恩讐の貴方に

怜悧(サトシ)

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種子

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 声が掠れたのは、残った酒のせいだけではなかった。 
 今までに出会ったことの無い人種に体を強張らせて、恐る恐るといった風情で見上げた。 
「そんなに怖がらなくていいですよ。内臓売ったりとか危険な仕事をさせる訳じゃない」 
 静かに言葉を告げて、男は身を屈めて床に転がる東郷の肌を指で辿る。 
 ぞわぞわと背中から這い上がる嫌悪感に、がくがくと奥歯が震え始める。
 男が醸し出すオーラも怖くて、合気道でどんな相手にぶつかった時にでも恐怖はなかったのに、まったく強そうにも見えないこの優男の雰囲気に飲まれていた。

 「大丈夫。アンタも覚えがよければすぐにキモチが良くなるお仕事だ。一回の仕事で三十万になることもある、百回くらいで完済できるだろう」 
 ゆっくりと男の指が伸びて、震える彼の肉芯をやんわりと捉えた。 
「や……ッ、ヤメ…ろ……ッ」 
 触れられる指の気色の悪さに身動きの取れない全裸の体をバタバタと揺すってどうにか這って逃れようとする。
 暴れる東郷の頭をぐいっと掴んだ男は、体を逃れられないように押さえつけてその顔に拳を振りあげた。 
「ぐッ、イッ……イヤだ……さわン、なッ……ぐ、イッ」
 男は彼の頭を容赦なくぐったりとして抵抗する気力がなくなるまで拳で殴りつけた。 
「……オマエには拒否権は無いよ」 
 冷たい言葉を耳にし、朦朧としてくる意識の中で男の指が器用に彼の中心部を擦り付けるように動き出す。 
「ッいや、ヤダ……ッ、ヤダッ」
 這い上がってくる痺れと快感に翻弄されて、混乱と男に性を弄ばれる嫌悪感と恐怖に背筋を震わせ、声も出せずにしゃくりあげた。  
「怯えなくていい。最初から、そういう態度してれば、痛い目をみないですんだものを」

 男はプラスチックのケースを懐から取り出して、東郷の縮んだままの肉竿に丹念に塗りつけ、開かれた脚の内側の窄まりにも塗りこむ。 
「慣れれば、直ぐ男なしでは生きられない体に仕上がる。ガタイも大きいし、普通の男娼じゃあ、客は引けないだろうから、売り先も考えないとな」 
 塗られた薬剤が体温で蕩けて肌に吸い込まれて、熱く発熱してくる。 
「こんなの……いやだ…、夢だろ。こんなの……ッや、やだ」  
「ちゃんと拡げてあげて、苦しまないようにしてから、しっかり稼げる店に売り渡す約束をしているんだ……君にとっては悪い話ではないよ」
 息苦しさに顎をあげて荒い呼吸を繰り返すと、指がぐぷうと内部の肉筒へと深くめり込んでいく。
 見知らぬ男に肉襞を巻き込むようにぐにぐにと弄り回して顔を覗き込んで、殴って傷ついた頬をそっと撫でる。
「好きで痛みを与えるわけではないよ。暴れなければ、痛いことも辛いこともしない。実家へも連絡はしないでちゃんと大学に通っているようにすることもできる」
 熟れてジンジンと痺れが走る内側の内膜を擦られる度に、東郷の体はひくんひくんと痙攣して、男の指の動きをきゅっと食い止める。
「息を吸って、体から力を抜くんだ。痛めつけたいわけじゃない」
「ッは、ああ、はあ、ッやあ、はあ」
 耳元に囁かれる言葉は優しく響き、東郷は言われるがままに息を吸い込んだ。
 息を吸うと痛みが確かに和らぎ、体の力を抜いて霞む視界の中で、自分にまたがる男をじっと見上げた。
「ちゃんと言うことをきけば、実家に被害は及ばないからな……仕事が出来る体にしあげるだけ、だ」
 諭すように言葉を告げられて、両脚をひろげられ指を三本押し込まれた。
 東郷は恐怖よりも、目の前で丹念に体を扱おうとする男のどこか傷ましげな目を向ける表情にとらわれた。
 このひとも、しごと、だから……っ。
 頭の中を蕩けさせる快感の熱波が、毛細血管の先まで飲み込んでいく。
「……う、ふッ、うう……ああ、ッあつ、ッうう、あつい、あついッうう、そんなッ……」
 ぐちゅぐちゅと濡れた音が響いて媚肉が指を飲み込んでいき、穴の口が開閉を繰り返しはじめる。
 ずりゅずりゅと指を折り曲げられ圧迫が増す肉壁への刺激に、東郷は全身を震わせる。
 迫りあがる射精欲がその場所を指で捏ね回される度に増幅してたまらなくなっていく。
「ッああ、あつい、あつい……ッああ、や、も、っでちゃ、ああッいく、いいッ――ッ」
 びゅくっとペニスから白い液体が放たれて、腹部をぬらぬらと濡らす。
「よしよし……お尻でイケたな。お前かなり素質あるかもしれねえな。男を悦ろこばせながら、オマエも気持ち悦くなれるように仕込んでやるよ」
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