最果ての地へ

いらは

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序章

始まり

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どうも、こんにちは!
ボク、シャナと申します。あ、すみません。ボクの声聞きにくいですか?
よく言えばハスキーボイス、悪く言えばしゃがれ声で申し訳ない。
いろいろとお話しをしたいのですが、ちょうど山の中を逃げている最中なんですよ。
こうも鬱蒼と木々が繁ってる中を逃げるっていうのは、なかなか難しいですよね!おかげで服のあちこち破けちゃって大変です。
何から逃げているって?
ボクの背後の木々がメキメキって、悲鳴をあげながら倒れていってるんですけど、それでだいたい予想つきますよね?
え?無理?
そうか…できればその姿をボクは見たくないのですが…
仕方ない…追いかけてくるヤツの正体をチラッと見ましょう。
ボクもヤツとの距離を確認したいし。
では、振り向きますよ!
はい!見えましたか?
モサモサとした、いかにも固そうな褐色の体毛と、口からはヨダレなのか、なんなのかよく分からないけど鋭い牙から滴り落ちてますね!明らかにボクを餌認識してるよね!
うひぃ!気持ち悪いし怖いですね!
体長は大柄な男よりも、はるかに大きいです!なのに4足歩行でよくまぁ、ボクを追いかけてこれるからすごい。
わぁ!見ましたか?前足についてる鋭い爪!
ボクがわざと狭い木々をすり抜けて、追い付かれないようにしてるのに、いとも簡単になぎ倒しちゃうから恐ろしい腕力です。
普通の人間なら追い付かれて、カブリとなっちゃうけど、ボクのブーツには脚力強化の魔石を入れているら、なんとか追い付かれずにいるし、こうやって状況を説明出来るんです。
しかし…
「いったいイザナはどこで待機してるんですかぁ?!ボクはもう苦しんだけど!」
あぁ、すみません、急に叫んじゃって。
イザナって言うのは、ボクとバディ組んでる相手。
ボクはいわゆる“おとり”なんです。
イザナからある方角に、後ろを走る魔獣を誘導するようにいわれてるんですが…
走れど走れど、その目的地につかないんですよ…
泣きたくなります…
いや、泣かないけど。泣いたらイザナにバカにされますから。
とにかく、この木々の中を通り抜けないと、そろそろ魔力が尽きちゃいそうで…
お?そう言ってる間に、なんか前方が明るいですよ!
平原に抜けれるかも!
「やったぁ!平原!」
へい…
思わず喜んじゃったけど、確かに平原広がってはいます。それはボクの目の前と言えば目の前なのですが…遥か遠く下の方から広がっています。
ボクの足元はあと二三歩踏み出せば、そのまま空中へダイビング出来そうな立派な崖。命の保証はないダイビングになっちゃいますけどね!
「あぁ…どうしよう。また方向間違えちゃったみたい。イザナにバカにされるよ…」
目的地には着かないし、目の前は崖だし、後ろからは魔獣は迫ってくるし…
あぁ…ボクの人生はここで終わるのか…
そんな事考えていたら、目頭が熱くなってきました。
いや、弱気になっちゃいけない。どうやってここを切り抜けようか、考えなきゃ…
そう思った瞬間、背後の茂みが揺れ、さっきまでの勢いは嘘のように、茂みから魔獣が出て来たんだけど
え?この先は行き止まりって知っていたってこと?
魔獣の表情ってあまり見たこと無いけど、表情ある事に気づいちゃった。ここにきてこんな発見できるとは。
なんか勝ち誇ったような表情してるんで、非常にムカつきます。
うぅ…こんな所で終わりにはしたくないのだけど!
ボクはブーツに視線を落とし、魔石を確認した。
ブーツの魔石は力が残ってる。だとしたら、あとはタイミング。タイミングさえあわせれば…
冷静に、冷静にならなきゃって思えば思うほど、自分の心臓の鼓動がうるさく耳に響いてくる。おまけに変な汗もだらだら出てきて、寒いのか暑いのかわからない感覚になってきたんだけど!
(落ち着け…落ち着いてタイミング合わせるんだ…)
ゴクリと、ボクが生唾を飲むのと同時に、目の前の魔獣はヨダレ増し増しの大きな牙を向け、ボクに飛び込んできた。
きたー!とボクは必死に地面を蹴り、真上へとジャンプした。魔石のおかげもあり絶妙なタイミングで、ボクは魔獣の鋭い牙の餌食にはならずに済んだ。
高くジャンプしたことで、目の前から獲物を見失った魔獣は辺りを見回していた。
やったぁ!回避出来た!あとは着地!
まだ上にボクがいることを認識してない、今がチャンスだ。
そのまま魔獣に着地してしまえば、気絶させられるはず!
なんて賢いんだろう、自分で自分を誉めてやりたい!
ブーツの魔石を見ると、光っているのが確認できた。魔力は残ってる。あとはこのまま魔獣に向けて落ちれば…
行けぇ!シャナ!
かいしんのいちげきだ!
ズン!と地響きがなり、土煙が巻き上がって、ボクの視界はかすみ、足元も見えなくなった。
だけど、柔らかい感触が足元から伝わってきたから、魔獣に着地したのは確かなはず。
ちょうど風が吹き、土煙が吹き飛ばされ視界が晴れた。ボクは恐る恐る足元をみてみた。
おぉ…スゴいぞシャナ!
これはイザナに誉められるはず。方向間違えたことを帳消しに値するぞ。
なぜかって?ボクの足元には拳ほどの魔核石が転がっているからだ。
ボクは思わずガッツポーズしてしまった。
上手い具合にボクの一撃が魔獣の急所に入り、気絶どころではなく、なんと魔獣を仕留める事が出来たからだ。
ボクは転がっている魔核石を拾い、ニンマリと微笑んだ。
「ふふん、ボクだってやれば出来るじゃん!」
ボクは上機嫌で鼻歌混じりに腰のポーチから、協会のマークが付いた袋を取り出し魔核石を封印した。
勝利のポーズと、言わんばかりに両腕を空にあげた瞬間、足元から、あまり聞きなれない音がした。
聞きなれないというか、聞きたくない音というか。
そっと立ってる地面を見ると、明らかに地面に亀裂が入っていた。
まぁ、そうだよね。魔獣が魔核石になるくらいの衝撃与えたからこうなりますよね…
次から次にアクシデントが起きるなんて…少しは休憩させてくださいよ。
ボクは亀裂が入っている地面を跨ごうと、そっと片足を上げた。
が、ミシミシと地面から聞きたくない音が、ついに出てしまったのだ。慌ててジャンプをしようと足に力を込めたが、ボクの視界は変わらなかった。
変わらないどころか、さっきまで立っていた地面が、目の高さになってしまったのだ。
そう、もう魔力がなくなっていた。
「ひぃぃぃぃ!!」
情けない声を出したとこで、ボクの身体は宙には浮かない。
かといって、ボクが持ってる魔石は、今採ったばかりの魔核石だけ。
しかも浄化してない魔核石なんて、素人には危なくて扱えるものじゃない。
「うぁぁぁぁぁ!イザナァァァァァ!」
落ちていくボクは、情けない声で助けを叫ぶ。
何かの影がボクの頭上を通り抜けた。
ボクは、希望を含んだ目でその影を見上げた。
見上げた…見上げてまた、涙が出て来た。
頭上を通り抜けた影は、翼を持った魔獣だったのだ。
体毛などない、薄い皮で出来た翼。胴体はポッテリと中年のような、真ん丸な形に鋭い鍵爪の生えた手足に、細く尖った嘴から鋭い牙が見えている。これは確実に肉食ですね。
どうやらボクの人生は今日までと、決まっていたようだった…
翼を持った魔獣は翼を動かし宙に留まり、距離を縮めることなくボクを見つめていた。
ボクはこのまま地面に叩きつけられ人生を終えるのか、それとも、あの翼を持った魔獣に喰われて死ぬのかの二択。
ねぇ、どっちが痛くないでしょうか。
なんて考えていたら、いきなり魔獣がボクに向かって飛行しだしてきた。
風の抵抗を無くすためか翼をたたみ、あんなにあったボクとの距離がどんどん縮んでいく。
「あぁあぁ!」
ものすごいスピードで迫ってくるのを、見るに耐えられなくなり、ボクは目をつむった。
「楽に死なせて下さいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
そう、叫んだと同時に鈍い音がした。
そして、ボクの身体はなにかに掴まれ、宙に浮いた。
「……あれ?痛くない…」
「ったく、アホが…あれほどコンパス使えと言ったのに」
恐る恐る目を開けると、遥か遠く真下に平原が見えていた。
顔を上げると、淡いブルーの髪の毛が目に入った。そのきれいな髪の間から眉間にシワを寄せて、いかにも“不機嫌です”と言う顔でボクを見下してる人物が。
しかも荷物を運ぶように、ボクを腰に抱えていた。
え、こういう時ってお姫様抱っこが主流だよね?
なんなの?小脇に抱え込むって。
文句を言いたかったけど、まだ空中にいる状態で下手に口出ししたら、空中に放り出されるのかも知れないので黙っている事にした。
ちなみに、この背中に翼を付けた見た目割りとカッコいい人物は、先ほどから言ってるバディのイザナです。
彼の背中の翼は、先ほどのボクを襲った翼を持った魔獣のものだと思う。その魔核石を使って、ボク達は空中を飛んでいるのです。
魔石石があることで、大抵の事が出来るのだけど、それにはいろいろ資格とか規約とか諸々ありまして…それにについては、後でゆっくりお話ししますね。
たぶん…後で…イザナの説教が終わったら。
ボクを抱えたイザナはしばらく滑空し、岩山にある洞窟みたいな場所に降り立った。
降り立ったのはいいけど、着地するなりボクを荷物のように放り投げたのである。
人権侵害…
「ちょっと!ヒドイじゃないか!放り投げるなんてさ!思い切り背中打ち付けたんですけど!」
背中をさすりながら、イザナに文句をいう。だけど、イザナは先ほどの翼を持った魔獣の魔核石を見つめていた。
ボクの声には反応してくれてない。イザナはため息をつき、その魔核石をポケットへといれ、ジロッとボクを睨んだ。
ひぃ!ある意味、魔獣よりも怖いんですけど!
「なにか言う事あるよな?」
冷めた目でボクを見るイザナ。
ボクは乾いた笑いしか出なかった。
それでもイザナの眉間のシワは無くならない。
ボクもため息をつき、頭を下げた。
「えーと、ボクを助ける為に、貴重な魔翼獣の魔核石を使わせてすみませんでした…」
棒読み感はかくせないが、一応謝らないとね…
「あのな…シャナ…オレが言いたいのは、なんで方向を間違える?コンパスと特別な魔石を渡しただろう!?
道具も使えないなら、マジで今度こそ置いてくぞ?」
「えぇ!?置いてくのだけはよしてよぉ!それにコンパスはちゃんと使っていたんだってば!
ただ、逃げてる途中で壊しちゃって…」
そうなんだ。使っていなかった訳じゃないんだ。
自分が方向音痴のは仕方ない。だからコンパスを大事にしてたのに、なんでか走っている最中に壊れちゃったんだよね。
不思議だよね。
「どこまで運が無いんだ?お前は…
いつになったらその方向音痴は治るんだ?」
そう吐き捨てるようにイザナは呟いて、オデコに手を当て仰いだ。
方向音痴がなおるならとっくに治しているんだけどね…どうやったら治るかボクも知りたいよ…
そう言いたかったけど、これ以上イザナを怒らせたら、本当に置いていかれそう…
「まぁ、今回もなんとかなった訳でさ」
話題をそらそうとボクがいった瞬間、またギロリとイザナは睨む。
あれ?逆効果?しかし、ハンターさんのマジオコは怖いよう。
「万事オッケーって言いたいのか?オレが間に合わなかったら、死んでいたんだぞ?魔獣に食われていたかもしれないんだ!
いいか?オレは確かにあんたを北の大地、最果てへと連れていくことを請け負った。だがな、バディを組んで仕事をするのはマジで勘弁だ。素人に近い見習い未満が、ハンターとバディ組むなんて、ここがイカれてるヤツしか居ないんだよ!」
そう叫ぶように、激しく言いながら頭を指差していた。珍しく、イザナが大きな声を出してる。しかも長々と。
でもまって?もしかしてこの内容って、イザナが…ボクの身を安じてくれた?
あの仏頂面のイザナが?
なんだろ、キツイように聞こえるけど、ボクの事を心配しての小言かと思うと思わずにやけちゃう。
「…!なんだ。なにをにやけてる。気持ち悪い。
ニヤニヤするな」
「え、別にニヤニヤなんて…ふふふ」
まぁ、自分でも顔が緩んでいるって分かっているけどね。
「クソ。あの時、お前の依頼なんて聞くんじゃなかった」
イザナは頭を掻きながら、不機嫌そうに洞窟の奥へと入っていった。ボクも怒られない距離を保ちながら、そのあとに続いた。
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