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2 ー依子の日常ー
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小石川依子の朝は早い。最近は。
6時過ぎには起きて、朝食として大きなマグカップにカフェオレを一杯。
お腹が空いている時はバナナを一本。
バナナは鬱に良いらしい。
ちょっと前まで、いくらでも寝ていたい、なんなら永遠に目覚めなくていい、と思っていたが、45才を超えて急激に身体の衰えを痛感し始めている。
たくさん、ぐっすり寝られない、というのも老化現象の一つである。
そして、軽く片付け、掃除、洗濯などの家事、それからiPadでニュースチェックやゲームなどして、遅くとも9時までには仕事を始めると決めている。
きちんとルーチンとスケジュールを決めて動かないと、際限なくだらしなくなるのだ。
依子は工芸作家を生業としている自営業なので、生来ズボラなダメ人間を自認している依子にとって、必要な自らへの引き締めだ。
とは言え、所詮「売れない」工芸作家なので、週3日は日本料理店でバイトをしている。
バイトのない日は昼と夜休憩を1時間ずつ挟んで、夜10時くらいまで自宅で仕事。土日は制作を休むことにしているが、結局お金もないし暇なのも落ち着かないので、気分だけは楽にしながら仕事をする。
そうすると、気がついたら、しばらく休んでねえな、という感じになってくるので、年に一回くらい貧乏バックパック旅行に出かける。
ハンガリーでもしっかり稼げるように、就労ビザだけは苦労して取得したので、堂々と仕事ができて、ハンガリーの人に対しても営業できるのは、ありがたいことだ。
今日からしばらくは、日本で唯一取引してくれているお得意様からの注文がきているので、それを大量にさばかねばならない。
日本国内にいる時と違って、送料や時間が大幅にとられるのは痛いところだが、仕方ない。こうやって変わらずご贔屓にしていただいているだけで、本当にありがたい。
それに、日本で工房を開いていた時も、めちゃくちゃお世話になった。正直、儲けのためというより、仁義のためである。
依子の制作の仕事は、基本的にはアート寄りなので、自分の作りたい物を、売れる形へ寄せていって、販売する。
注文制作も何度かしてきたことはあるが、決してクライアントの頭の中は覗けないので、100%注文通りのものを納めることはできないし、できたとしても、強烈なストレスがかかるし、期待に添えなかったらクライアントに申し訳ないので、引き受けないことにしている。
それでも、是非とも、と言って頼んでくれる先の取引先のような奇特なクライアントさんもいるので、そういった依頼もたまには挟むのである。
そんな具合だから、今のところ収入の60%はバイト、残りが制作活動によるものなわけで、「そんなの趣味じゃないか」みたいなことも言われたこともあるが、自分がアーティストだって言えば、アーティストなのである。
と、割り切れるようになったのはここ最近。
こういう達観というか、ある種の諦念は、加齢によるものでもあるので、歳をとるのも悪いことばかりではない。
ハンガリーに来て、まだ一年。
目下のところ、このブダペストで絶賛営業活動中なので、もう少し制作活動による収入が増えるはず、という限りなく願望に近い見通しで、自らを奮い立たせる毎日なのであった。
(いででで。。。ちょっと走ってくるか。)
この半年、四十肩がひどく、前は何十時間も同じ姿勢でも耐えられたのが、今は意識的に半日でストップするようにしている。
そうしないと、リカバリーにめちゃくちゃ時間を要するので、最初から肩を壊していくようなことをしない。
血行を促すためにも、半日同じ作業をしたら、一旦やめて、自重筋トレかジョギングをする。お金がかからないから。
今日のブダペストも灰色の曇り空だ。でも雨は降っていない。
路面に雪も乗っていないから、走れる。
パパッとジャージを着て、アパートを出て道路に走り出た。
ジョギングと言っても、そもそも運動嫌いな引きこもり隠キャの依子にとって、なんとか負担にならず継続できる量として、だいたい3キロ、15分程度である。
たかが15分と言っても、暇なのがなんせ苦手な依子で、いつもは携帯で音楽など聞いて走るのだが、今日は、昨日マクドナルドで会った男性の姿が自然と頭に浮かんで、あれこれ空想してしまった。
(あんな所で日本人と会えるとはね~。
なんだか朴訥とした感じの人だった。出張に来たのだろうか。
天気は悪いけど、ハンガリーを楽しんでくれていたらいいな。)
物思いのおかげで、なんとなくいつもよりウキウキした気分でアパートに戻り、着替えて午後の仕事にとりかかる。
モチベーション維持のために、午後は依頼とは別件の自身の制作。
夜の7時になったら、夕飯の支度。
今日は野菜たっぷりトマトスープとパスタ。一回作るとしばらく保つので、このメニューはこれで3回目。今日でやっと食べ終わる。
安い箱ワインを一杯飲んで、ユーチューブをつけながら10時まで、流して楽にできる小さい作業をする。
それから寝支度をして風呂に入ってベッドへ。
本をしばらく読んでウトウトしてきたら電気を消して12時には寝る。
