になったんだ、と最初に思ってしまうと、どんどん否定できなくなっていくんだ。まぁ、すぐに全てを失うわけではないから、それで真っ黒になる奴は殆ど居ないけど。ただ、他よりも成仏は遅いことが多い」
「病院だったら大丈夫そうな気もするけどね」
別に否定したいとは思っていないが、また、外に行きたいとは思っているので、何となく食い下がってしまう。
「必ず死んだ場所で悪霊になる、というわけではないんだ。全く無関係の場所には出現しないと思うが、何処で生まれるかは私達でもわからない。今日の人は看取った家族に憑いたんだろうが、もし、ハヤトが悪霊になっていたら遊園地に出現していたかもしれない。そうなったら、少し大変になるだろ」
「たしかに」
「外の悪霊も多分この病院で亡くなったのではなく、何かこの場所に意味があったから出現したんだろう」
「じゃあ、看護師さんと子供達は?」
「わからない。ただ、看護師の方は死んだことに気付かせても成仏に繋がるとは思えないかな」
「子供達の方はそれでいけるかもしれないんだ」
勝手に、希望を見つけた気分になる。
「かもしれないが、絶対に素人が確かめてはいけない」
「なんで?」
「子供の幽霊が一番危ないんだ。そもそもの知識が少ないのと、元々の意識が単純だから、理由が何であれ理解させるのが難しいのと、理解させるまでに使える時間が大人よりも少ない。だから、それを生業にする人間以外は近づかないのが吉だ」
そもそも、見えていないので、何もするつもりはなかったが、ルークは釘をさすように念入りに説明をしてくる。
「大丈夫。そもそもルークがいないと何もできないし」
「それならいいが」
ルークが大きく息を吐いた。
「そろそろ帰るとしよう」
「えっ、まだ居たらいいのに」
「調子を確認しにきただけだから」
「そんな、お母さんみたいなこと言わないでよ」
周りを見渡してみるが引き留めるようなものは見当たらない。
「明日はまた外に行ける?」
「疲れが取れていたらな」
まさか、休むことを頑張る日が来るとは思っていなかった。
「あっ、そうだ。ルーク、そこのノート一冊持って行っていいよ」
不思議そうな顔でルークはわたしを見つめる。
「山彦さん達のためのキャラクター考える用」
「私は別に考える気はなかったのだが」
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ルークの姿が消えた。隙間ができた棚からパタリと音がした。
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