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37 ー芋煮の話ー
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「さて、みなさん。11月11日と言えば?」
カウンター席に腰掛けた斉藤が、ものすごい嬉しそうなホクホク顔で、愛と 依子に声をかけた。
「聖マルトンの日」
依子が例によって賄いをモグモグしながら言う。今日はカツサンドだ。
「フォアグラとボジョレーの日」
厨房の愛も答える。
「なんだ。知ってたか。」
斉藤は手に持ってヒラヒラさせていた何かのパンフを依子に見せて言う。
「この前のパーティーでさ、ブダペスト周辺のワインセラーオーナーが何人か来てたんだけどね。
そのうちの1人とちょっと仲良くなって、ぜひ来てくださいってご招待受けたのよ。そんで、11月11日ってちょうど月曜日で定休日じゃない。
みんなで行こうよ~。」
「うぇ~いい!やったやった!」
愛はまたしても小躍りしながら器用に仕込みをしている。
「それは、すごく楽しそうですね。え、でもツアー費用とか運転とか、どのような具合で? 他にもお客さんいらっしゃる感じですか?」
依子はお財布とコミュニケーションが心配だ。
「それがさあ、ご招待だから、試飲はもちろん軽いお食事とかおつまみもタダで、車出してくれるんだって!
最寄駅までは自力で行かないとなんだけどね。」
フォアグラも出るぞ~、と斉藤は愛に声をかけている。
「いろんなグループが接待受けてるんじゃないかと思うけど、毎回1組ずつだって言ってたから、コミュ障の依子さんでも大丈夫よ~。
仕事抜きで楽しんでください、だって。
まあ、我々が楽しめるってことは商売に繋がるってわかっててやるわけでしょ。」
「それはありがたいですね!」
それなら素直に楽しめそうだ、と依子は思った。
「なんか新進気鋭の醸造家でね、絶賛販路を開拓中、ってことらしい。
小さなワイナリーだから規模に見合った取引先が欲しいんだと。
あ、それでさ、田中君も誘ってよ。とりあえず楽しくピクニックすればいいんだけど、もしかしたら仕事にも繋がるかもじゃない?」
あ、このパンフあげてね、と言って依子にそのワインセラーのパンフを渡す。
八方よしだ~、と斉藤は鼻歌を歌いながら厨房に行ってしまった。
ほんとにしっかりというかちゃっかりしてるよな、と斉藤の後ろ姿を見送る。
この前はパーティーの直前で、失礼しちゃってたから連絡してみよう。
早速譲治にLINEを打った。
毎年11月11日は、ハンガリーでは聖マルトンの日、と呼ばれる祭日で、ヨーロッパ各国でもお祝いされる。
キリスト教において聖マルティンとも呼ばれるその聖人は、清貧と慈愛を生涯をかけて体現し続けた中世の実在の人物。
丁度この日は冬の到来を告げる日でもあり、農作物や家畜など秋の収穫を祝い、神への感謝を捧げる。
聖マルトンはガチョウに関する逸話があるため、この日はボジョレーヌーボーの解禁に合わせ、ガチョウ料理やフォアグラを供するのである。
あまり知られていないが、ハンガリーはフランスに次いでフォアグラ生産の多い土地柄で、良質で安価にいつでもフォアグラが食べられる。
大昔の聖人の、その慈愛に学び、日々を感謝しつつ、その年のボジョレーヌーボーとフォアグラをいただくのが、ハンガリー人の秋のお楽しみなのであった。
「こんにちは。先日は失礼しました。久しぶりにランチか夕飯ご一緒にいかがですか?」
すぐ返事が来る。
「こんにちは。大丈夫ですよ。」
