12 / 19
1章 絶望と始まり
012_日常
しおりを挟む「やあ、ノア君。君が来てから一月位は経ったかな? そろそろ此処の生活にも慣れてきた?」
「レイクさん。はい、少しは。最近は前より体力も付いてきた気がします」
「そう。それは良かったよ。君の相棒、ニック君だったかな。ちゃんと見てくれてる? 彼は面倒見の良い子だから心配ないと思うけど」
「ご心配ありがとうございます。いつもよくしてもらってますよ」
「そっか。あぁ、そう言えば…ノア君は魔族への裏切り行為で奴隷落ちしたんだよね」
「…えっと」
「あぁ、僕たち責任者は、誰がどんな事をして奴隷になったのか大体知らされてるんだ。だから、あまり警戒しなくても良いよ」
「そうだったんですね」
「それに、僕自身も魔族至上主義って訳じゃないからね。…あ、これ兵士さんには内緒ね」
「ははは…。まぁ、真偽は置いておいて、此処へきた理由は事実ですね」
「そう。でも此処を治める魔族、ピエトロにはそうやって伝わるからね。彼は他の魔族への体裁やプライドが凄く強いから、そんなノア君は目に付くんじゃないかと思って」
「なるほど、できるだけ存在を消さなければいけませんね」
「うん。経緯が先に伝わってしまってる以上、どこまで効果があるかは分からないけれどね。僕では大して何も出来ないけれど、君に死んでほしくはないから。できる事は協力するし、何でも言ってね」
「ありがとうございます」
レイクはそう言い残すと食堂の厨房へと帰っていく。
彼はああやって色んな奴隷の事をよく見て細かな所にも気を配れる人間だ。
組織の二番手や秘書なんかやったらかなり優秀そうだな。
さて、今日の食事も済んだし、部屋に帰って寝るとするか。
「おお、ノア。随分話し込んでたな」
「ああ、此処を治める魔族の話でな。俺の経緯を考えると目につくんじゃないかって、心配されたんだよ」
「あぁ…確かになぁ。奴と顔を合わせんのなんざ視察くらいしかねぇが、気に入らない奴はとことんって感じだったな」
「その視察ってのはよくあるのか?」
「たまにだな。大体年に一、二回ってところか」
「前回はいつだったんだ?」
「…約一年程前だ」
「なるほどな。そう言うことか」
「まぁ、今は明日のことだけ考えようぜ。気にしたってピエトロがいつ来るかなんて俺達には分かんねぇんだからよ」
「そうだな。事前に分かれば、レイクさんが教えてくれるだろうしな」
「ああ、だから明日は楽しもうぜ」
「そうだな」
「よし、それじゃあ明日の為に、今日はもう寝るぞ」
ニックが楽しみにしている明日は、以前聞いた行商人が来る日だ。
その為、酒が飲める酒が飲めると今朝からずっとうるさかった。
きっと、相当楽しみにしていたのだろう。
この行商人は年間で四、五回程度来る様で、思ったより頻度が高いようだ。
俺も知らなかったが、ヤーブルクの南側にはもう一つ大きな国がある様だ。
国の名前をバーエルと言うらしく、そう言ったところと行き来するために通してやれば入国税で結構儲かる様だ。
ーーーーーーーーー
〝バンッ〟
個室の扉が強く開けられた音によって目が覚める。
「もう直ぐくるぞ! 今日はいつもより早いらしい!」
個室とは言えこんな風に起こされるんじゃプライバシーのかけらもないじゃないか、などと頭の中では文句を言いつつも起き上がる。
ニックは慣れているのか特に気にした様子もなく、さっさと支度を始めて居る。
「準備できたらサッサと朝メシ済ましちまうぞ」
「そうだな」
行商人が到着する前に朝食を済ませ、そのまま食堂で待機する。
「嬉しそうだな、ニック」
「そりゃあもう、酒が飲めるんだから楽しみだろう。奴隷になる前は毎日晩酌してたんだ。今からつまみは何にするかで頭はいっぱいだぜ」
「あまり使いすぎるなよ。その金は家に帰るための金でもあるんだから」
「わ、分かってるさ。俺だって早く帰りてぇしな」
「それなら酒は我慢した方がいいんじゃないのか?」
「そ、そりゃあねぇぜ…」
「冗談さ。息抜きも必要だろ」
「おう、ありがとうな。使い過ぎないように気をつけるぜ」
「そうだな」
「だけど、今日はノアも付き合ってくれるんだろ?」
「…少しだけだぞ」
「おう!」
そう言うニックの顔はやけに嬉しそうだ。
「嫁の作ったツマミがご馳走できねぇのが残念だぜ」
「自分で作ればいいじゃないか。ニックは料理長なんだろ?」
「飲んでる時に包丁は握りたくねぇ。それに、実の所俺が料理するより、アイツの方が美味いんだ」
「へぇ」
「また今度食いに来いよ」
「…此処から出られたらな」
「…すまん」
少しだけ重い空気が流れるが、特段俺は気にしていない。
どうせいつか逃げ出すつもりだしな。
そんなことを知る由もないニックは気を使っているようだ。
「来たぞ!」
食堂の入り口で待機していた奴隷が、食堂内に響き渡る様に大きな声で叫ぶ。
奴隷達は皆、行商人が来る日を楽しみにして居るため、食堂内はてんやわんやの大騒ぎだ。
「ほら、行くぞ」
「あ、あぁ!」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
リアルにファンタジーのほうがやってきた! ~謎の異世界からやってきたのは健気で可愛いモフモフでした~
ねこのにくきう
ファンタジー
これは日本に住む一人の人間と謎の異世界から来た一匹のモフモフが紡ぐ物語。
現代日本に生きる一人のしがない人間と、そこに突然現れた一匹?のモフモフが出会うとき、一つの物語が動き出す。
どうやらこのモフモフはタイジュ様とやらに言われてここに来たらしい。えっ、なんで、モフモフがしゃべってるの?新種の生物発見なの!?どうやら目的は口にくわえて持ってきた木の枝を育てることとある場所を訪れることらしい。なんか、厄介ごとの匂いがプンプンなんですが・・・。
司が出会ったモフモフの正体とは?謎の異世界に待ち受ける真実とは?そして、司はそれを知った時にどんなことを思い、考え、どんな行動をとるのだろうか。モフモフ系ほのぼのファンタジー開幕です。
※お気に入り登録ありがとうございます。読んでいただいている方々に感謝いたします。応援頂けると励みになります。
※あらすじ、タイトルについては変更する可能性があります。R15は保険です。1話おおよそ1500~2000文字としています。更新は基本的に2日に1回ほど、19時を目安に更新します。
※小説家になろうさんでも掲載しています。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる