恩讐の貴方に

受粉

※８

　何度目かの交雑の後で、ベッドの上へ縺れこんだのはいつだっただろうか。
　高坂は自分の腰の上に跨って、肉欲に夢中になって腰を揺らめかせ続ける男を霞んだ視界でとらえた。
　さすがに……やりすぎた……けど……。
　僅かに湿った触れあう肌が熱を伝え、男と性の営みをしているということを忘れてしまいそうな強い快感と倒錯に、既に意識をもっていかれそうだった。
　こんな誘いなど、受けるつもりはなかったのに。
　一度味わってしまったら抵抗などできない、強すぎる快感と欲情に簡単に煽られた。
　何度、その堅い男の肉体の奥に慾を吐き出しただろうか。
　お互いの体液が混ざり合い、すでに身体はどろどろなのに止められない。
　東郷はスプリングを利用して反動をつけ汗と体液に濡れた腰を揺さぶって、高坂の欲を味わうように粘膜へとぬちぬちと擦り付けて、蕩け切った表情で視線を絡ませた。

「ンッ……っふ、う……っん、は……っあいい、血はあらそえ、ないな……。やっぱり、高坂行将の息子だ……な」

　恍惚とした表情で吐息と共に告げられた名前に、高坂は身をこわばらせた。
　ここに来てから、高坂はこの男に名前は名乗った覚えはない。
　なのに東郷は、高坂の父親の名前を口にしたのだ。
　高坂の反応に、東郷は脚を拡げて高坂の腰にぐいと強く太股を押し付けて、ちろりと舌先で唇を舐めて更に深い箇所まで肉を誘い込んだ。
「な、ん、だと……」
　まだ小学生だった彼にはあまり覚えがなかったが、水商売をしていた父親は、彼がまだ幼い時に無残な殺され方をした。
　犯人は桜星会の関係者だと噂されていたが、まだ捕まってはおらず、そろそろ時効になるはずだった。
　いつかこの手で犯人を捕まえたいと思ってきて、なんとか苦労を重ねて刑事になったのだが、まったく手がかりすら追えない状況だった。
　ようやく暴力団担当である三課にまわされて、桜星会を追うことができるようになったところである。
　……こいつは、それを知っている。
　なぜ、知っている。
　
　事件の関係者なのか。考えたくはないが、もしかしたらこの男が父を殺した犯人なのだろうか。

　高坂は、カッと脳髄まで駆け上がる衝動のままに腕を伸ばして力をこめると、東郷の首を掴んで軽く締め上げる。
「――ッぐ……う……ッぐぇ……ッううう――ッぐうう」
　雄を咥えこんだアナルの内部は苦痛に反応するようにきつく締まり痙攣して、心地よく高坂を包みこんだ。
「何故、お前は俺の名前を知っている。何故、俺の……ッ」
　返答次第では、ただではおかない。徹底的に調べて証拠を見つけ出して、刑務所にぶちこんでやる。
　殺意めいた自己の冥い心の乱れに彼自身も驚きつつも、目の前の東郷を睨みあげる。
　苦しみにもがくように拳を震わせているが、ビクビクと体を震わせながら、彼は絶頂へと達しているようである。
「ッ――っく……そッ」
　あまりの圧迫感と混乱の中で、搾り上げられる刺激に奥深い場所におのれの種を植え付ける。　
　ぐったりと力が抜けていく東郷の身体に気づいて、高坂はようやく首から手を外すと押し殺した声音で尋ねた。
「何故……、アンタが俺の父の名前を知っている」

「かはっ……ッ、う……高坂行将は、俺の……最初の……男だ」

　高坂の質問が聞こえたのか、朦朧として焦燥しきった表情の中、東郷は唇のみに薄ら笑いを浮かべた。
　その言葉に唖然とする高坂の胸板へと倒れこむと、満足したかのようにそのまま意識を手放した。