「どこかで飲みます? それともまたウチでテキトー飯で良ければそれでも。ご希望あれば。」
依子は、何を食べたいかな、と考えながら返信する。
「依子さんのごはんは全然テキトーじゃないですよ。
ご迷惑でないなら、お宅にうかがいたいです。あと、あったかいものが食べたいです。」
譲治の返事。
最近はあまり遠慮せず、自分の希望を言ってくれるので、うれしい。
「了解。それじゃ、ご都合良い日時お知らせください。」
そうして、依子のバイト明けの明日、月曜夜7時に、と決めた。
あったかいものねえ。久しぶりに煮物食べたいかも、と思い、今日はそこのスーパーで買い物をして帰ろう、と頭にメモして、後半バイトに臨む依子だった。
ーーー
「フォアグラ?」
譲治はちょっとうれしそうだ。
いつも基本的に感情表現に乏しい譲治にしては、すごく喜んでいる、と言える。
「要するに脂肪の塊だから、そんなにたくさん食べるものじゃないけど、楽しみよね?」
依子はワインセラーツアーの話を譲治にして、パンフを渡してある。
「もしかすると、会社も興味持つかもしれません。
ハンガリーの知る人ぞ知る隠れ家的ワインセラーの希少な銘柄。
お話伺った限りでは間違いなく日本では販売されてないですよね。
平日だけど仕事扱いにしてもらって、僕は楽しませてもらおうかな。」
社長に聞いてみます、と言って譲治は食事に戻る。
月曜日の夜、約束してあったように、譲治は7時に依子のアパートに来た。
気が利かないと言っていた割に、ちゃんとビールを持って。
専ら自分が飲むのに依子には甘えられない、ということに気づいたかららしい。
今晩のメニューは、肉じゃが定食。メインと、ほうれん草の胡麻和え、根菜の浅漬け、卵焼き、豆腐の味噌汁、白米。
「おいしいです。いつもですけど。」
譲治は早速勢いよく食べているので、気に入ってくれたのだろう。
「私が食べたかっただけですよ。
秋だから、そろそろ芋煮の季節だなーと思って。さすがに里芋がなかったから、肉じゃがに変更したの。」
依子はうれしそうに譲治の食べっぷりを見ている。
「秋だと芋煮なんですか?」
「故郷の山形ではね、秋と言えば芋煮なのよ。
なぜか河原で大々的に芋煮会するの。まあ、収穫祭ってことなのよね。里芋と牛肉、長ネギ、あたりがベースの食材かな。」
「へえ。」
「肉は牛じゃなくて豚だ、とかきのこは入れる入れない、とか締めはうどんだとかカレーだ、とか、地域とかご家庭とかでこだわりが違うから面白いんですよ。」
「芋煮会ってそう言えば聞いたことありますね。」
「プールみたいな鍋で、ショベルカー使って作るやつね。笑えますよね。」
一回見てみたいなあ、と譲治は言った。
山形にいらっしゃることがあったら案内しますよ、と依子はうれしそうに言う。
「日本に帰国したりはしないんですか?休みとかでも。」
譲治は聞いてみる。
自分は特別理由がなければ帰らないが、どうなんだろう、と思った。
寂しいんじゃないかと。
「うーん。親が怪我した、とか具合悪くて助けが必要、とかだったら帰るかもね。でも今のところ大丈夫みたい。」
依子は平然と言う。
「こっちに出て来る時に、ハンガリーに骨を埋める覚悟で、って言って出てきてるから、よほどのことがなければね。
私に財力と時間があればいいけど、全然だし。
弟家族が親の近くに住んでるから本当に感謝だわ。
私の手が必要なら呼ぶってことになってるの。」
「寂しくないですか?帰りたいと思ったりしません?」
「あんまりないかな。故郷ってそんなものでしょ。
懐かしいな、とは思うけど、良い思い出もあれば、封印したい黒歴史もたくさんあるし。
親が介護が必要になれば、もちろん子供の義務として面倒みる所存だけどね。弟には苦労させたくないから連絡係やってもらうだけで十分よ。」
田中さんは?と依子が聞く。
「まあ、僕も同じですね。
母は早く帰って来いってうるさいけど、両親はピンピンしてるし。
日本人的同調圧力社会が、やっぱり苦手で。」
「ですよね~。私も同じ。故郷は特に田舎だから。
私みたいなちょいとオカシイ奴は浮きまくってたわ。」
依子の言葉にクスッと譲治が笑った。
「田中さんて、ご兄弟は妹さん1人でしたっけ?」
「そうですよ。なんだかよくわからんけど好き勝手してます。
お互い干渉しない主義なんで。」
あはは、そうよね、ウチもそう。
依子は屈託なく笑うのだった。
譲治は依子のそんな大らかな笑い声が好きだった。
ーーー
夜も更けて、そろそろ帰ります、と譲治が言った。
譲治がぜひともほしいと言ってくれたので、また、余っているおかずをタッパーに詰めて持たせる。
「あっ、前回いただいたタッパー持ってくるの忘れました!すみません。」
譲治は焦ってぺこぺこしている。
「別にいいのよ。お家で使ってくれて。
気づいたらまた持ってきてくれれば。違うおかず詰めますよ。」
また来てね、と言ってもらえて譲治はうれしかった。
ふと入り口付近を見ると入った時は気づかなかった位置の、鍵受け皿に赤い椿の花が置いてあった。
「これ、この前、髪に挿していたやつですか。」
譲治が聞く。
「あら、よく気づきましたね。そうなの。
マネキン役としては何かインパクトないといかんかな、と思って半襟とお揃いで作ったのよ。」
譲治は思わず手にとってしばらく見つめていた。
「とてもきれいでしたよ。」
譲治は花を見たままぽつりと言った。
「そう?ありがとう。気に入ってくれたのならあげますよ。」
依子はうれしそうに笑って、その柔らかな縮緬で作られた真っ赤な椿を、透明なビニル袋に入れて、おかずの入った紙袋に一緒にしてくれた。
「なんか、いつももらってばかりで。」
譲治はなんだか恥ずかしくなった。
「いいのいいの。自分の作ったものを喜んでもらえるのって、とってもとってもうれしいんだから。
それに、私が半死半生の時に看病してもらったお礼もちゃんとしてないし。リクエストくれないんだもの。」
「いやいや、それこそ、お役に立てることが僕はうれしかっただけです。」
じゃ、おあいこ、ってことで。
そう言って笑って別れた。
カウンター席に腰掛けた斉藤が、ものすごい嬉しそうなホクホク顔で、愛と 依子に声をかけた。
「聖マルトンの日」
依子が例によって賄いをモグモグしながら言う。今日はカツサンドだ。
「フォアグラとボジョレーの日」
厨房の愛も答える。
「なんだ。知ってたか。」
斉藤は手に持ってヒラヒラさせていた何かのパンフを依子に見せて言う。
「この前のパーティーでさ、ブダペスト周辺のワインセラーオーナーが何人か来てたんだけどね。
そのうちの1人とちょっと仲良くなって、ぜひ来てくださいってご招待受けたのよ。そんで、11月11日ってちょうど月曜日で定休日じゃない。
みんなで行こうよ~。」
「うぇ~いい!やったやった!」
愛はまたしても小躍りしながら器用に仕込みをしている。
「それは、すごく楽しそうですね。え、でもツアー費用とか運転とか、どのような具合で? 他にもお客さんいらっしゃる感じですか?」
依子はお財布とコミュニケーションが心配だ。
「それがさあ、ご招待だから、試飲はもちろん軽いお食事とかおつまみもタダで、車出してくれるんだって!
