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1章 絶望と始まり
013_行商隊
しおりを挟む「いらっしゃい! 商品は沢山あるから、一人ずつ並んどくれよぉ!」
行商人は大きな荷馬車で群がる奴隷達を少しずつ捌いている。
荷馬車は何台かあって、どの荷台も側面が開く様になっており、中の商品を見やすくするなどの工夫がされている。
こう言う構造であれば、商売の度に積み替える必要も無さそうだし、効率的だ。
各地で旅をしながら商売をする彼らなりに工夫がされている。
荷台毎に扱う商品が分かれて居るようで、酒や日持ちする食品、アーティファクトなど、さまざまなものが並んでいる。
意外にも人気なのは各地の名産品だ。
日頃の会話で、各々の出身地である名産品の話なんかをするものだから、聞いたことのある名産品は片っ端に買うんだと言う者までいる。
お金の使い方は奴隷毎に異なるが、ヤーブルク人に関してはお金を貯める必要がないので使いたい放題だ。
勿論、中には元の生活よりこちらの方が良い、なんて奴隷までいる。
俺のお目当てはアーティファクトなので、アーティファクトを売って居る荷台へと足を運ぶ。
因みにニックは荷台が見えた途端に走り出し、どこかへ行ってしまった。
「いらっしゃい。珍しいね。あんたヤーブルク人かい?」
「はい。そうですが」
「だろうね。こんなアーティファクトを欲しがるくらいだから」
ニックが言うにはそこそこ遊べるおもちゃと言う話だ。
当然、奴隷から解放されたい者にとってそれは完全に無駄遣いである。
だからこのアーティファクトを売る女性の店員はヤーブルク人かと聞いたのだろう。
ヤーブルク人が奴隷から解放されることはないのだから。
「どんな商品があるんですか?」
「そうさねぇ。音の出る石板とかどうだい? ぐっすり眠れるよ」
彼女が言う石板は魔結晶を動力に動く音が鳴る石板だ。
なんだか落ち着く曲が流れており、音の大きさも心地いい。
確かにこれなら夜もぐっすりだろう。
残念なのは一つの曲しかないのか何度も同じ曲が流れる事くらいか。
「お気に召さないかい?」
「面白い商品だが、生憎寝付きはいい方なんです」
「そうかい。ならコイツなんか面白いよ。空間を絵にするんだ」
そう言って彼女は水晶の入った箱を指差す。
「空間を絵に?」
「ああ、丁度一枚持ってるから見てみな」
見せられたのは鮮明に目の前の彼女が描かれた一枚の紙だ。
その絵は、手で描いたとは思えない程忠実に目の前の彼女が再現されている。
「凄いですね」
こんな物は王都でも見たことがない。
きっと天然のアーティファクトで、相当価値の高い物に違いない。
「だろ? 私もコイツを初めて見た時は驚いたよ。で、今あんた、高そうだなと思ってるだろ」
「え? そりゃあこんなの安いわけないですからね」
「こう見えてコイツは人工アーティファクトでね、結構簡単に作れるみたいでね。今かなり出回ってる流行りもんさ」
荷台に大量に積んである箱を見つめて彼女はそう言った。
「だから案外安いもんだよ」
「確かに感動はしましたが…」
「これも違うのかい? あんたが求めるのはどんな商品だい?」
「もっとこう、危険から身を守ったり出来そうなものとかないですか? 坑道までの道のりにはよく魔物が出るんですよ。兵士さんが守ってくれますが、やっぱり不安で」
流石に脱走したいから武器になりそうな物を売っていないかなどと聞けるはずもない。
ここは無難に魔物への対抗策としておくのが無難だろう。
「あぁ、そう言うのはアンタらには売れないよ」
「兵士らも飼い犬に手は噛まれたく無いってね」
「そうですよね」
「なんだい。予想してたって感じだね?」
「そりゃあ、奴隷が武器になる様なものを持ってちゃあ危険ですからね」
「そう言うことさ」
「因みに人工アーティファクトで魔物と戦う事なんてできるんですか?」
「確かに人工アーティファクトは出力が少ないからね。そう思うのも無理はないが、天然と違って人工は効率的にダメージを与えられるように工夫が出来るからね。案外使えるものも多いよ」
「へぇ、結構凄いんですね」
「あぁ、シンプルに切れ味を鋭くするものや刺突の際に柄から風を噴射して推進力を足したり、いろんな物があるよ」
「いざという時は行商人の方々も戦えますね」
「はははっ、確かに。その度胸がありゃあ、それなりに戦えるかもね。でもそう言うのは護衛に任せきりさ」
探索者をやっていた俺だから命を賭けて戦うことが当たり前に思えるが、普通の商人や村人にとって戦いは怖いのだろう。
「けどアンタ面白いね。いいよ。ちょっとこっちきな」
彼女は俺を近くまで呼び寄せると耳元で囁いた。
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