ハンガリーへ死ぬ場所を求める覚悟で来た、売れない日本人アーティスト依子の、これが変わらぬ毎日である。
6時過ぎには起きて、朝食として大きなマグカップにカフェオレを一杯。
お腹が空いている時はバナナを一本。
バナナは鬱に良いらしい。
ちょっと前まで、いくらでも寝ていたい、なんなら永遠に目覚めなくていい、と思っていたが、45才を超えて急激に身体の衰えを痛感し始めている。
たくさん、ぐっすり寝られない、というのも老化現象の一つである。
そして、軽く片付け、掃除、洗濯などの家事、それからiPadでニュースチェックやゲームなどして、遅くとも9時までには仕事を始めると決めている。
きちんとルーチンとスケジュールを決めて動かないと、際限なくだらしなくなるのだ。
依子は工芸作家を生業としている自営業なので、生来ズボラなダメ人間を自認している依子にとって、必要な自らへの引き締めだ。
とは言え、所詮「売れない」工芸作家なので、週3日は日本料理店でバイトをしている。
バイトのない日は昼と夜休憩を1時間ずつ挟んで、夜10時くらいまで自宅で仕事。土日は制作を休むことにしているが、結局お金もないし暇なのも落ち着かないので、気分だけは楽にしながら仕事をする。
そうすると、気がついたら、しばらく休んでねえな、という感じになってくるので、年に一回くらい貧乏バックパック旅行に出かける。
ハンガリーでもしっかり稼げるように、就労ビザだけは苦労して取得したので、堂々と仕事ができて、ハンガリーの人に対しても営業できるのは、ありがたいことだ。
今日からしばらくは、日本で唯一取引してくれているお得意様からの注文がきているので、それを大量にさばかねばならない。
日本国内にいる時と違って、送料や時間が大幅にとられるのは痛いところだが、仕方ない。こうやって変わらずご贔屓にしていただいているだけで、本当にありがたい。
それに、日本で工房を開いていた時も、めちゃくちゃお世話になった。正直、儲けのためというより、仁義のためである。
依子の制作の仕事は、基本的にはアート寄りなので、自分の作りたい物を、売れる形へ寄せていって、販売する。
注文制作も何度かしてきたことはあるが、決してクライアントの頭の中は覗けないので、100%注文通りのものを納めることはできないし、できたとしても、強烈なストレスがかかるし、期待に添えなかったらクライアントに申し訳ないので、引き受けないことにしている。
それでも、是非とも、と言って頼んでくれる先の取引先のような奇特なクライアントさんもいるので、そういった依頼もたまには挟むのである。
そんな具合だから、今のところ収入の60%はバイト、残りが制作活動によるものなわけで、「そんなの趣味じゃないか」みたいなことも言われたこともあるが、自分がアーティストだって言えば、アーティストなのである。
と、割り切れるようになったのはここ最近。
こういう達観というか、ある種の諦念は、加齢によるものでもあるので、歳をとるのも悪いことばかりではない。
ハンガリーに来て、まだ一年。
目下のところ、このブダペストで絶賛営業活動中なので、もう少し制作活動による収入が増えるはず、という限りなく願望に近い見通しで、自らを奮い立たせる毎日なのであった。
(いででで。。。ちょっと走ってくるか。)
この半年、四十肩がひどく、前は何十時間も同じ姿勢でも耐えられたのが、今は意識的に半日でストップするようにしている。
そうしないと、リカバリーにめちゃくちゃ時間を要するので、最初から肩を壊していくようなことをしない。
血行を促すためにも、半日同じ作業をしたら、一旦やめて、自重筋トレかジョギングをする。お金がかからないから。
今日のブダペストも灰色の曇り空だ。でも雨は降っていない。
路面に雪も乗っていないから、走れる。
パパッとジャージを着て、アパートを出て道路に走り出た。
ジョギングと言っても、そもそも運動嫌いな引きこもり隠キャの依子にとって、なんとか負担にならず継続できる量として、だいたい3キロ、15分程度である。
たかが15分と言っても、暇なのがなんせ苦手な依子で、いつもは携帯で音楽など聞いて走るのだが、今日は、昨日マクドナルドで会った男性の姿が自然と頭に浮かんで、あれこれ空想してしまった。
(あんな所で日本人と会えるとはね~。
なんだか朴訥とした感じの人だった。出張に来たのだろうか。
天気は悪いけど、ハンガリーを楽しんでくれていたらいいな。)
物思いのおかげで、なんとなくいつもよりウキウキした気分でアパートに戻り、着替えて午後の仕事にとりかかる。
モチベーション維持のために、午後は依頼とは別件の自身の制作。
夜の7時になったら、夕飯の支度。
今日は野菜たっぷりトマトスープとパスタ。一回作るとしばらく保つので、このメニューはこれで3回目。今日でやっと食べ終わる。
安い箱ワインを一杯飲んで、ユーチューブをつけながら10時まで、流して楽にできる小さい作業をする。
それから寝支度をして風呂に入ってベッドへ。
本をしばらく読んでウトウトしてきたら電気を消して12時には寝る。
ハンガリーへ死ぬ場所を求める覚悟で来た、売れない日本人アーティスト依子の、これが変わらぬ毎日である。
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