最寄駅までは自力で行かないとなんだけどね。」
フォアグラも出るぞ~、と斉藤は愛に声をかけている。
「いろんなグループが接待受けてるんじゃないかと思うけど、毎回1組ずつだって言ってたから、コミュ障の依子さんでも大丈夫よ~。
仕事抜きで楽しんでください、だって。
まあ、我々が楽しめるってことは商売に繋がるってわかっててやるわけでしょ。」
「それはありがたいですね!」
それなら素直に楽しめそうだ、と依子は思った。
「なんか新進気鋭の醸造家でね、絶賛販路を開拓中、ってことらしい。
小さなワイナリーだから規模に見合った取引先が欲しいんだと。
あ、それでさ、田中君も誘ってよ。とりあえず楽しくピクニックすればいいんだけど、もしかしたら仕事にも繋がるかもじゃない?」
あ、このパンフあげてね、と言って依子にそのワインセラーのパンフを渡す。
八方よしだ~、と斉藤は鼻歌を歌いながら厨房に行ってしまった。
ほんとにしっかりというかちゃっかりしてるよな、と斉藤の後ろ姿を見送る。
この前はパーティーの直前で、失礼しちゃってたから連絡してみよう。
早速譲治にLINEを打った。
毎年11月11日は、ハンガリーでは聖マルトンの日、と呼ばれる祭日で、ヨーロッパ各国でもお祝いされる。
キリスト教において聖マルティンとも呼ばれるその聖人は、清貧と慈愛を生涯をかけて体現し続けた中世の実在の人物。
丁度この日は冬の到来を告げる日でもあり、農作物や家畜など秋の収穫を祝い、神への感謝を捧げる。
聖マルトンはガチョウに関する逸話があるため、この日はボジョレーヌーボーの解禁に合わせ、ガチョウ料理やフォアグラを供するのである。
あまり知られていないが、ハンガリーはフランスに次いでフォアグラ生産の多い土地柄で、良質で安価にいつでもフォアグラが食べられる。
大昔の聖人の、その慈愛に学び、日々を感謝しつつ、その年のボジョレーヌーボーとフォアグラをいただくのが、ハンガリー人の秋のお楽しみなのであった。
「こんにちは。先日は失礼しました。久しぶりにランチか夕飯ご一緒にいかがですか?」
すぐ返事が来る。
「こんにちは。大丈夫ですよ。」
「どこかで飲みます? それともまたウチでテキトー飯で良ければそれでも。ご希望あれば。」
依子は、何を食べたいかな、と考えながら返信する。
「依子さんのごはんは全然テキトーじゃないですよ。
ご迷惑でないなら、お宅にうかがいたいです。あと、あったかいものが食べたいです。」
譲治の返事。
最近はあまり遠慮せず、自分の希望を言ってくれるので、うれしい。
「了解。それじゃ、ご都合良い日時お知らせください。」
そうして、依子のバイト明けの明日、月曜夜7時に、と決めた。
あったかいものねえ。久しぶりに煮物食べたいかも、と思い、今日はそこのスーパーで買い物をして帰ろう、と頭にメモして、後半バイトに臨む依子だった。
ーーー
「フォアグラ?」
譲治はちょっとうれしそうだ。
いつも基本的に感情表現に乏しい譲治にしては、すごく喜んでいる、と言える。
「要するに脂肪の塊だから、そんなにたくさん食べるものじゃないけど、楽しみよね?」
依子はワインセラーツアーの話を譲治にして、パンフを渡してある。
「もしかすると、会社も興味持つかもしれません。
ハンガリーの知る人ぞ知る隠れ家的ワインセラーの希少な銘柄。
お話伺った限りでは間違いなく日本では販売されてないですよね。
平日だけど仕事扱いにしてもらって、僕は楽しませてもらおうかな。」
社長に聞いてみます、と言って譲治は食事に戻る。
月曜日の夜、約束してあったように、譲治は7時に依子のアパートに来た。
気が利かないと言っていた割に、ちゃんとビールを持って。
専ら自分が飲むのに依子には甘えられない、ということに気づいたかららしい。
今晩のメニューは、肉じゃが定食。メインと、ほうれん草の胡麻和え、根菜の浅漬け、卵焼き、豆腐の味噌汁、白米。
「おいしいです。いつもですけど。」
譲治は早速勢いよく食べているので、気に入ってくれたのだろう。
「私が食べたかっただけですよ。
秋だから、そろそろ芋煮の季節だなーと思って。さすがに里芋がなかったから、肉じゃがに変更したの。」
依子はうれしそうに譲治の食べっぷりを見ている。
「秋だと芋煮なんですか?」
「故郷の山形ではね、秋と言えば芋煮なのよ。
なぜか河原で大々的に芋煮会するの。まあ、収穫祭ってことなのよね。里芋と牛肉、長ネギ、あたりがベースの食材かな。」
「へえ。」
「肉は牛じゃなくて豚だ、とかきのこは入れる入れない、とか締めはうどんだとかカレーだ、とか、地域とかご家庭とかでこだわりが違うから面白いんですよ。」
「芋煮会ってそう言えば聞いたことありますね。」
「プールみたいな鍋で、ショベルカー使って作るやつね。笑えますよね。」
一回見てみたいなあ、と譲治は言った。
山形にいらっしゃることがあったら案内しますよ、と依子はうれしそうに言う。
「日本に帰国したりはしないんですか?休みとかでも。」
譲治は聞いてみる。
自分は特別理由がなければ帰らないが、どうなんだろう、と思った。
寂しいんじゃないかと。
「うーん。親が怪我した、とか具合悪くて助けが必要、とかだったら帰るかもね。でも今のところ大丈夫みたい。」
依子は平然と言う。
「こっちに出て来る時に、ハンガリーに骨を埋める覚悟で、って言って出てきてるから、よほどのことがなければね。
私に財力と時間があればいいけど、全然だし。
弟家族が親の近くに住んでるから本当に感謝だわ。
私の手が必要なら呼ぶってことになってるの。」
「寂しくないですか?帰りたいと思ったりしません?」
「あんまりないかな。故郷ってそんなものでしょ。
懐かしいな、とは思うけど、良い思い出もあれば、封印したい黒歴史もたくさんあるし。
親が介護が必要になれば、もちろん子供の義務として面倒みる所存だけどね。弟には苦労させたくないから連絡係やってもらうだけで十分よ。」
田中さんは?と依子が聞く。
「まあ、僕も同じですね。
母は早く帰って来いってうるさいけど、両親はピンピンしてるし。
日本人的同調圧力社会が、やっぱり苦手で。」
「ですよね~。私も同じ。故郷は特に田舎だから。
私みたいなちょいとオカシイ奴は浮きまくってたわ。」
依子の言葉にクスッと譲治が笑った。
「田中さんて、ご兄弟は妹さん1人でしたっけ?」
「そうですよ。なんだかよくわからんけど好き勝手してます。
お互い干渉しない主義なんで。」
あはは、そうよね、ウチもそう。
依子は屈託なく笑うのだった。
譲治は依子のそんな大らかな笑い声が好きだった。
ーーー
夜も更けて、そろそろ帰ります、と譲治が言った。
譲治がぜひともほしいと言ってくれたので、また、余っているおかずをタッパーに詰めて持たせる。
「あっ、前回いただいたタッパー持ってくるの忘れました!すみません。」
譲治は焦ってぺこぺこしている。
「別にいいのよ。お家で使ってくれて。
気づいたらまた持ってきてくれれば。違うおかず詰めますよ。」
また来てね、と言ってもらえて譲治はうれしかった。
ふと入り口付近を見ると入った時は気づかなかった位置の、鍵受け皿に赤い椿の花が置いてあった。
「これ、この前、髪に挿していたやつですか。」
譲治が聞く。
「あら、よく気づきましたね。そうなの。
マネキン役としては何かインパクトないといかんかな、と思って半襟とお揃いで作ったのよ。」
譲治は思わず手にとってしばらく見つめていた。
「とてもきれいでしたよ。」
譲治は花を見たままぽつりと言った。
「そう?ありがとう。気に入ってくれたのならあげますよ。」
依子はうれしそうに笑って、その柔らかな縮緬で作られた真っ赤な椿を、透明なビニル袋に入れて、おかずの入った紙袋に一緒にしてくれた。
「なんか、いつももらってばかりで。」
譲治はなんだか恥ずかしくなった。
「いいのいいの。自分の作ったものを喜んでもらえるのって、とってもとってもうれしいんだから。
それに、私が半死半生の時に看病してもらったお礼もちゃんとしてないし。リクエストくれないんだもの。」
「いやいや、それこそ、お役に立てることが僕はうれしかっただけです。」
じゃ、おあいこ、ってことで。
そう言って笑って別れた。
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